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『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』 ひたすら面白い映画に会いたくて 〜93本目〜

 ドラえもん映画は、こんなにもアツい戦闘シーンを描けるものなのかと感動し、目頭を熱くさせられた。特に、しずか&スネ夫 vs PCIAの無人戦闘機との戦闘シーンは圧巻の一言。「あれ、私はガンダム映画を観にきていたのか?」と錯覚しそうになるほどのクオリティがそこにはあった。

 ドラえもん映画だと思って油断していると、ワクワクとドキドキが自分の中で溢れて止まらなくなり、焦ってしまう。このように本作は、観客と出来杉くんの度肝を抜く作品として仕上がっているのだ。「これぞ映画館で観る映画だ!」と久しぶりに心の底から思えた熱量たっぷりの1作であった。

『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』 (2021)

原作 : 藤子・F・不二雄
脚本 : 佐藤大
監督 : 山口晋
アニメーション制作 : シンエイ動画

     「やれるだけのことを やるしかないんだわ」

物語の概要

 ある夏休みの日、のび太たちの前に遠い宇宙のかなた「ピリカ星」の大統領パピが、反乱軍PCIA (ピシア) から逃げるためにやってきた。彼は、地球人からみると、手のひらサイズ。のび太たちは、スモールライトで小さくなり、パピとの親交を深めていく。

 そしてのび太たちは、大切な友だちとなったパピの故郷を救うため、PCIA軍との戦争への参加を決意する。しかし、強敵ドラコルル率いるPCIA軍の策略により、スモールライトを奪われてしまう。

 スモールライトで小さくなったのび太たちの大きな戦争がこうして始まった……。

本作の魅力

 「空気砲」や「ひらりマント」が活躍するのではなく、スネ夫たちのつくったラジコン戦車が大活躍する展開が本作最大の見所であろう。ドラえもんたちが、スネ夫の製作したラジコン戦車に乗り込み、敵のアジトへ出陣するシーンひとつを切り取っても、『ガールズ&パンツァー』に一歩も引いていない。まさかドラえもん映画で、リアルな「戦車道」を大画面で観れる日が訪れるとは思ってもみなかった。無重力空間を縦横無尽に駆け回るラジコン戦車のカッコ良さなんて、とんでもなかったぞ。

 また、原作ではセリフの中でしか登場しなかった「戴冠式」を描いていることも、本作の魅力の一つ。脚本を担当する佐藤大は、なんと、この戴冠式の場面で、パピ大統領のピリカ星の市民に向けた演説シーンを付け加えたのである。これは素晴らしいアレンジであった。「決してウソをつかない少年大統領パピ」の魅力を最大限引き出すことに貢献している。パピのような大統領こそ、まさに今の世界情勢に足りない人物だということを痛感させられたものだ。

私の1番好きな場面

 私が愛して止まない場面は、しずかが元の姿に戻るシーンである。ここは原作でも大好きな場面であり、F先生の思い入れが1番詰まったシーンなのではないかと私は強く感じている。

 というのも、実際に「コロコロコミック」連載時の最終回が袋とじであったことからも推察できる。これは、しずかの劇的な大変身を効果的に見せるための仕掛けであった。まさに、そこでは『ウルトラマン』の主人公ハヤタ隊員が、戦闘機に乗って怪獣と戦い、ピンチになるとウルトラマンに変身する、あの醍醐味がダイナミックに描かれていたのである。

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(出典 : 藤子・F・不二雄 (1985)『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争 (Vol.6)』てんとう虫コミックス p.174)

 『ガリバー旅行記』の面白さをドラえもんで表現しようと思ったF先生は、きっとこのシーンを描くために、本作のストーリーを描き進めてきたんじゃないか。そう思えるほど、魅力的な1コマなのだ。このシーンを大迫力のスクリーンで堪能できたいまの私は、幸せ者に違いない。F先生には天国シアターの特定席で、2021年版の「しずかの大変身」を堪能してもらいたいものだ。

 また、スネ夫がピリカ星から離れたがらない様子を見て、私は真っ先にF先生のSF短編『超兵器ガ壱號』のラストが頭をよぎった。鑑賞後、すぐにこの作品を読み返して驚いたことがある。なんと、この作品に出てくる巨人の名前は「ガリバ」であったのだ。これで私の推察は確信に変わった。F先生は、しずかに『ガリバー旅行記』、スネ夫に『超兵器ガ壱號』を投影させて面白くしたのだということを。本作を観ると、F先生の大好きな『ガリバー旅行記』を読みたくてたまらなくなるので、そこには注意が必要である。

最後に

 F先生の生み出した『のび太の宇宙小戦争』が公開されて、もう40年近く経つ。しずかの男気とスネ夫の成長譚がたっぷり詰まった本作は、「2021年」を過ぎた今でも色褪せることのない名作であった。むしろ、子どもから大人まであらゆる世代を虜にする力は、前作よりもパワーアップして帰ってきたと言っても過言ではない。

 来場者特典として、「ロコロココミック」が貰えるのも嬉しい。しかも表紙は1984年8月号の『月刊コロコロコミック」。ドラえもん製作サイドの方々は、昔からのファンの心をくすぐるのが、ちょいと上手すぎやしませんか。

 「ロコロココミック」は、きっと子供だけでなく大人も喉から手が出るほど手に入れたい1作となっている。上映前にドラえもんのマンガを優雅に味わうことができるとは、なんて贅沢なんだろう。

 ドラえもんはいつだって子供の頃に憧れていた夢を叶えてくれる。あなたも「ロコロココミック」を片手に、子供の頃の気持ちにタイムスリップしてみてはどうだろう? 

予告編

 『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の予告編です。

(【YouTube】DoraemonTheMovie「『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』スペシャルPV【大ヒット上映中!】)

(【YouTube】DoraemonTheMovie「『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』新予告【大ヒット上映中!】)

参考文献

藤子・F・不二雄 (1985)『大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争 (Vol.6)』てんとう虫コミックス

藤子・F・不二雄 (1993)『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 (下)』てんとう虫コミックス・アニメ版

小学館 (2004)『藤子・F・不二雄★ワンダーランド ぼくドラえもん 03』小学館

東宝ステラ (2022)『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021 パンフレット』東宝

関連作品

スウィフト(1980)『ガリヴァー旅行記』岩波文庫

藤子・F・不二雄 (1980) 「超兵器ガ壱號」『漫画アクション』1980年8月2月号 (増刊号)

『縮みゆく人間』(1957)
脚本 : リチャード・マシスン
監督 : ジャック・アーノルド

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