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『求む!最強のたまごかけごはんの作り方』

  どう、と対戦車ライフルが火を噴いた。裾野の大気を震わせた重金属弾頭は標的へ過たず命中したが……多くの観客の期待通りに弾き返され宙を舞った。標的は微動だにせず傷跡ひとつない柔肌で気持ちよさそうに陽光と観客の視線を浴びている。その標的とは「生卵」。ごく普通の鶏卵である。

(……私はTKGを食べたかっただけなのに……)

 はじめはテーブルの角だった。「こんっ」女子高生が自然な力で叩き付けたその卵はテーブルの角(パーム材/IKEA)を弾き返し一切の無傷。「ごんっ」強い力を加えても「ゴンッ!」テーブルに投げつけても卵を割ることは叶わなかった。

 誰にも割れない卵があるという噂を聞きつけて、空手道北斗会鵠沼支部会長である叔父が甥っ子を連れて挑戦にやってきた。

 「鋭ッ!」「シャオッ!」拳、手刀、肘、秘技鳥嘴拳、ビール瓶を易々と切断する拳足が一切効果をあらわさない。

 「どきな親父……」甥っ子はガムを噛みながらノーモーションで角材を振り下ろし「ドギャッ!」タイヤ、ゴミ箱、鉄パイプ、バス停で卵に襲い掛かるが、湘南旧車會《或後律動》総長の努力は無に帰した。

 叔父と甥の号令により、日本中からあらゆる武術家とアウトローたちが卵への挑戦のために我が家へ押しかけてくるようになり、湘南エリアの治安は急激に悪化。国道一号線はアウトローで渋滞し海岸では武術家同士の力試しも日常茶飯事だ。

 私、柳小路ひよ子の境遇は、家族からTKGを禁止された挙句、学校中で治安悪化の根源として後ろ指をさされ、憧れの氷田先輩は遠ざかり、試合場へアウトローと武術家が大挙して応援に押しかけるので弓道部には出入り禁止。(悪い人達じゃないんだけどネ)

 もうダメだ。

「誰か、あの卵を割って、この地獄を終わらせてください!!」

クスクス……

 私の悲鳴に呼応して校舎屋上に悪魔が降臨した。

『その願い……叶えて差し上げましょうか?』

【続く】

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