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Venture Debt、基礎から実践まで

注釈
●      今回の内容はUB Venturesが、ベンチャーデットに取り組む金融機関で働く方にお伺いし、作成したものです。
●      日本において、ベンチャーデットのあり方や銀行側のスタンスは明確に定義されておらず、各銀行、担当者によってスタンスが異なるのが現状となっています。


 デットファイナンスの主な種類

 新創業融資
・「開業前または開業後2期を経過するまで」の人が利用できる。
・融資上限額は3,000万円で初回は1,000万円程度のことが多い

保証付融資
・100%保証の制度融資の1つである「創業融資」の場合、最大3,500万円、平均2,500万円程度借りられるケースが多い
・借り手は金利+保証料0.5~2%の程度を払わなければならない
・原則経営者保証が求められ、経営者自身が借りる額を保証しなければならないことを認識すべき

プロパー融資:保証のついていない「信用貸し」

資本性ローン:最近件数が減っており年間10件〜20件にとどまる

Q:デット調達をしようと思ったときに、どういう順番で検討すべきか?
A:借りやすさの観点でいえば、新創業融資や保証付融資が比較的通りやすい。一方、借りられる額は小さくなる。金額を大きくしたい場合は、資本性ローンやベンチャーデット、もしくは保証協会の無担保融資(最大8,000万円)を検討するべき。

デットファイナンスにおける留意点

  • 銀行側の基準は「この企業/起業家と長期間付き合えるかどうか」

  • 事業計画を示す際は計画の前提条件を明確にした上でその確からしさを伝える

  • 保証付融資やプロパー融資における銀行の最大の関心ポイントは黒字化の見込み

    • 1~2年で黒字化できることを示すべき(3,4年先だと懸念事項となる)

    • VCと銀行では求められるものが異なるため、投資家向けと金融機関向けで事業計画が2つあると良い

    •  複数作った際は全て見せるべき。1〜2年で黒字化できるシナリオと、それが実現しない場合のシナリオ、両方説明する。
      (ここの前提を変えると2年で黒字化できて、資金がショートしそうになったら〇〇を変えて黒字化します)

    • 債務超過の状態でデットファイナンスに応じてくれる銀行は少ない
      →債務超過なのであればいつ解消するのか明確に示す

  • 元金均等返済の場合、借入期間が短いと実際に使える額が限られてしまうので、据置期間を設定するなど工夫が必要

  • 一方、期限一括返済の場合は自由に使える資金を確保しやすいが、返済の目途を早期から立てておく必要がある

  • また期限一括返済の場合、銀行にとってのリスクが高まるので、積極的ではない可能性が高い

  •  当座貸越は一定の限度額(極度額)までは自由に借りたり返したりすることができ、融資を受けやすいが、借りる際に最長与信期間をきちんと確認する

ベンチャーデットの定義、どのようなデットが存在する?

  1. ベンチャーデット(長期:3年以上)
    ・ベンチャーデットは、エクイティとデットの両方の性格を持つ金融商品の総称で、転換社債(転換社債型新株予約権付社債)や新株予約権付融資などが含まれる。赤字のスタートアップに対するプロパーローンも、ベンチャーデットと呼ばれることがある。
    ・スタートアップ企業は融資を受けると同時に、自社の株式をあらかじめ定められた価格で購入できる新株予約権を無償付与する。(3~5%程度の金利)

  2. ブリッジファイナンス(短期:半年~1年)
    ・融資期間1年以内で、新株予約権の付与がない代わりに高金利
    ・利用する理想的なケースとしては、大型の契約が決まった際にブリッジで借りて納品を完了させて業績を作り、次回のエクイティ調達の際にバリュエーションを上げる、など

なぜ今、ベンチャーデットが注目されているのか?

Q:どの銀行を選ぶかのポイントは?
A:その銀行がどのくらいの期間、ベンチャーデットをやってきたかは見るべきポイント。歴史の浅い銀行は、融資実行までの期間が短い可能性が高いケースが多いが、その反面、責任者や担当者の交代などで急に取組方針が変わることもある。

一般的融資やVC調達と比較したときの、ベンチャーデットのメリット・デメリットは?

  • コベナンツについて(財務制限条項)

    •  一定のキャッシュ維持(5,000万程度)など、銀行が回収の蓋然性を高めるため定められる満たさなければならない条件。ここの要件は事前に銀行と交渉すべき

    • 現状、明文化して書面にするケースは少ないが、コミュニケーションの中でほとんどの場合で要求される。今後は明文化していく動きが強まるだろう

  • 調達の規模

    • 初回は1億〜2億が平均的な規模。

    • デットのみでスタートアップを運用するのは厳しく、エクイティとの併用が前提

    • エクイティのファイナンスの金額に対して数十%程度のデット調達をするのが良い。但し、前提は既存借入も含んだ「返せる金額」の調達。会社によって限度額は異なる

ベンチャーデットを活用する際の注意点は?

