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令和になってようやく『とらドラ!ポータブル』をプレイした。(2009年のゲーム)

本体を持っていないゲームソフトを得ることは最上である。
本体を買いプレイすることは、その次によい。
サッカレー(英 1811~1863)

前回のラストで突如出現した謎の物体。

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「ビックリした?」
「たしかにビックリした」
「でも、このあとどうやってプレイするかって思わなかったのか?」
「みんなのあきれる顔が見たい一心で……他のことはあんまり……」

良く来たな、お望月さんだよ。
本体を購入せずにソフトだけが沸いてきたことでおなじみの『とらドラ!ポータブル』をプレイしました。だけど、これは12年も前に発売されたゲーム。そもそもPSPの本体すら所持していない状態だったのでプレイするまでに幾多の困難が立ちはだかったのです。

(これまでのあらすじ)

PSPを買いに行こう

から始まる与太話版はMin.tでまとめたのでそちらをご覧いただくとして、PSPは未だに中古製品が流通している豊饒の海でした。さすがに電源アダプタやバッテリーは損耗しているんですが交換品が豊富で、さすがのSONY。機器の状態もよく愛されたハードなのだと思いました。持っててよかったPSP。(だがメモリースティック!貴様は許さん!)

ようやく『とらドラ!ポータブル』をプレイした。

というわけで、『とらドラ!ポータブル』をプレイしてみたのですが、中々どうしてクオリティが高く、原作履修者にとってもわかりみのあるシナリオが搭載された傑作でした。

製作者インタビューによるとアニメ放送開始前から原作小説ベースで開発が行われていた作品であり、幾多の作り直しを経て誕生したゲームであることこととで、たしかにその名残がゲーム内にも残っています。(冬休みに夏祭りと花火と肝試しがあるぞ)

原作の結末にあたる最終2巻分を除いた状況証拠からシナリオを再構築して、可能な限り多彩なエンディングを見せていこうという志を感じます。それに関わって来るのがヒロインやサブキャラ達、そして消え去ったはずのあの女傑……。彼らが自己主張を始めることによって製作背景からゲーム版『探偵映画』的なシルエットが浮かび上がって来るのです。つまり、最も説得力のあるエンディングを発表した脇役が主役になれる。壮絶なバトルロイヤルが開始されたのです。

ゲームの評価(★★★★☆)

『とらドラ!ポータブル(PSP)』
ビジュアル、題材、システムが高品質なアドベンチャーゲーム。恋愛要素はあるものの、そこを主には置かず、信念のぶつかり合いをメインにした硬派な青春を楽しむことができる。

※注意:筆者はアドベンチャーゲームを「かまいたちの夜」くらいしかプレイしたことがありません。(恋愛シミュレーション的なアレもよくわかんない)

Good
原作小説をよく理解した製作陣
原作をなぞりつつ無理のないif展開
原作・アニメより深刻になるまえに回収される展開
高品質な作画や口パク、音声の違和感のなさ
選択肢によるルート選択以外にも会話による分岐が存在。(あえて不快感を与える踏み込んだ質問も必要とされる)
意外と丁寧に動くSDモデルによる寸劇
チェックポイントへのクイックロード
エンディング後のヒント

Bad
同じルートに何度も吸い込まれる作業感
生徒会ルートの展開がやや不自然。(それは別ルートで帳消しにされる)
完全に悪役として設定されているみのりん
どう考えても夏休みに行うべきイベント群(製作者インタビューで謎が解ける)

えっ令和に「脱衣ブロック崩し」を!?

結論
『とらドラ!ポータブル』
本体ごと購入した甲斐がありましたね!原作小説及びスピンオフからまんべんなくネタを吸収して1本のゲームに仕上げただけでも感動もの。キャラクターの動作や反応まで含めて様々なifを楽しむことができました。

アニメーション、原作小説、ゲーム。様々な角度から光を当てて、作品世界やキャラクターを深堀りをする。久しぶりに骨の髄まで楽しませてもらった作品です。ありがとう、応援してくれたフォロワー!!

