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アサヒ荘生活

なかなか眠れない夜、私は6人で撮った「家族写真」を眺める。
「家族写真」に写っているのは5月末まで住んでいた、クリエイターが集まるシェアハウス、アサヒ荘の住人。笑顔でこっちを向いているみんなの姿に思わず涙がぽつんと流れてしまう。

私にとってアサヒ荘は初めてのシェアハウス生活だった。以前おくっていたホームステイ生活になかなか慣れず、少し息苦しさを感じているとき、縁があってアサヒ荘の管理人のあかねさんとつながり、アサヒ荘を訪れ、住人と出会い、2022年の1月から住み始めた。

入居した最初の月は30人のクリエイターが集まるアサヒ荘合宿や、台湾喫茶『週末オノンノ倶楽部』との台湾イベント、合宿振り返りの会、映画会、クリエイターマルシェなど、大忙しで、常にイベントに参加しながらいろんな人と出会い、新なプロジェクトがどんどん立ち上がっていく中、わくわくしながらアサヒ荘の波に乗っていた。

今までみんなと数年一緒に住んでいたのではないかと思えるくらい、アサヒ荘の生活にあっという間に溶け込んだ。家にいるのが居心地よくて、帰ると「ただいま」に答えてくれる住人がいて、こたつを囲んでご飯を食べたり話したりできることがとても嬉しかった。アサヒ荘の家の雰囲気と一緒に住んでいる住人のあたたかさによって、自然と素の自分が初日から出ていた気がしている。

私がアサヒ荘に住み始めてから、合計8人の住人と生活を共にした。卒業する住人を見送ったり、新しい住人を出迎えたりした。
生活を共にしているからか、みんなとは家族や友達とも少し違う、親密で不思議な関係でむすばれていった。
こたつを囲んで夜更かししたり、一緒に銭湯に行ったり、仕事を一緒に探してくれたり、大事な日に玄関先で見送ってくれたり、ご飯や飲みに誘ってくれたり、体調が悪いときに心配してくれて必要なものとお菓子をいっぱい買ってくれたり、お互い相談しあったり。
住人全員と過ごすこともあれば、一対一の時間、1人の時間も保てる環境の中、甘えたりお互い支え合ったりしていた。
もちろん、生活を共にしているから、時には怒ったり、イライラしたり、場がピリピリすることもある。でも一緒に住んでいるからこそ共有できる大切なあたたかい時間もいっぱいある。

アサヒ荘では月に1・2回、イベントを開催していた。住人の友達やその月に知り合った人、アサヒ荘に興味を抱いてくれている人を呼んで遊びに来てもらって、1日過ごす会だ。イベントの日程やテーマによっては集まる人数が異なるが、1カ月の中で家に一番人が集まる日なのだ。玄関は靴でいっぱいになり、居間のこたつの周りに人が集い自己紹介をしたりいろんな話をしたり。イベント中で私が一番好きで落ち着く場所はキッチンだった。居間とは少し違うゆったりとした時間が流れていて、飲み物やご飯を作りながら話したり、無言でも過ごせる。
たまにキッチンから居間の様子を観察し、いろんな交流をみていた。そして終電の時間が近づくと、家と駅の往復ラッシュが始まる。アサヒ荘に遊びに来てくれた人を駅まで送るのだ。それぞれ終電の時間や帰るタイミングが違うので家から商店街を通って駅まで行く道を何回も往復する。たまに終電ギリギリで一緒に走ることもある。その往復の時間もとても楽しい。
最後の人を見送って家に帰ると、片付けが始まり、アサヒ荘がまた静かになる。それぞれが作業をする日常のアサヒ荘の時間がまた始まる。


アサヒ荘に住んでいる時期は私にとって大学最後の年と卒業後の時期と重なっていた。
私は「仕事」「活動」「働き方」に対して焦りを感じていた。そんな中、それぞれがそれぞれの活動をしていて、みんなの働いている姿を見ながら、刺激され、考え、悩み、相談し、背中を押されて自分なりに進んでみたい方向を見つけていった。自分がはちゃけられて、甘えられる、居心地のいいこの環境から一回離れて、自分がなりたい作家・職人の活動のために新しい生活を始めようと思えた。うまくいかなくても、想像していたことと違っても、なにかあったらいつでもアサヒ荘のみんなのもとに帰れるという安心感を抱き始め、アサヒ荘を出ることを決めた。

みんなと一緒にいることが私の中で当たり前すぎて、アサヒ荘を出る当日まで、卒業して新しい生活を始めるという実感がわかなかった。
離れて生活している自分を想像することができなかった。荷物を抱えて、家の玄関を出て駅に向かう道中、自分が送ってもらっていることにやっと気づき、急に実感が湧き始めた。涙が止まらず、駅の改札に着いて手を振る時には涙で視界が塞がっていて喉の奥が苦しくて、でも見送ってくれている住人には笑顔の自分を見せたくて。新幹線の中でも涙が止まらず、しばらく一人暮らしも寂しかった。でもそれと同時にアサヒ荘に出会えたこと、みんなと一緒に住めたこと、17ヶ月間アサヒ荘で生活できていろんな人と繋がれたことが自分にとってとても幸せで嬉しくて誇りに思えることだと実感した。
私がアサヒ荘を出てから、新たなメンバーがアサヒ荘に住み始めた。時間と住むメンバーと共に少しづつかたちが変わっていくアサヒ荘は今月で2周年を迎えた。
今度帰る時にはアサヒ荘がどんなかたちになっているのかわくわくする。
それまで思い出話いっぱい溜めて、たまにアサヒ荘生活中に撮った写真を眺めながらも、また元気にアサヒ荘のみんなに会いに行く日を楽しみにしています♪

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