トルクと馬力
車分野にトルクって何?とか馬力って何?
という質問があるのでその部分に着目したノートを作ります。
下記のノートからのスピンオフです。
【トルク】
回転方向の力のこと。ねじりの力。
単位はニュートンメーター[N・m]です。
1メートルの棒の片方が軸の中心で、もう片方に円周方向に1Nの力を加えたとき、軸にかかる力が基準になっています。
単位の[N・m]を見ると分かりますが、テコの原理で棒の長さが長いほど軸にかかる力が増える(比例する)ため分母ではなく分子にmが付いています。
車ではSI単位系への移行が不十分であるため、[kg・m]がよく使われます。
1Nという単位のイメージが難しいですが、kgならばイメージしやすいと思います。
ちなみに1kg(重)=9.8Nです。
【トルクのイメージ】
国産車の代表的なハイパフォーマンスモデルであるGT-Rを例にとって力のイメージを伝えたいと思います。
GT-R の最大トルクは66.5[kg・m]なので、エンジンの出力軸に半径1mの円盤を付け、その端っこに66.5kgの人がぶら下がると、どんなにアクセルを踏んでもちょうど釣り合うのでエンストします。
あんなに重い車(GT-Rは1740kgあります)を2.9秒で停止状態かから100km/hに加速する力があってもちょっと重い人を持ち上げるには力が足りません。
ちょっと不思議な感覚です。
この違いはどこから来るかと言うとギア比です。
トルクはギア比で増幅出来ます。
エンジンに力が無くてもギアで減速することでトルクは上昇します。
なのでエンジンの最大トルクを見て加速力をイメージできるかと言うと、そうではありません。
ギア比による影響がとても大きいです。
出典:【2017】0-100km/h 加速の世界ランキング TOP10+α
http://hobby-review-blog.com/archives/6405
【馬力】
馬力は仕事率の単位です。
物理的に仕事率の単位はW(ワット)ですが車の場合、トルクと同様に車ではSI単位系への移行が不十分であるため、馬力[ps]がよく使われます。
馬力はその名の通り馬の力(仕事率)を表したもので、1馬力=馬一頭分の仕事率です。
馬力を物理的な表現をすると、
「1秒間に75kgの物体を1m持ちあげる」
というのが基準で、
「75kgの物体を1m持ちあげる」のが「仕事」で
「1秒間に」というのが「率」にあたります。
これをSI単位系に変換すると
1馬力=735.5[W]になります。
【馬力のイメージ】
馬力はエンジンの出力です。
単位時間あたりの仕事量なので車が自重の慣性に逆らって加速するのも、空気抵抗に逆らって走るのも出力あってのことです。
トルクはギア比による影響が大きすぎて、物理的なイメージとギャップがありましたが、馬力は物理的なイメージが無いので、ギャップの元になる概念がないと思います。
単純にパワーだと思ってくれれば良いです。
【馬力とトルクの関係】
馬力とトルクは単位を無視すると
馬力 = トルク × 回転数
という関係が成り立ちます。
単位を考慮に入れて正確に書くと
馬力 = 2π ÷ ( 75 × 60 ) × トルク[kg・m] × 回転数[rpm]
各数値の意味はトルク・馬力のそれぞれの物理的な意味から拾ってくればわかると思います。
【トルクと馬力どっちを取るのか?】
トルクと馬力は上記のように関係性があるので、どちらか片方だけ取るということはできません。
スペックの最大値だけに着目することで起こる落とし穴です。
あるとしたら高回転型か低回転型かということです。
【高回転型と低回転型】
トルクはギア比で増加します。
(代わりにたくさん回す必要がある)
馬力はギア比では増えません。
なので、パワーだけを優先したら馬力をあげることになります。
馬力は回転数と比例の関係にあるので、高回転型のエンジンを作れば小さな軽いエンジン(=少ない排気量)でも、馬力のあるエンジンが作れます。
F1などの競技車両に高回転型のエンジンを積んでいるのはこういった理由です。
しかし、回転数が多いとエンジンはうるさくなるし、単位時間あたりの摺動距離が長くなり、摩擦が増えます。
摩擦が増えるということはその分だけ効率が落ちます。
効率が落ちるということは燃費が悪くなります。
なので、実用車では(スポーツカーを含め)低回転でのトルクを犠牲にしない幅広い回転数特性を持ったエンジンが好まれます。
【ダウンサイジングターボ】
ちょっと話が逸れます。
そこで流行ったのがフォルクスワーゲンのTSIが流行らせたダウンサイジングターボです。
最近の国産車に比較的排気量の少ないターボエンジンが増えてきたのはこのトレンドに遅ればせながら追従した結果です。
過給をすると、トルクが増えます。
トルクの大きな車はエンジンを特に回さなくても十分に加速するため、高回転型にならず燃費を悪化させることなく小さなエンジンでまかなうことなできるからです。
【あとがき】
馬力とトルクの意味を正しく理解すると実用車にとって何が大事なのか見えてきます。
エンジンのスペックの読み方や性能曲線の見方は下記のノートにまとめてますので見てみてください。
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