とらドラ!シリーズ全体に対しての総括

『とらドラ!』
完全にアニ・オタ向けの量産ラブ・コメかと思っていたんだけど、師白菜(はくさい)さんの育成ルート(心叫びたがってるんだ→空の青さを知る人よ→とらドラ!と順に慣れさせるやつ)にまんまと乗せられて、きっちり楽しませてもらいました。おかげで、食指をケジメしてたアニメ作品に対しても、先入観なくちゃんと見てみる気持ちが蘇りました。

とにかく、アニメの第一話と第二話のテンポと出し惜しみのなさがすばらしく、この好印象がシリーズ全体に行き届いた感じだ。

アニメーションを周回することでマフラー等の小物の使い方の細やかさに気が回るようになり、原作を通じて「母泰子15歳」という裏テーマにたどり着き、心臓を貫かれて涙腺を開発されてしまった。ゲーム版は、シナリオのifを通じて作品の持つ可能性に迫るものだった。

白菜さんが言っていた、超平和バスターズ作品になくて『とらドラ!』にしかないもののことを考えていたんだけど(そのために全部チェックする必要があった)、それは「ゆゆこ節」としか言いようのない台詞のキレとかではないかと思う。アニメ化に際して原作小説から変更された台詞が少ないんだ。

なんか「ゆゆこ節」を確認する術があれば……例えば、他のスタッフで製作された映像作品とか……あっこれは!?

原作小説を読んでから比較すると、アニメ化の手腕は凄まじいもので、複数のシナリオが持つ機能を整理してひとつにまとめたり、小説的な直接表現をアニメ的な「間」や「表情」に置き換える翻案力が際立っている。シナリオのシリアス濃度を一定値までに抑える能力も高い。物語の楽しさの10割はテンポの良さから生み出されるので、そういった演出のディレクションが行き渡っているのだろう。

なんだかんだで後発のアニメ版が最も洗練されているんだけど、原作小説の折り返し地点(文化祭以降)からの濃厚な人間ドラマがあってこその前半の軽さであり、このテーマをきっちりたたんだゆゆこ先生は偉いと思う。

なお、全メディア通してのエンディングではアニメ版の「1年経過。そして君は」が最良ではないかと改めて思った。余白の余韻とゴインが良いのだ。

キャラデザとか声優とかは、消化酵素がないのでほとんど語っていませんが、キャストの皆様は非常に巧みでよろしかったと思います。特に、大河の人は本当にかわいい。「意外と低い冷えた声」とか素で「何事!」とか言うしぐさとかは、すばらしかった。たしか、く、釘、釘パンチ?(インコちゃんしぐさ)

キャラデザに関して、櫛枝みのりんの眼光が怖くて、鑑賞前の「目は見開いているが瞳孔が開いていて仮面のように感情が読めない。こいつは忍者ハットリくんか?」という印象があったのですが、本編のキャラクターがそのままハットリくんだったのが良かったですね。笑顔と言う名の圧倒的無表情。何もわからない。

というわけで10年以上前のアニメーションですが『とらドラ!』のテーマは古びていません。オススメです。

以上です。もう何も感想は出てこないよ。たぶん。

PSP版のエンディング個別の感想

以下は、PSP版『とらドラ!ポータブル』の個別エンディングについての感想が続きます。PSPが入手困難、アニメーションのみ或いは小説のみでゲームを未プレイという同胞のために、ある程度の踏み込んだ内容で記載します。(記載は到達順)

また、生のプレイ実況はこちらです。何言ってるんだコイツってなると思うので、本記事では内容を抜粋してまるめていきます。

主な設定に関して

失恋によるメンタルショックと高熱によって記憶を失った、主人公高須竜児は彼を取り巻くヒロインたちや友人とふれあうことで徐々に記憶を取り戻していく。だが、複雑にもつれた恋のトライアングル・ドリーマーは彼を平穏のままにはしておかないのだ。

※原作ではクリスマスにインフルエンザに倒れて冬休みが明けるまで竜児はダウンしています。ゲーム時空は、この存在しない期間に設定されています。

なお、とらドラ!本編は「竜児の記憶を飛ばす」ことが物語の起点となっており、このような設定は非常に理にかなったものです。

※そして、本編の正月明けの修学旅行編では大河の記憶をなかったことにするのか、どうするのか、という点を巡って事件が発生します。立場は逆になりますが、ゲームのシナリオは本編の展開を裏返したものであると言えます。

