車のLCAとは(概要編)
【はじめに】
近年は環境意識が高くなり、自動車にも環境性能が求められるようになってきました。
車の環境性能は排気ガスが主に語られてきましたが、よりトータルな指標としてLCAが使われるようになってきています。
【LCAとは】
Life Cycle Assessment(ライフ・サイクル・アセスメント)の頭文字をとったもので、日本語に直訳すると、商品の一生の評価という意味です。
製品が資源採取→製造→輸送→販売→使用→廃棄→再利用される過程で起こる環境負荷を算出し、積み上げるものです。
単に燃費の良い車が環境に良いと思考停止してしまいがちですが、これを防ぎます。
また、車だけでなく企業活動のエネルギー収支にも指標として用いられることがあります。
信頼性確保のため、第三者機関によるレビューが行われたものが公表されることが多いです。
【車のLCAの内訳】
メーカーの公表するLCAはCO2、NOx、PM、NMHC、SOxの5つで公開されています。
〈CO2〉
工場での活動量はCO2に置き換えられます。
リサイクルするときに電気分解を要するアルミニウムやニッケル、等の材料についても電力をCO2換算します。
車が走行した際には燃料の量に比例して排出されるため、燃費の値がそのまま直結します。
CO2は人間の呼吸にも関係する身近な物質ですが、地球温暖化の原因物質として有名になりました。しかし地球温暖化とCO2の関係には諸説あります。
(中にはどんどん生産したほうがいいという説も)
〈NOx〉
NOxは汎用樹脂製造において排出されます。
汎用樹脂とはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等があり、樹脂製の自動車部品の他、液体の容器や包装素材にも使われます。
NOxは排出ガスにも含まれるので走行過程でも出ます。
二酸化窒素(NO2)は、のど・気管・肺などの呼吸器官に悪影響があります。
〈NMHC〉
NMHCとはNon-Methane hydrocarbons(ノン・メタン・ハイドロカーボン)の頭文字を取ったもので揮発性有機化合物のうちメタンを除外したものです。
メタンは光化学的な活性が低く、除外されるため、この名前がついています。
光化学スモッグの原因となる他、近年ではVOC(Volatile Organic Compounds=揮発性有機化合物)の名称で、シックハウス症候群や、シックカー症候群の原因として知られています。
HC(ハイドロカーボン)はガソリンを代表とした燃料の総称です。
排気ガスのうち未燃焼成分がHCとして出てきます。
製造過程では塗装や接着剤の乾燥過程で出てきます。
〈SOx〉
硫黄酸化物のことで、石油や石炭などの化石燃料が燃えるときに発生します。
高度成長期の工場からの煙によく含まれていたほか、かつては燃料に多くの硫黄分が含まれていたためSOxは大量に排出されていました。
2005年以降ガソリン・軽油はサルファフリーとなっています。
しかしサルファフリーの定義は10ppm以下となっているので、走行時のSOx排出はゼロにはなっていません。
酸性雨の原因になるほか気管支炎やぜんそくの原因になります。
出典:サルファフリー 石油連盟
http://www.paj.gr.jp/eco/sulphur_free/
【各ライフステージ】
LCAに記載されているステージは素材製造、車両製造、走行、メンテナンス、廃棄です。
〈素材製造〉
サプライヤーから仕入れる前段階でかかる排出量を聞き取ったものです。
〈車両製造〉
自動車メーカー内で行われる製造過程でかかる排出量を見積もったものです。
〈走行〉
10年10万キロをJC08モード燃費で換算したものと記載されています。
〈メンテナンス〉
メンテナンスで交換する部品の製造・輸送・廃棄にかかる排出量を聞き取ったものです。
〈廃棄〉
リサイクルを含めた廃棄でかかる排出量を聞き取ったものです。
出典:The MIRAI LCAレポート
https://www.toyota.co.jp/jpn/sustainability/environment/low_carbon/lca_and_eco_actions/pdf/life_cycle_assessment_report.pdf
【車のLCA算出動向】
メーカーが公表するLCAは以前は実験的に行われていました。
ハイブリット車や電気自動車など環境性能を売りにした車が「本当にエコなの?」という疑問を持たれたため、その回答としてメーカーが公表していたのが始まりです。
