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『超高速《蜘蛛の糸》』

天国と地獄であっても通信回線の進化とは無縁ではなかったらしい。地獄から天へ昇った俺はハードボイルドに天界のVAPEをキメながら足元で光を放つ極太の蜘蛛の糸を見つめる。

地獄と天国の間で上り14.4kbpsの蜘蛛の糸を垂らしていた時代はもう終わった。少し前までは餓鬼や亡者が集中すると魂のアップロードもままならず、転生放題の時間になるとすぐに切れて回線落ちしまくっていたものだった。

だが、いまではリプレイスされた極太回線によって六道を瞬く間に通り抜けて即座に輪廻転生が完了するようになった。いまじゃカンダタの説話を聞くのは絵本の中だけだ。実は俺が最後に死んでからまだ10秒も経っていない。高速回線万歳。天国に居ながら地獄のホラー映画を楽しめる時代だ。

さてと下界はどうなってるかな。桃色雲の隙間から人間道を見下ろすと、埠頭のコンテナヤードが赤く染まっていた。あたり一面に人間だったものが散らばり、その中心で白スーツの死体に何度も長ドスを突き立てている黒スーツの色男が見える。

水野クロウ。いわゆるヤクザの鉄砲玉。蒼白な顔面が赤い血に汚れて何とも言えない妖艶さだ。その足元で胸を何度も刺されているダンディが俺だ。ついでにコンテナにドスで張り付けられている死体も四方八方に散らばる手足の持ち主も、全てこの俺、神田一生だ。

ありとあらゆる善行でカルマをため込んできたんだ。一度や二度殺されたくらいじゃ死なねえよ。エレベーターの「開」を押し続けた総時間で俺に勝てるやつはいない。天界のカルマ帳簿係にウィンクをする。

 そして男はまるで散歩でもするかのように人間道へ飛び降りた。

光柱と共に降臨する白スーツを見てクロウは悲鳴を上げた。殺しても死なない男はいくらでもいたが、殺すたびに降臨してくる男は初めてだ。

「なんなんだよお前は!!」
「ちょっとした保険外交員さ。あんたカルマ調整に興味はないか。鉄砲玉なんだろ?」

《つづく》

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