自分を探し始めてから10年経つけどなかなか見つからない

大学を卒業して新卒入社した会社をすぐに辞めたあと、三ノ輪にあるアパレルショップでバイトをしていた時期があった。

近くには、江戸時代に日本三大遊郭のひとつとされた「吉原」があった。その名残もあって、吉原には今でも高級風俗店があることで有名らしい。

私がバイトをしていたお店はスーツ屋さんだったけど、わざわざトランクスだけを買っていく男性のお客さんもいた。

そしていつもお店の前の脇道に、2時間に1回くらいのペースでにワゴン車が停まり、お店からはそのワゴン車を待つ男性や、ワゴン車に乗り込んでいく男性をよく見かけた。

私「あのワゴン車、よく見かけるけど何の送迎車ですかね?」

副店長「ああ、あれは、これから吉原に行く人たちを乗せる車だよ」

私「えっ……こんな昼間からですか?」

副店長「ねー。でもお金持ってる人たちなんじゃない?吉原って高いから」

私「あんな普通な顔をして、昼間から堂々と……」

その日から私はワゴン車に乗っていく男性たちがどんな人なのか気になって、確認する癖がついてしまった。

でも、雨の日でも晴れの日でも、平日でも休日でも男性たちはワゴン車を待っていたし、学生に見えるようなものすごく若い男性もいれば、初老といってもいい年齢の人、スーツ姿で「今就業時間じゃないの?」と思うような中年のサラリーマン風な男性もいて、共通点なんてなかった。

どこにでもいる普通の人たちが、普通の顔をしてトランクスを買い、ワゴン車に乗り込み、高級風俗のサービスを受けに行く。

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