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自動運転について

【はじめに】

自動運転という言葉が盛んに聞こえてくるようになりました。

言葉が一人歩きしているように感じているので、定義、現状、歴史、今後についてまとめていきたいと思います。


【事故ったら誰の責任?】

自動運転の車が事故を起こした場合誰の責任なのか?という質問をよく見ます。

いま発売されている自動車は全てドライバーの責任において運転されています。

将来は車(メーカーや運営会社)の責任を持たせることもあるかと思いますが、現在ではそういった車はありません。

グーグルの自動運転車でも、特別な訓練を受けた人が乗っています。

将来の車の責任になる場合は、ドライバーは同乗しておらず、車の中にいる人は全て同乗者扱いです。


【じゃあTV-CMで言ってる自動運転ってなんなの?】

日産のCMをよく聞いてみると
「自動運転技術搭載」と言っています。

自動運転そのものではなくて自動運転「技術」です。

自動運転技術は何を指しているかというと、自動運転を実現するための技術(の一部)という意味です。

実際には運転支援と言った方が誤解がないのですが、アピールするために最も優れて聞こえる言葉を選んでいると思われます。

日産のCMでは、セレナにオートパイロットが搭載されても自動運転〜、キャラバンに自動ブレーキが搭載されても自動運転〜と言っています。

特にキャラバンのCMはハンドルから手を離す演出が酷いです。

自動車メーカーは間違ったことは言っていませんが、注目度の高い言葉を使うので誤解しないように注意しましょう。


【自動運転レベル】

自動運転にはレベルがあります。
考える人毎に解釈が違うのでどのレベルがどんなものを指しているのかはバラバラです。

この業界でよく使われるNHTSA(北米運輸省道路交通安全局)では以下のように定義されています。

レベル1
車の運転操作のうち1つが自動化されたもの。

レベル2
車の運転操作のうち複数が自動化されたもの。

レベル3
全ての運転操作を自動化するが、システムの限界時などでドライバーに運転を要請する。

レベル4
全ての運転操作が自動化されており、ドライバーが全く関与しない。

おそらく大半の人が自動運転と聞いてイメージするのはレベル4ではないでしょうか。
一方、今市販されている自動車はレベル2以下です。


【国際条約との関係】

日本はジュネーブ条約に批准しており、この中では運転者が搭乗、常に操縦し、速度を制御しなければならないとされています。

これを受けて道交法でも車両の運転者は車両のハンドル・ブレーキなどの装置を操作する事が求められている。

自動運転車を開発・試験・販売・運用する際にはこれら法的な制約が足枷になります。

欧州ではウィーン条約に批准しており自動運転にとっては同じように足枷となります。

各国際条約も自動運転を視野に入れた変更が着々と行われています。
その多くはまだまだ一般人が自動運転に乗る事を想定したものではないです。

出典:自動走行を認めるウィーン条約の修正条項が発効
http://www.gaiaweb.co.jp/its/法制化/post_854/

アメリカのカリフォルニア州では将来の完全自動運転の将来を見越して自動運転システムをドライバーと見なすという解釈で運転免許証を持った人がいなくても運行できる方針を示しています。


【自動運転で使われるセンサー】

一般に自動運転技術で用いる自動車のセンサーはカメラとレーダーとソナーです。

また、GPSも重要な位置推定装置です。
地図データと組み合わせて死角にある情報や遠くの情報を得ることが出来ます。

〈ライダー〉

最近ではライダーと呼ばれるレーザースキャナーが脚光を浴びています。

ライダーは周囲の物体の形状を細かく計測できるので、車に搭載すると道路の形状を知ることができます。

走行している車両がリアルタイムに使うことだけでなく、詳細な道路地図を生成することもできます。


〈カメラ〉

カメラはアイサイトでも有名なセンサーです。

ステレオカメラであれば視差から距離を計算できます。
赤外線にレンジを広げれば暗視も出来ます。

単眼カメラであれば距離の計測が苦手なのでレーダーと組み合わされることが多いです。

画像として捉えるので画像認識技術が有効です。

最近は人工知能を使った認識技術の試みが増えてきています。

認識すべきものはドライバーが道路で運転のために見ているものすべてですが、一般的には、白線、周辺車両、歩行者です。

また、日本では需要が少なく装備されている車両も少ないですが、道路標識から現在の規制速度を表示したりするのにも使われます。

前方だけではなく、後方の画像はバックカメラで取得でき、サイドミラーも2016年の法改正でカメラのみでOKとなったため画像認識技術はますます使われることになるでしょう。