環境への対応は、企業や車の持続可能性を評価することにも繋がるので、現在はあまり着目されていませんがとても大事な指標になります。
近年だと公表するケースだいぶ増えてきました。
メーカーごとの公表率については後ほどランキング形式でお知らせします。
【環境負荷の歴史】
車は元々環境負荷の大きいものでした。
排気ガスは大気汚染を生みます。
工場は金属を加工するため大量の水を使い、水に混ざった様々な物質が水質汚染を引きおこしました。
PM2.5なんかも中国の車の出すPM(パティキュレートマター)が飛来するものです。
LCAでは対象になりませんが、自動車メーカーは様々な(あらゆると言った方が良いくらい)材料を扱うため、様々な環境負荷物質の低減に取り組んでいます。
主に金属が多いですが、代表的なものを挙げると、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムがあり、環境仕様として車のスペックに載っています。
2002年の自工会自主規制以降全て代替材料が使われるようになっています。
鉛は電子部品のハンダとして使われていましたが今はペースト状の代替物質が使われています。
バッテリーにも使われていますが、全て回収するように整備されています。
(バッテリー液は絶対に捨てないでください)
水銀は蛍光灯・ディスチャージヘッドランプで使われていました。
水銀は水俣病で有名になりましたが人体に有害な物質のため制限されています。
カドミウムは自動車ではメッキの材料として古くから使われてきたほか、顔料やニッカド電池としても利用されてました。
カドミウムはイタイイタイ病で有名になりましたが、人体に有害な物質なため制限されています。
六価クロムはネジのメッキによく使われていました。
さびにくく、やわらかいのでドライバーへの食いつきよく、へこんでも元に戻りやすいので、とても優秀でした。
しかし有害だったので現在は三価クロムに置き換わっています。
他にもカーエアコンにフロンガスが使われていましたし、クラッチやブレーキの摩擦材アスベストが使われていましたが、今は使われていません。
フロンガスはオゾン層の破壊→紫外線の増加に繋がり、アスベストは中皮腫というガンの原因になります。
出典:『環境負荷物質削減に関する自主取組み』の進捗状況について2014/8/21 日本自動車工業会
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/haiki_recycle/car_wg/pdf/032_04_01.pdf
【LCAの現実との乖離】
〈モード燃費〉
よく知られていることですが、モード燃費と実際の燃費は乖離しています。
本来の排出量を見積もるには、より現実の燃費を使う必要があります。
燃費については下記のノートをご覧ください。
〈CO2以外の排出ガス〉
排出ガスに関しても計測モードで計測したものを使っているので、実際の走行ではまた違った値が出ると予想されます。
フォルクスワーゲンの不正ソフトでも明らかになったように、現実の走行ではエンジンの運転状態が変わり、排ガスの浄化が上手に出来なくなる可能性が高いです。
〈使用年数〉
LCAの見積もりには10年で算出されていますが、自動車の平均使用年数は約13年です。
車の使用年数は年々伸びる傾向にあります。
車そのものの耐久性の向上の他、経済状況から車の買い替えを控える人が増えているのが原因だと思います。
使用年数が伸びると、生涯走行距離が伸び、メンテナンスも部品を変える回数が増えます。
出典 自動車検査登録情報協会 主な車種の平均使用年数
https://www.airia.or.jp/publish/file/r5c6pv000000budm-att/r5c6pv000000bue1.pdf
【あとがき】
本当に環境に良いかどうかは、現実のLCAが計測できればそれが全てです。
しかし、現実と乖離している部分もあります。
エコカー減税は現在だとJC08モードの排ガス規制値、燃費目標との差で減税額を決めていますが、本来の環境性能で測るならはLCAを使うべきです。
そうすれば全メーカーLCAを絶対的な尺度で公表することになりますし、法律に関わってくるので、算出方法や認定もメーカー共通化せざるを得ません。
燃費が段々と現実になるように環境性能もLCAに移行していって欲しいと思います。
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