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「ひたすら面白い映画に会いたくて」45本目『デスプルーフ in グラインドハウス』

 この映画は、タランティーノが好む1970年代から80年代のB級映画のオマージュとして製作された作品であり、物語の舞台はテキサス州オースティンとテネシー州レバノンである。

   元々テキサス州編とテネシー州編はそれぞれ独立した作品であり、本作品ではその2作品を1作品として再編集されている。またこの映画の大目玉として挙げられるのは、CG無しのカーチェイスである。このスリリングなカーチェイスを観るだけでもこの映画を観る価値が十二分にあるはずだ。

45本目:『デスプルーフ in グラインドハウス』(2007)

    『デスプルーフ in グラインドハウス』(2007)

     脚本・監督:クエンティン・タランティーノ

           「右へ左へ 臆病者のテールダンス」

物語の概要

 簡単にこの映画を説明すると、デスプルーフ(耐死仕様)の愛車を持つ殺人鬼のスタントマン・マイク・マッケイ(カート・ラッセル)が、その愛車を用いて美女を次々と襲っていくスラッシャー映画である。

   B級映画テイストを存分に備えた作品であるのだが、主演のカート・ラッセルとタランティーノ監督がこのテイストを上手く料理して、観客に上質な映画体験を届けてくれる。カート・ラッセルの怪演が見事に光る一作であった。

本作の魅力

 ストーリーとはあまり関係のない会話がダラダラ続く。なんと物語の半分を占めるのだ。これこそタランティーノの真骨頂であり、タランティーノ節が炸裂する会話劇である。

   今回は女子トーク。『レザボア・ドッグス』の時のような男子トークも面白かったが、いやはや、本作の女子のくだらなさも最高であった。下ネタあり、言葉遣いも悪い。そして、内容的にもくだらない話なのだが、不思議と延々と聞いていられるのである。タランティーノ監督以外がこの会話劇をやったら、間違いなく観客にあきられることだろう。

 今回の映画もずっと登場人物たちの言葉が汚い(褒め言葉)。それは男であっても女であっても平等だ。この辺りの脚本はさすがタランティーノ映画である。この言葉遣いが観客の耳に徐々に慣れてきて次第に心地よくなってくる。そしてラストの方では、観ているこちらまで口が悪くなってきてしまうぐらいである。

 北野武の映画を観ていても思うのだが、終始登場人物たちが汚い言葉を使っていると、妙なリズム感が生まれ、だんだん楽しくなってくる。私にとって今のところ、下ネタ&汚い言葉のオンパレードであってもずっと不快感なく観ていられる映画は、北野武作品とタランティーノ作品だけだと思う。それぐらい会話のセンスが抜群に良いのだ。

私の好きな場面

 私の好きな場面は今回2つある。

 1つは、テネシー州レバノン編の冒頭である。この作品は、白黒で始まった。しかし、途中で登場人物の1人が自販機で飲み物を買って、それが落ちてガンっとなった途端に鮮やかなカラーへと転換する。

   この演出には思わずうっとりと見とれてしまった。私も単純である。カラーになった時の登場人物たちの服の色合いがカラフルなのが特にそう思わせたのだろう。めっちゃくちゃカッコイイ!!ってなる場面であった。

 そして、もう1つの好きな場面は、ラストの圧巻のカーチェイスだ。嫌がらせをしてきた見知らぬ男を完膚無きまでにやり返す女たちの執念には、腹を抱えるほど笑わされた。ラストの数分でこの映画の評価は跳ね上がることだろう。

   その中でも、カーチェイスの際のガールズたちの口の悪さは必見である。あんなテンションの上がる罵りはなかなかないであろう。観ていてものすごく気持ちいいのだ。「もっとやれ!!」とこっちまで彼女たちと一緒につい叫んでしまう。

 観ている側は「THE END」という文字が出てきた時点でもう何も考えずにただ「イエーイ!!」と叫んで終わることのできる、超爽快感MAXの映画であった。終わり方が良すぎる作品なのだ。

   あれだけB級映画臭をプンプン匂わせておきながら、ラストはタランティーノらしく締めるというのは本当にすごい。

最後に

 タランティーノ監督は、好きなことを仕事にし、その仕事をめちゃくちゃ楽しんで取り組んでいるように感じる。その上、自分の作品が熱狂的なファンまでも生み出しているのだ。彼は憧れの生き方をしているんじゃないか。ホントカッコいいなあ。

   相変わらずのマニア向け映画であったと思う。この映画を理解しようとすれば、自らが相当なマニアでなければいけないような気がする。

   しかし、マニアじゃなくても大丈夫。万人が楽しめる映画でもあるのがタランティーノ作品の人気たる所以だろう。B級映画マニアはもちろん、カーチェイス好きにもおすすめの一作だ。

   最後に一言。この映画を観てしまったら『バニシング・ポイント』が観たくなること間違いなしだ。

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