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ハゼノキってどんな色?④ もう1つの古色。赤白橡と櫨色

みなさんこんにちは。今年はオリンピックイヤーという事で開会式が日本時間では明日(7月26日の深夜)開催されます。すでに始まっている競技もありますが、オリンピックは普段あまり見ることがない競技にも注目が集まるので新しい発見や驚きがたくさんあるので、毎回楽しみにしています。さて、先週は普段あまり目にすることない幻の染色技法「黄櫨染」に関して書いてみました。そんな先週の記事はこちらから!

今月は「はぜのきの色」に関して書いてきました。日本では平安時代から染色の材料として使われてきたハゼノキですが、色の特性上、禁色の素材として扱われていたこともあり、広く一般的な染料としては使われてきませんでした。実際には漆を含めれば日本のほぼ全域で自生している樹木であり、もしかすると藍のような非常に一般的に染色素材になれたかもしれません。「ハゼノキの色」最後は黄櫨染以外の色に関してです。


■もう一つの古色。赤白橡

ハゼノキの古色というともっぱら「黄櫨染」が出てくるのですが、実は延喜式にもう1色黄櫨を使った色の記載があります。それが「赤白橡」です。読めませんでした。。。「あかしろつるばみ」と読みます。黄櫨染は黄櫨+蘇芳でしたが、赤白橡は黄櫨+茜で、同じように黄櫨をベースに赤系統の色を重ねる染色です。こちらは上皇用の袍に用いられており黄櫨染と同じく禁色でもありました。ただし平安時代後期までは参議以上の官職者も使う事が出来たため、黄櫨染のような絶対禁色では無かったようです。

【補足】官職の順位は長官(太政大臣や左右大臣)、次官(大中納言と参議)の順のため、参議以上となるとものすごい高官であり、庶民からみると絶対禁色には変わりありませんでした。

鹿児島のハゼノキ+茜で染めた麻布

話を赤白橡に戻します。橡はクヌギの古名であり、ドングリ自体を染料にできるため、ドングリを使ってそうなのですが全く使われていません。ドングリを使った橡染めは使用人の衣服や鉄焙煎で黒染めをし、喪服に使われていたようです。蘇芳と違い、茜は自分の山に自生しているので、鹿児島のハゼノキ+茜で染めてみました(上の写真)。麻布に染めた事と、茜の分量が少々少なかったのか、かなり黄櫨染よりの色になってしまいました。。。

前回も紹介した『延喜式内染鑑』の色と比較するともう少し赤みが必要だと思われます。インターネット上で出てくる「赤白橡」の色はベージュから暗めのピンクに近い色がでてくるため、やはり茜をもう少し強くする必要がありそうです。

『延喜式内染鑑』より赤白橡

■純粋な黄色の櫨色は無かったのか?

ここまで書いてきて少し疑問に思ったのが、そもそも「黄色」として使われていたことはないのか?という点です。染料としてはかなり強い黄色が出ることは知られていたわけですので単色で使ってよさそうなものです。ただし、「櫨色(はじいろ)」は真っ黄色ではなく赤みが入った色を指すようです。WEBでみられる原色大辞典でも「鈍い橙色」となっています。ということで、結論からすると黄色の櫨色は無かったようです。では日本において「黄色」の立ち位置はどのようなものだったのでしょうか。

ハゼノキで黄色に染めたサンプル

「黄色」は冠位十二階では「信」の色であり階位としては6色中4番目でした。その後の養老律令の衣服令では、位当色では一番下の「無位」に相当する色となりました。平安時代以降も黄色は無官の色として使われることになります。当然といえば当然なのですが、無官用の色と天皇、上皇の色が同じ原料で染められるはずもなく、無位の黄色は別の原料が使われていたと考えられます。(ほとんどの植物は黄色く染まるため正確な原料は不明)

装束の制度に関しては中国の影響を強く受けて整備されましたが、中国において五行の中心色であり、土の色とされる「黄色」とはまた違った解釈と採用のされ方をしています。その一方で「黄色」を使った色を最上の色としても採用しているとことが面白いなと改めて感じます。

■新しい色を求めて

後半の2回は特に古色を中心にお話してきましたが、最後にハゼノキを使った新しい色に関してです。実は草木染において「緑」を出すのはなかなか難しかったりするのですが、今作りたい色は「浅葱色」です。浅葱色は私の住む大隅半島ではお祭り時に1年に1度か2度直用する特別な色でした。そのため、せっかく染色の材料を持っているのでこの色を再現してみたいなと思っています。

ハゼノキ+藍を使った浅葱色の試し染め

という事で、今月はハゼノキの「色」に関して書いてみました。ハゼノキそのもの色から、ハゼノキを使て表現できる色や、色の意味など、とても面白い表情をみつけることができました。平安の昔から染料として生き続けるハゼノキ。これからの色を創ることで、新しい未来に残していきたいなと思っています。



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