エンディングに到達するとコトダマ空間に存在する教室に呼び出されて、その周の得点や改善策の感想戦に入ります。周回を繰り返すことで、プレイヤーが取り戻したい記憶や縁を結びたいキャラクター、複数のメインシナリオを選択していくことになります。

ゲームで大きなウェイトを占めるのが掃除タイム
松井棒的な道具で各地を掃除することで、記憶を取り戻す鍵となるアイテムを入手したり、コレクション要素(多彩なゴミ)を入手できます。

※原作小説でより顕著な変態的掃除欲求を満たすためのイベントです。公共の場でも掃除を実行するサイコパス行為に君も怯えよう。

エンディングその1『亜美ちゃんの召使い』
モデル美少女川嶋亜美の表面的な美しさに惑わされ奴隷化する将来を選ぶエンディング。特定の選択肢を選ばないと最初にルートが確定するエンディングで、原作での川嶋との出会い方が異なっていれば、こうなっていたかもしれない、というわかりやすいif展開だ。川嶋亜美は、自分を特別扱いしない竜児に好感を抱いているので、イエス犬マンの竜児に興味はないのだ。
かまいたちの夜で言えば、遭難エンド。

※本作でジョーカー的に立ち回る大天使川嶋亜美。プレイヤーは本作直前の時系列の《彼女の告白》を聞いているので、彼女の暗躍を止めることができないのだ。以下に引用した台詞はゲーム本編でも繰り返されることになる。
(そして、悲しいことにこの告白の記憶も竜児からは失われている)

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エンディングその2『先生のお気に入り』
色々あって担任の恋ヶ窪ゆり先生が高須家に入り浸るようになり、手料理を食わせているうちに絆されて(なんらかの間違いが起こり)結婚してしまう展開。担任と母親が同年代という不思議な環境がスパークした模様。
なお、原作スピンオフには、生徒との距離感を誤ったゆりちゃん先生が生徒に付きまとわれた、という番外編が掲載されており、その先生が線引きを誤るというのは解釈違いです!
ストーリー進行に必要なアイテムを所持していないとこのルートに吸い込まれる。かまいたちの夜で言えば大阪エンド。

エンディングその3『生徒会の犬』
自分の記憶を取り戻すことなく生徒会のために働き続けると、生徒会の犬として三年間を過ごすエンディングに到達する。竜児としては、友人関係に煩わされることなく好きな掃除だけをして過ごせるので幸せな生活ではある。

※なお、原作小説のエピローグでは、1か月間校内を掃除し続けた竜児が学園の小姑として恐怖の対象にされるエピソードが存在するので、遠からず生徒会は恐怖の掃除政治に支配されると思われる

エンディングその4『逢坂大河75点』
北村と前生徒会長の再会のために奔走するうちに、逢坂との出会いの記憶がよみがえるエンディング。クッキーの香りで記憶を取り戻し(プルースト効果)、大河の木刀を譲り受けて、恋敵・北村に正々堂々勝負を挑み、大河と竜児の距離は少しだけ縮まる。

竜児の意志が発揮される展開ではあるが、櫛枝に関する記憶は一切戻っていない。このまま忘れてもらったほうが八方丸く収まるんだけど……という「こうしてとらドラ!ポータブルは終わった。だがワシにはこれで終わりとは思えぬのじゃ」というエンディング。
かまいたちの夜で言えば、謎が残ったままの早期解決エンド。

エンディングその5『ようこそ!ドラゴン食堂へ』
「大河エンド」の選択肢で北村との思い出アイテムを選択した場合に分岐する。男同士のブロマンスが急速発達して、竜児は食堂をオープンする。
(スピンオフ第3巻に掲載されたif番外編へ接続する)

エンディングその6『からまわり』
自らの意志を持たず、中途半端な選択肢を選択した場合に到達する軟着陸エンド。原作終盤の展開「竜児に対する秘密を大河が北村と共有する」という描写を拡大した結末と思われる。
原作では、竜児に対して芽生えた恋心を北村と共有をする=原作序盤の竜児と北村の立場が入れ替わる という絶妙なポジショニングなんですが、それを記憶を失った立場から眺めると……という絶妙なビターエンディング。