 ベンチャーデットの活用に適した企業

  • 将来の売上の蓋然性が高い企業=返済原資がある企業
    赤字でも、マーケや採用等の先行投資を抑えれば黒字化が見込まれる企業
    例:PMFができ、MRRで2,000万円超、月次チャーン2%未満)

  • 投資家(新規/既存)から高確度で投資を得ることができるとき
    →次のラウンドも入る、という確約があるケースなど

ベンチャーデットの活用に適した調達目的・タイミング

  • エクイティと同時、または調達後まもなく
    →事業計画からのブレが少ないから

ベンチャーデット(デットそのもの)に適していない企業の特徴

  • (PMF前で)返済原資がない企業
    →ディープテックなど

  • 試算表が翌々月までに作成できない企業
    →会計回りが整っていないと銀行とのコミュニケーションが断絶する可能性がある

ベンチャーデットに適していない目的・タイミング

  • 成長投資に当たらない資金使途
    →土地を買う、など

  • ランウェイが6か月もない
    →3か月~6か月ほど銀行側の検討期間がある

  • 現時点のランウェイよりも返済期限が短い、またはほとんど変わらない場合、借りる意味があまりない

Q:デット調達とエクイティ調達が同時だと銀行側として検討しやすい?
A:YES。事業計画を作成したばかりであるため変動が少なく議論しなければならない論点が少ない。VCのリファレンス面談に銀行が入ることもあり、審議がスムーズに進むことが多い。エクイティ調達するタイミングはデット調達を検討するチャンス。また起業家側にとっても、デットという選択肢を持ちながらVCとの交渉に臨むことで、強力な交渉材料とすることができる。

Q:銀行に対して据置期間の有無に関する交渉はどのようにするべきか?
A:最初から相談する。銀行にとって、据置期間の有無で審査の難易度は大きく変わるので、途中から据置の交渉をし始めても応じてくれない。

ベンチャーデットを活用する際の、銀行との適切な関係の築き方は?

  • ウソをつかない、隠さない。悪いことはなるべくこまめに早く連絡する。これが後々の信頼関係構築に響く
    →株主に送っている報告メールは銀行にも送る
    →コミュニケーションがあればあるほど、返済の形なども銀行から提案させてもらえる

  • 資料提出は速やかに行う

  • 事業計画は、投資家向けとは別に、銀行向けがある方が望ましい。例えば、投資家向けよりも投資を抑えて1-2年で黒字化できるイメージの計画。複数あるのなら全て伝える

  • 今の赤字、将来の赤字の要因を説明できるようにしておく

  • ベンチャーデットの出し手が、「まずは短期のもので実績作りから」と言ってくる場合(非常に稀)は、どうなったら長期融資をしてもらえるか、確認することが肝要。単なるノルマ達成のためにやっている銀行もなくはない

調達後の銀行とのより良い関係の築き方のポイント

  • 株主報告会または定期的な面談での情報提供

  • 都度、コンペをさせて最も金利が低いところで借りるというショッピング的なデット調達は控えた方が良い。銀行は中長期的に信頼関係を築きたいと思っているので、そのような姿勢は嫌がられる

Q:長期的に借りるポイントは?
A:最初は当座貸越で借りる際も、半年後に長期融資の再検討をお願いする。情報提供をこまめにするなど、初期できちんと信頼関係を築く。

Q:新株予約権の割当を少なくして金利を高く設定した借り方はできるのか?
A:ベンチャーデットの場合、IRRで20%程度、エクイティの投資だと40%〜60%。IRRが20%程度に収まるのであれば新株予約権の割合と金利の割合は動かす余地がある。
金利が上がれば上がるほどキャッシュアウトは出てしまうのでそこをどうとらえるかは検討すべき。

Q:PMF達成前にどうやって銀行と関係構築をするべきか?
A:PMF前は創業融資や保証協会の保証付融資を調達する。今すぐ融資ができない場合でも、今後の検討のために半年に1回の情報交換などはやっても良い。

Q:同時に何行か検討することの是非
A:リスクヘッジの観点で、同時に何行か検討するのは良いが、経済性の部分でのコミュニケーション(金利、新株予約権の割合での他行との比較)はあまり喜ばれない。数字で選ぶのではなく、どういう関係が作れるか、共創関係が築けるかを大事にするべき。

 

最後に

Thinkaとは、日本の産業を進化させるというミッションのもと、次世代を担う起業家が、集い・学び・表現する場です。机上論よりも実体験、成功経験よりも失敗経験、自己顕示よりも自己開示。Thinkaでは、最前線の起業家・事業家を招いた生々しい体験の共有や、参加者が直面している課題を互いにシェアし議論することで、失敗から学び、挑戦をするという文化を育んでいきます。

今回は、「Venture Debt 基礎から実践まで」という、 市況が冷え込み、資金調達環境が厳しさを増す中で、昨今注目が高まっているデット性の資金調達についてディスカッションしました。

次回のMonthly Thinkaは2023年1月末に開催予定です。

Thinkaについて

ThinkaはUB Venturesが運営する起業家のためのソーシャルクラブです。
アーリーステージのスタートアップ起業家が集い、自らの課題・体験をシェアし、共に学ぶ場として2019年から運営しています。

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UB Venturesについて

UB Venturesは、世界の新産業を創造する「起業家と事業」の成長プロセスを、「リアルな事業経験」を基にリードし続けるベンチャーキャピタルです。

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執筆:鈴木梨里 | UB Ventures インターン
2023.01.25