スポーツから類推するゲーム上達法

ゲーム上達法の正しさは検証されにくい

ゲーム上達法は、ブログ・攻略サイトなどに多数存在する。しかし、それが正しいとする根拠は、個人の実績や感想にとどまっているものが大半だ。(上位ランカーが記した持論など)
その正しさについて科学的に検証されている上達法は見かけたことがない。(※ この考察も未検証の意見の1つになる)

ある上達法を用いた群と用いなかった群を比較して、上達の早さに統計学的有意差が出るか といった方法が科学的にエビデンスとなりうる検証方法 (研究) になる。実行するには研究に賛同する多数の人が必要になる。具体的には、研究に必要な知識を持つ評価者・検者と、一定数の被験者が必要。そのような参加者を募る研究としては、公益性が低い。ゲームは趣味であり、上達しても生活や社会がよくならないという公益性の低さが、検証されにくい原因と考える。
(ビジネス・教育などで目標達成の成功因子として紹介されるSMARTの法則のうち、公益性との関連性 Relavant に欠いている)

(この議論への感想についての一連のツイート)


スポーツからの類推が有用かもしれない

統計学的検証が利用できないとして、どのような過程で提唱された上達法に妥当性があるだろうか。

パターン1 : 複数の上位プレイヤーで検討された意見
行政でも "有識者会議" として行われる手法。一般プレイヤーとしては以下の2点を確認することで妥当性をある程度確保できるかもしれない。
・提唱者が上位プレイヤーか (実績を残しているか)
・他の上位プレイヤーも同意しているか

パターン2 : 他の分野で検証されている理論からの類推
私は上位プレイヤーではないので、新たなアイディアを得るにはこの方法になる。
技術の上達法というのは、技能学習という分野に相当する。教育や心理学で研究されている。
対戦ゲームの場合、競技性・動作の複雑性から考えると (eスポーツと呼ばれることもある通り) 運動/スポーツの技能学習理論から類推するのが有用かもしれない。

運動/スポーツの概念

いくつか関連しそうな概念の要約をまとめる。(難しいので読み飛ばし可, 次の項目にまとめる)

運動制御の仕組み (Whiting, 1975)
1. 情報入力
2. フィードフォワード制御 : 状況判断し動作を決定
3. フィードバック制御 : 動作中に微調整を繰り返す

知識の分類 (Thomas, 1987)
いずれの知識も状況判断に密接に関わる。
・宣言的知識 : 文字にできるような知識, 意識的に利用される
・手続き的知識 : 文字にできないような動作に関する知識 (ノウハウ), 無意識的に利用される

フィードバックの種類
・固有フィードバック : 自分自身で行うフィードバック
 ・内在フィードバック : 無意識の感覚のフィードバック (個々の筋肉の使い方など)
 ・外在フィードバック : 意識的なフィードバック
・付加的フィードバック : 他者から与えられるフィードバック
 ・結果の知識 : 最終結果 (100mのタイムなど)
 ・遂行の知識 : 運動方法 (腕の振り方など)

スキーマ理論 (Schmidt, 1975)
運動のフィードフォワード制御・フィードバック制御を説明する理論
・般化運動プログラム : パラメーターを与えると一定の運動を行うプログラム (例. パラメーター : 投げる力 → 一定の運動 : 投球)
・スキーマ : 単純化してまとめられた知識のデータベース
 ・再認スキーマ : 過去の感覚-結果の対応 (例. 15m投げた時 (結果) は全力 (感覚) で投げた)
 ・再生スキーマ : パラメーター-結果の対応 (例. パラメーター : 投げる力 10 → 結果 : 飛距離 10m)

学習プロセス
1. 個別の状況に対応しながら試行錯誤 (再認スキーマに感覚-結果を蓄積して動作をフィードバック制御)
2. 初見の状況でも経験的に対応できるようになる (再生スキーマからパラメーターを類推してフィードフォワード制御で般化運動プログラムを動かす)

運動/スポーツの概念のまとめ

運動の仕組み
1. 状況判断 : 情報と知識から状況判断
2. 実行 : 状況判断にもとづいて動いてみる
3. 微調整 : 動いていく中で微調整

状況判断に必要なのは知識ノウハウ
経験を積むと微調整不要になってくる (1発で正確な動きができるようになる)

運動/スポーツで指摘されていること

・状況判断には知識も重要
・決定的場面の状況判断を解説するのが状況判断トレーニングになる
・フィードバックは内在フィードバックが最重要 (= 自力での試行錯誤が最重要)
・内在フィードバック以外のフィードバックも個別に効果あり (全部利用するのがベスト)
・他の人からのアドバイス (付加的フィードバック) はゲーム終了直後が効果的
・適宜間隔を空けてアドバイスを貰う方が、毎回アドバイスを貰うよりも身につく (要約フィードバックのほうが保持効果が高い)
・実戦に近い練習方法のほうが反復練習よりも効果的 (ランダムテストの成績は、ブロック練習よりランダム練習のほうが良い, ただし習得まで時間はかかる)

スポーツから類推するゲーム上達法 (本記事のまとめ)

何よりも実戦経験数が重要だが、知識・自己省察/アドバイスも併用する。
実戦経験数 : 実戦の回数を稼ぐのが最重要
 (トレーニングモードなどでの反復練習の効果は限定的)
知識 : ルール・仕様や定石などの知識を勉強する
自己省察 : 決定的場面を録画に残して、どうすべきだったか自己解説する
アドバイス : たまにゲームを観てもらい、アドバイスを受ける
 (できればリアルタイムに観戦してもらいゲーム直後にアドバイスを受ける)

参考サイト

名古屋大学総合保健体育科学センター 運動学習科学研究室 https://nagoya-hml.com/hmls/qa/
科学辞典 - 学習心理学 https://kagaku-jiten.com/learning-psychology/
(他にもインターネット検索でヒットするような大学レポジトリに登録されているレポートも参考にした)

おまけ - 以前の自分の考察

アクションゲームはなぜ難しいか という題材で考察したことがあった。今から振り返ると、運動制御やスキーマ理論に対応していそうだ。
入力 (情報収集), 情報処理 (選択), 出力 (コントローラー操作) の3段階に分けて考えたのだが、アクションゲームの場合は情報量が多い上に、コントローラー操作のパターン・タイミングも非常に多彩であり、そのため難しいと結論づけた。まとめ (考えうる上達法) の項目を引用する。

・情報収集 : 収集する情報を予定・予測
・情報処理 : 勝敗に寄与する状況・とるべき行動の明確なパターン化
・操作 : 安定しやすい操作にする, パターン練習

知識に近い要素 : 情報の予定・予測, 状況・行動のパターン化
技術に近い要素 : 情報の予定・予測 (処理速度の早さ), パターン練習

パターン化というのを重視した。これをスキーマ理論で説明すると、経験の蓄積が再生スキーマとなり、無意識でも適切な操作で適切なキャラクターのコントロールを引き出せる状態、つまり般化運動プログラムの獲得に等しい。

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