〈レーダー〉

レーダーは電磁波の反射で物体までの距離を計測します。

前車追従型クルーズコントロールを実現するために使われ始めました。

使う電波の周波数帯の違いで、計測する対象の目的物が変わってきます。

〈ソナー〉

ソナーは超音波の反射波で物体までの距離を計測します。

駐車するときのクリアランスソナーとしてかなり以前から普及しているため価格が安く、信頼性が高いのが特徴です。

ただし近距離しか計測できません。

側後方のブラインドスポットモニターもソナーが使われることがあります。


【自動運転技術の紹介】

〈自動ブレーキ〉

前方の障害物を認識してブレーキをかけます。

ブレーキを能動的にかける仕組みは、2012年から搭載が義務付けられたESC(Electronic Stability Control)が担っています。
ブレーキの油圧をドライバーがペダルを踏まずとも能動的にかけることができ、4輪それぞれにバラバラな油圧を設定できるため広く使われます。

前方の認識はカメラ 、レーダーで行い前方の障害物と衝突が避けられないときにブレーキをかけます。

ドライバーの運転操作を阻害しないように、ギリギリまでアシストしないようになっています。

具体的に言うと停止時に前方の障害物までの距離が1m以内になるようにチューニングしています。
これはいわゆる急ブレーキです。

それだけギリギリまでアシストしないようになっているのは過信を防ぐためです。
やろうと思えばもっと手前でブレーキをかけることも技術的には造作もない事ですが、ドライバーの過信を誘発しないよう細心の注意が払われています。

スバルのアイサイトで追突事故率が8割減となっていますが、逆に言うと2割は防げなかったことになります。

自動ブレーキ関連の説明書を見ると注意書きがびっしり書いてあります。
「あれは出来ないこれも出来ない」と。

前方監視は基本的にカメラやレーダーなので霧や坂道などで見えないこともあります。

路面やタイヤの摩擦係数は滑らない計測出来ないし、前方にある未知の道路はもっと分かりません。

グッドコンディションでギリギリ停止するのでコンディションが少しでも悪いと衝突してしまうと思っておいた方が良いです。


〈クルーズコントロール〉

アクセルペダルを操作しなくても速度をコントロールしてくれる装置です。

当初はアクセルペダルを直接動かす単純なものでしたが、電動スロットルによるきめ細やかな速度制御をするものに変わり、前方車両を検知して追従する機能や、レーンを認識して車線の中央を走るものなどに進化しています。


〈前車追従〉

レーダーやカメラで前方車両を検知し、前方車両との車間距離を調整する形で速度を合わせます。


〈レーン認識〉

車が車線を認識して車が車線のどの位置を走っているのかを検出します。

使うセンサーはカメラです。

画像認識で左右の白線を検知します。

検知後のアシストの度合いによりサービスが変わります。

・レーンデパーチャーワーニング
これは正確に言えば車が操作をしないので自動運転とは異なりますが、自動運転のための重要な技術です。

認識したレーンからはみ出そうになると警告のブザーやランプで知らせます。

・レーンキープアシスト

認識したレーンの逸脱を検知すると中央方向へのステアリングアシストをします。

・レーントレース

認識したレーンの中央を走るようにステアリング操作を自動で行います。

いずれも今発売している車両ではあくまで移動支援のため、ドライバーがハンドルを握っている事が必須です。
そのためハンドルを握っていないことを検知した場合は運転支援を停止します。


〈レーン移動支援〉

ベンツEクラスやテスラモデルSで採用されたシステムで、ウインカーレバーを操作すると、その方向のレーンへ移動します。

レーン移動そのものはレーンが見えていれば一定の走行アルゴリズムで移動できますが、移動中の安全確保のため隣の周辺車両の状態も把握しておかなければなりません。

後方や側方の車両を検知するブラインドスポットモニターを使って衝突しないと判断できてから移動するように出来ています。


〈自動緊急停止〉

ドライバーが運転操作していないことを検知して徐々に速度を落として自動で停止します。

パワーステアリングのセンサーでハンドルを握っているかを判断します。

将来的にはドライバーの顔検知などで運転不能かどうかを判断し、路肩に自動で止めることなども検討されています。


〈パーキングアシスト〉

駐車支援のことで、駐車場の空きスペースを認識して駐車のためのハンドル・速度制御を行います。

10km/h以下であればステアリング操作の自動化も現行法で可能なためかなり以前から実用化されています。(2003年のプリウスから)

最近ではドライバーが降りた後、無人で駐車するものも出てきています。
車外から人が安全を確認しながらスマートフォンで移動・停止を操作します。
駐車スペースが狭くてドアを開けての乗降りが出来なくても駐車が出来ます。


市販化されている移動支援はこれくらいですが、完全自動運転を目指すとなると

・交差点での振る舞い
・駐車場から歩道をまたいで路上へ出る
・遅い車両を追い越す
・違反車両や緊急車両の回避
・有人ドライバーの車両とのアイコンタクトによる譲り合い
・クリアランスのない状態で周辺のドライバーに入れてもらう