※このエンディングの終了後に担任から説教され、ギャラリーモードのコメンタリーでも母親から説教されるので、製作者の力が入ったシナリオだと思う。

エンディングその7『ドラゴン宇宙へ』
前生徒会長、狩野すみれに気に入られたことにより、生徒会の要職に抜擢された竜児。北村とのTWO突風で生徒会を全国大会優勝へ導き、二人は共にNASAへ就職。一足先に宇宙飛行士となったすみれと合流するというエピソードである。
ユニークなのは、エンディング直前のすみれとの会話の選択肢次第では、彼女を口説いてしまうことが可能であるということだ。赤面した前生徒会長を見る機会はなかなかないのでアタックしてみよう。(なお、彼女を赤面させると生徒会役員としては認められない別の存在になるようなので、生徒会の犬ルートが確定します)

※このエンディングは竜児がほとんど絡まない特殊なエンディング。北村とすみれのあり得る未来を切り取った爽やかなエンディングが見ものである。

エンディングその8『川嶋亜美90点』
以降は大晦日の夜に大河と初詣をすることで分岐するルートを扱う。
川嶋との思い出が多い河原を掃除することで得られるアイテムを持ち込むことで達成できる難度の高いエンディング。竜児は記憶を失った自分との過去を「なかったこと」にする櫛枝に絶望し、その痛みを理解して共感することができる川嶋亜美の気持ちと正面から向き合うことになる。

二人は気持ちを確かめ合うが、その道が重なることはなく、亜美ちゃんは女優に専念するために東京へ戻り、竜児はシェフ修行のために留学し、数年間が過ぎる。やがて、時が青春の痛みを和らげた頃、二人は海外で偶然出会い、一から恋を始めることになるのだ。ほろ苦い痛みと甘さを兼ね備えた良いエンディングだと思う。

エンディングその9『川嶋亜美50点』
エンディングその10『川嶋亜美75点』

亜美と肝試しを行った際に必要なアイテムを所持していなかった、選択肢を誤った場合に到達する。亜美は学校を去り、やがて彼女の記憶も薄れていく。原作の「亜美ちゃんが転校する可能性があった」部分で本当に亜美ちゃんが去っていった場合のifであり、喪失感がとても強いエンディングだ。

エンディングその11『男子小学高校生たち』
肝試しで色気のない選択肢を選んだ場合に派生するエンディング。仲良し男子三人組で起業してクッキングバトルを行うエンディングとなる。何も気負うことなく、こんな風に過ごせたらどんなによかったか……。

エンディングその12『ここまでの話は一切無かったことにしてください』
クリスマスの失恋の記憶を取り戻すが、それを「なかったこと」にして日々を過ごす竜児。失恋大明神に祈り、全てを忘れてしまえば平和が戻って来る。そして竜児の頭蓋に木刀が迫る……。

※原作に近い展開。原作では年末を寝て過ごし、新学期に普通に登校するだけなので、違和感なく原作時空へ戻ることができるだろう。

エンディングその13『ゴーストハンター大河』
肝試しイベントで発生した幽霊騒ぎの真相を明らかにすると選択されるエンディング。幽霊のハントに成功した大河は大盛り上がり。みのりんと組んで女子大生霊能ハンターとして「これはトリックよ!」等の決め台詞で活躍するタレントとなるのだ。(これはこれで幸せそうで良かった)

エンディングその14『ここまでの話は一才無かったことにしてください(穏便)』
必要なアイテムを所持し、すべての選択肢を吟味したうえで、「敢えて」なかったことにすることで派生するルート。こちらのルートでも、物語は修学旅行編へ接続される。ただし、竜児の心の痛みはより深く大きい。

エンディングその15『一線を越える!』
誰も泰子のことを母親だと説明してくれない、という伏線が炸裂した。泰子が実の母親だと知らずに竜児は口説いてしまうのであった。おまえも口説かれるな!(ちゃんと誤解は解けるのでご安心ください)

エンディングその16『川嶋亜美100点』
一度90点エンドを確認したうえで、特定のアイテムを入手することで選択可能になる真・エンド。キーワードは淫夢の相手を好きになるやつ。

100点エンドは二人が「秘密の共有」をしたうえで、竜児と河原でキスをして転校。3ヶ月後の新学期に帰ってくるという、原作小説の大河の立場を踏襲した終わり方になっている。

つまり、かねてから噂されていた「亜美ちゃんと大河は、ほぼ代替可能である」という最新学説から導かれた展開と思われる。ゲームの製作時期(原作が修学旅行編あたり)の関係か、亜美ちゃん→大河への太めの矢印はあまり描かれていない。

