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『求む!最強のたまごかけごはんの作り方』 2杯目

 鵠沼上空の静止軌道で某国の秘密制裁軍事衛星《ウェンズデー》が鎌首をもたげた。雷神は腹腔の《杖》をアームで抜き取り「卵」をロックオンする。
 「諸君!この作戦は国防である。瞬殺無音!衛星軌道からの標的限定破壊による制裁!《裁きの雷》は地下数百メートルまで貫通し決して雷神の裁きから逃れることができないことを世界中のテロリストどもに知らしめるのだ!」
 ペンタゴン中に響き渡る大音声の後、大統領決裁と上級オペレーター二名による同時操作を経て《神の杖》が投下された。

『卵も割れない航空宇宙軍』  より

承前

 「押忍!ひよ子さん!押忍!」
 「んに見てんだォラァ! ひよ子ちゃん さっ どうぞお通りください!!」
「押忍!」「押忍!」「押忍!」「押忍!」

 悪魔の降臨から1週間。「願い」を保留にした柳小路ひよ子は苦悩の日々を送っていた。

 彼女の所持する《卵》を割るために連日連夜、柳小路家へ押しかける武術家やアウトローたち。彼らは徒手空拳や凶器によって《卵》を割り、己の力量を日本中へ示そうとしていた。当然、最強の生卵の持ち主であるひよ子に対しては(必要以上に)敬意を払い護衛もどきが通学に付き添うようになってしまったのだ。

 ひよ子の父母は挑戦者から寄せられるチャレンジ料という収入を目当てに事態を黙認。さらにひよ子は立会人としてほかほかのごはんを用意した状態で「試し割り」を観覧させられることになったのだ。

「イヤーッ!」「失敗です」

「憤ッ!」「またどうぞ」

「どすこい!」「ごっつぁん」

「ンダコラ!」「またきてね」

「部長死ねーっ!」「スッキリしましたか?」

×空手家(踵落とし)
×中国拳法家(ワンインチパンチ)
×学生横綱(ぶちかまし)
×暴走族(頭突き)
×サラリーマン(アタッシュケース)

+5,000円

 家計は潤ったが、ひよ子の心境は散々だ。(誰でもいいから早く割ってくれないかな)  そして新たなる挑戦者が訪れる。

 「柳小路ひよ子、頼む!! 卵割りに挑戦をさせてくれ!!」
 「「オナシャーース!!」」

 二名の屈強な野球選手を先頭に約100名の丸刈りがひよ子へ頭を下げていた。

 先頭の二名は極楽寺学園野球部主将、2019年夏の甲子園神奈川県代表当確と言われたが怪我により二回戦敗退を喫し雪辱に燃えるエース《氷結スライダー》氷田。そして。氷田の不調で再戦の約束を果たせなかった吉田新田高校の《保土ヶ谷のホームラン王》山田。

 親友にして、終生のライバル。プロ入り確実の二人が非公式に決着をつけるために柳小路家へやってきたのだ。

 ポカンとして玄関で立ちすくむひよ子。学園中の憧れの英雄(ジョック)が何者でもない女生徒に頭を下げて挑戦を申し出るというスクールカーストの超逆転現象にひよ子は動揺していた。

 「お願いします。氷田と決着をつけさせてください」
 「えっ、あっ、へへへ」
 「頼む、柳小路ひよ子!」
 「ふへへへ、そ、そこまで言うなら仕方ないかなー」
 「ありがたい!」

 ガッシリした手のひらに両手を包まれてひよ子の劣等感はどこかへ吹き飛んでいった。この生卵を保持している限り、学園の女王に君臨できる。

(こ、このままでもいいかも……)

【つづく】


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