など、まだまだ人が行なっている沢山のことを実現しなければなりません。


【自動運転技術の開発アプローチ】

自動運転技術の開発アプローチとしては

①対象物を検知する。
②運転操作(ハンドル・アクセル・ブレーキ)をする。

です、実用化の段階としては②までやらなくても有用なものがあるので、①の段階で実用化を始めます。

例えばバックソナーやバックカメラ、
プリクラッシュセーフティやブラインドスポットモニターなど、検知した後のアクションを運転操作ではなく、ユーザーへの通知で実現します。
その後、自動ブレーキやパーキングアシストなどの運転操作を追加・拡張します。

通常の流れはこのようなものですが、クルーズコントロールなんかは検知よりも先に操作が始まっています。


【オーバーライド】

オーバーライドは自動運転を知るために必要な概念です。
2010年にトヨタが大量リコールをやって北米の公聴会に呼ばれた時にも話題になりました。
二重に敷かれたフロアマットがアクセルペダルを踏んでしまったため、ブレーキを踏んでも制動せずに暴走してしまうという事件でした。

アクセルとブレーキが同時に踏まれたときにブレーキを優先して自動的にアクセルオフします。
これをブレーキオーバーライドと言います。

ブレーキオーバーライドはかなり以前からアウディで採用されていて、自動車評論家の意見は「余計なお世話装置」的な扱いでしたが、今では安全のために必要な装置だと言います。
評論家なんていい加減なものです。

自動運転の場合は、自動運転装置がアクセル・ブレーキ・ステアリングをコントロールしていてもユーザーがそれらを操作したときに、ユーザーの操作を優先して自動運転をオフする役割になります。

レベル3以前の自動運転ではドライバーは不可欠なのでオーバーライドが必須です。


【自動運転の歴史】

〈衝突安全系技術の開発〉
ブレーキ系の制御技術や衝突安全技術の開発に無人で動作する車両が必要になり、自動運転を開発するきっかけになった。

〈DARPAアーバンチャレンジ〉
アメリカの軍が主催する無人車走行です。
初めは砂漠などでしたが、最後は市街地走行も行なっています。
日本の自動車メーカーは軍関係のイベントへの参加は消極的なので参加していません。

〈日本でのチャレンジ〉
日本では産業技術総合研究所(以下産総研)で幾らかのチャレンジがされています。
まずは地中に埋めた電線をトレースするタイプのものが作られました。
そしてカメラを使って道路を走行する。
そしてトラックの隊列走行。
愛・地球博でも、送迎バスが隊列走行をしていました。

法も道路環境も国によって違いますが自動運転に取り組む企業は国際的な企業が多いので国境はあまり関係がありません。


【課題】

完全自動運転を実現するには様々な課題があります。

〈品質〉

自動車業界では安全性に関わる装備はISO26262の準拠が求められています。

今まで安全性と関係のなかったナビなどの地図情報や、複雑なアルゴリズムを使用した画像認識機能、さらに人工知能技術など、今まで組み込みソフトウェアとして作られてこなかった分野も取り込まなければ自動運転の実現は難しいのですが、それらの品質をエンジンやブレーキの制御ソフトウェア並みに引き上げるのは容易ではありません。

特に人工知能に関しては学習によって結果が変わるため、品質を保証し難い面がありますし、学習内容の正当性についても論理的な説明は難しいです。
今まで組み込みソフトウェアで担保して来た積み上げ型の品質保証を抜本的に変えていかなければ難しいのではないかと思います。

人工知能に関しては下記のノートにまとめてますので気になる人は見て下さい。

人工知能とは
※執筆中です


〈ハッキング〉

自動運転車はおそらく(通信不可能な地域でのスタンドアロンな動作は不可欠ですが)ネットワークとつながったものになります。

更新される地図データや周辺車両からのデータ、自動運転システムのアップデート、ドライバーの健康不全や事故時の通知、盗難車の確認・停止、逆走車の通知など、ネットワークにつなぐ事で実現できる機能は沢山あります。

2015年にジープチェロキーがハッキングされて大量リコールをする事件がありました。

どこまでネットワーク上からの操作が出来るようになるかは様々な検討がなされるでしょうが、スタンドアロンで移動が難しいシーンでリモートコントロールをするサービスを考えた場合、運転操作をネットワークから行えるため、乗っ取りが出来ることになります。

