三匹のコブタの休校
我が家には小学生の大、中、小の三匹のコブタがいる。
季節はコロナの春。小さいコブタは小学校に入学予定。
夢にまで見た小学生生活は長引く休校でなかなか始まらない。いつ学校が始まってもいいように毎日ランドセルを背負う練習に余念が無い。
そんな弟に指導するのが世話好きの中くらいのお姉さんコブタ。
「ここのかぎをちゃんと閉めないと、おはようございますって挨拶したときに中に入っている教科書とかがでてきちゃうからね」
と今日はランドセルのカギ(?)のかけ方指導。
「まずカギをかけないでやってみて。」
弟に色々と詰め込んだランドセルを背負わせ、挨拶の練習。
「おはようございます。」
「もっと頭を下げて。」
「おはようございます。」
逆さになったランドセルのふたが開き中身が床にドサドサおちてくる。
「ね、こうなるんだよ」
中くらいのコブタ、この日最大のドヤ顔である。
そして、この中くらいのコブタには姉がいる。
姉の大きいコブタは、休校のお知らせに大喜びしていたものの、数日もすると「飽きた~。暇だ~。」を連発。大きいコブタの発言はすぐに小さいコブタたちに伝播する。「そうか、この小学生ごっこの毎日では暇なんだ」と
小さいなりに考え、この休校はいつ終わるかわからないということを自覚する。それならばそれなりに楽しむしかない。
そこで導入された放牧タイム。
三匹のコブタを車にのせて少し遠くの広い公園へ。
コブタたち喜ぶ。
走り回ったり、おたまじゃくしを探したり、ザリガニ釣りをしたり、お弁当食べたり。こうして天気のいい日は放牧というスタイルが定着しつつあった。
しかし、それは突然やってきた。
いつものように放牧用のお弁当も準備して、おたまじゃくしのいる公園に行くと、「外出自粛要請がでているため、しばらくの間駐車場、公園内遊具を封鎖します」の張り紙が。
貴重な放牧タイムが‥。もはやこれまでか。
まあ陽射しもきつくなってきたし、外出するなってことだよね。と気持ちを切り替え、トボトボ公園を後にするコブタたち。
本格的にはじまったステイ豚舎の日々
コブタ同士のケンカも日々増えていく。一番不満が多いのが中くらいのコブタ。「大きいコブタがにらんでくる」だの「小さいコブタが真似をした」とこの世の終わりかというぐらいに泣いている。泣いている理由はいつもくだらない。
こうして、コブタたちは全身からガサガサした空気を醸し出しはじめる。それは同じ空間にいないと感じられない、言葉にできない、霧のような状態でフワフワ漂う行き場のない小さな不満。
そういう空気の時は、モヤモヤを退散させる〝攻めのごはん”に限る。
タープを張りBBQ、シャリを握りお寿司屋さん、クレープ、たこ焼き、餃子などで攻めていく。もちろん攻めてばかりでは体力が消耗してしまうので、コンビニのおにぎりやカップ麺の日だってある。なんだっていい、もはや楽しみは食事のみなのだ。
攻めのごはんはコブタたちもはりきって手伝う。作ることも食べることもセット。ゲームボードで言えば普段の食事はひとコマ前進。攻めのごはんの日は3コマ進める気分。ゲームの合言葉は「キョウナニタベル?」
この出口のみえない日々の中に、確かに言えるのは明日も“食べる”ことは続くということ。“食べる”ことが明日への道しるべとなっていく。
そして“食べる”ことはコブタたちを穏やかに、そしてふくよかにさせていく。
ステイ豚舎で肥育の日々である。
知らなかった習慣
お店の商品棚に並べることができるなら「安心、安全の完全屋内肥育」とラベルに書けるぐらいの成長をみせるコブタたち。
豚舎にて規則正しく生活し、よく食べ、よく眠り、よく遊ぶ。もちろんイライラしたり、ケンカしたりの日もあるけれど、とりたてて何かドラマチックなことがおこるわけでもない。なんたって毎日同じメンバーでステイ豚舎だもの。
そんな毎日の中で新しく始めた習慣のひとつが早朝散歩。中くらいのコブタが地味にお供でついてくる。サクランボの木やムクドリの巣をみつけたり、線路沿いを歩いて電車とすれちがったりと、昨日と違う変化を探したりしてゆっくり散歩。時間だけはたっぷりある。
ある朝、中くらいのコブタに何の気なしに「昨日はよく眠れた?」ときいてみた。「う~ん」とはっきりしない答えなので「どうした?」ときくと
「あのね、寝る前にクラスの好きな子の顔を思い浮かべながらいつも寝ているんだけどね」
(この時点で大きくのけぞる。そんな習慣があったとは…。)
「でもね……。」
「休みが長すぎて顔が思い出せなくなった…。」
清々しい朝の散歩道で思わずずっこけそうになった。
朝日を浴びて
照れくさそうに笑う中くらいのコブタ。
そうだよね。こんなにお休みが長いと色々忘れちゃうよね。
なんだか少しせつなくなる。
そして、中くらいのコブタがぽつりと言った
「ねえ、朝ごはん何食べる?」
うんうん。きっと大丈夫。
ゲームはこれからもずっと続くけど、明日への道しるべはすぐそこにある。
さあ、ごはんを作ろう。