ネットワークを使った車両の盗難やテロへの利用などの大きなリスクを負うことになります。

自動運転車(とつながるサーバー)には高いセキュリティが求められることになります。


〈シビアコンディション〉

カメラは赤外線カメラを用いれば温度をモニタリング出来るので人間以上に見えます。

ですが、雪に閉ざされた道路では道路ではどうでしょう。
雪がかぶっていてはそもそも白線は見えません。

大雨でカメラの前に絶えず水膜があっても見えません。
霧がかかっても見えません。
カメラは視覚センサなので人目視出来ない状況では自車位置を知る手掛かりがないのです。

今のGPSは位置精度が悪く、道路に対してマッチングを行い、車速とジャイロで移動推定を行うことで初めて今のカーナビの精度を保っています。
GPSだけだと半径50m程度はズレる可能性があります。
そればかりか屋根やトンネルやビル群などで衛星の電波の届かないところでは受信すらできません。

レーダーであれば物体との距離が計測出来るのですがレーダーの装置前が泥で汚れていた場合正しく計測できません。

また、計測はセンサーの取り付け位置、角度にシビアで、これが狂っていては正しい計測が行われずに誤った制御に陥る可能性があります。


〈人の特性の問題〉

人は安全なほど危険なことをするという性質を持っています。

完全自動運転までの過渡期では人が運転に介在する余地が多く残っています。

自動運転支援装置を過信して引き起こされる事故が多ければマイナスイメージに世論が自動運転に対しての嫌悪感を示し、メーカーも開発を断念する可能性があります。


〈トロッコ問題〉

自動運転システムが衝突を避けられないスピードで人に向かっていってしまうシチュエーション(飛び出しや自殺者、事故車から投げ出された人など)に遭遇した場合の振る舞いについての解決が難しいです。

例えば左によければ歩道の小学生の列、そのまま突っ込めば事故車から投げ出された人、右によければ自分が死亡したりする場合など運転操作に対して結果の背反が潜む場合どのように判断を下せば良いのかが分かりません。

人が操作していたとしても倫理的な解決が難しい問題をロジックとしてどのように組み込むべきなのかは難しいです。


(整備されていない道路の問題〉

道路は綺麗に整備されアスファルトの上に白線が敷かれたものを前提とする事が多いですが、山間部の整備されていない道ではどこを走れば良いのか分かりません。

白線が経年劣化で消えてしまっている場合も目標を見失います。

白線を引き直した場合でも、逆に以前の白線の除去がいい加減で白線が何本もあるように見えてしまったりする場所もあります。


〈混雑した道路での所作〉

途上国では信号や車線の整備が追いついておらず、車やバイクや人が隙間を縫うような走行をしているところもあります。

トヨタの試験車両でも自動で車線変更をしようとした際に中々周辺車とのクリアランスが確保できず入るタイミングがないので最後はオーバーライドして入らざるを得ないという事がありました。

よしんば先進国でマナー良く躾けられた人々との混在通行が出来ても、そうでないところでは上手くいかないと容易に想像できます。


〈法律と道路交通の実情の乖離〉

日本では制限速度を堅持して走行する車はほとんどいません。

アメリカでも渋滞の列の先頭にグーグルカーがいて警察が検挙するという事件がありました。

自動運転車に速度制限を超えて自動走行するモードを設けることは法的に難しいと思います。

自動運転車が普及し始めたときに、人間のドライバーによる追い越しが路上で頻発し、そのことによる事故が多発する可能性があります。

また、自動運転車ばかりになった時、人が安全を犠牲にしていたぶん速く移動していたことがなくなるので、安全方向に倒した走行で遅くなり、渋滞が発生しやすくなるかもしれません。


【将来について】

完全自動運転が当たり前になると、自動車を所有するというスタイルが一般的な時代は終わる可能性が高いです。

一定期間は混在しますが、その比率は徐々に塗り替えられ最終的には大半が自動運転車両になると思われます。

自動車がインフラになるという考え方です。

自動運転のための仕組みは事故防止観点でも有用なため、生産される全ての自動車に順次義務付けられる可能性が高いです。

大量に生産されコストが圧縮されても今までかかってなかったコストがかかってくるためコストアップになり、常に正常に働く状態になっているかが重要なためメンテナンス周期は短くなる可能性が高いです。

こうした自動車が普及してくると趣味性を色濃く反映させた今の自動車産業が生み出している市場が狭くなり崩壊する可能性があります。

市場が狭くなれば高級品しか残らなくなり、個人で所有するにはハードルが高くなってくるので、今現在「馬」を所有するのに近い感覚になるかもしれません。


【あとがき】

自動運転についてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?

自動車メーカー・IT企業・各国政府・運転できないけど必要とする人・自動運転を必要としていない人・新たなビジネスチャンスだと思っている人など、それぞれの立場や思惑が錯綜しています。

また、現在日進月歩で技術的・法的に進んでいる分野なので事態は流動的です。

今日の常識が明日には通用しなくなっているかもしれません。

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