キーアイテムはモノマネ150連発DVD。竜児の部屋に存在しないはずのアイテムが、周回を重ねるうちに密かに本棚に紛れ込み、誰かに見つかるまで身を潜めて、機会を伺っていたという解釈をすればよいだろうか。
そうすると何度もループを体験したかのような大天使川嶋亜美のセリフも納得できる。彼女には唯一の勝ち筋を仕込み、何度冬休みを繰り返してでも前に進もうとする執念がある。

モノマネDVDと交換に「亜美ちゃんデートDVD(雑誌の付録)」を手に入れる。→デートDVDを見た夜に淫夢を見る。→その淫夢を跳ね除ける→亜美ちゃんに「淫夢を見たがDVDや夢の中のお前は作り物だった」と宣言する→亜美ちゃんがふつうの年齢相応の少女に戻ってしまう、というロジックは理にかなったものだ。

そして、新学期に高校へ戻ってきた亜美ちゃんは、改めて大河とみのりんに宣戦布告する。
「竜児は亜美ちゃんのモノだああああ!!」
「「えええーー!」」
波乱の高校三年がはじまる!!

いやーよかったですね。楽しいですね。亜美ちゃんがきちんと意思を明らかにして、大河のように土足で壁を踏み越えていく。成長したんだなあ。

エンディングその17『逢坂大河100点』
高須竜児と逢坂大河との物語の集大成がここに存在する。二人は別々の想い人のために、相棒のために行動してきた。それが今や互いに欠かすことができないタイガー&ドラゴンとなっていた。それをついに自覚した竜児は、櫛枝からの「アリーデヴェルチ」を受けてケジメを果たした。

そして、今度は竜児の方から大河の部屋に不法侵入をして二人の距離が急接近……したような、していないような。ギリギリのラインで二人の同棲関係は回避され、そこには「ふつうの恋人同士」のように過ごす二人の姿があった。

このゲーム版のエンディングは、「傷が深くならないうちに、みのりんと竜児はきっちりと決着をつけて、竜児は大河の気持ちに向き合う」というルートを通過することになります。つまり亜美ちゃんの予言通りです。

原作との比較として、雪原の殺人心中事件が早期に解決されることが特徴です。「捨てたはずのヘアピンを竜児の目の前で着けるみのりん」という心の殺人が実行されることなく、「そのヘアピンが竜児が自分に贈るはずのものだったことに気づき自決するみのりん」も存在せず、「行き先を失ったヘアピンを探しに遭難して全員道連れに心中する大河」も存在しません。

製作者インタビューによると、ほぼ完成状態から、原作でこの展開をぶち込まれて失禁して椅子から転げ落ちたとのことでしたが、ここはとらドラのトロと言うべきポイントなので、メディアミックス作品が簡単にそれを越えられても困ります。それでいて、テーマを失わずにライトかつ丁寧にまとめたハッピーエンドを描いたの手際は良かったです。こういうのを求めていたんだと思うんだよな、視聴者は。

大河エンドの特徴は家宅侵入、同棲、ラブレター、大ドジ。第一話と第二話のリフレインが強めに使われていますね。

初詣で竜児を必要とすることを再確認した大河は、自ら高須家との距離を空ける。独立した個人として、対等に竜児と並び立つために努力をして、北村とも恋愛感情から離れた友人関係を発展させる。(本編の正月以降をトレース)
やがて、竜児が記憶を取り戻し、クリスマスの失恋をやりなおすために背中を蹴り出す。(本編の再演)

この時に、重要なアイテムが赤いマフラーである。
元々は竜児のマフラーを大河が奪ったもの。互いの肉体を行き来することで互いの体臭や匂いが混じり合った生々しい聖骸布となりました。本編のクリスマスやエンディングでも大きな役割を果たしたマフラーさんは、ゲームでも大きな意味を持ち、最終的に竜児はマフラーを大河に預けてから櫛枝への告白に向かい(心はここに預けていく)、正式に玉砕して戻ってくる。

竜児が戻ってきた時には、マフラーは完全に大河の粘液でぐしょぐしょにされており、改めて大河の気持ちが込められた呪具となるわけですね。波紋のマフラーとかそういうやつです。そして二人は互いの気持ちを認め合いエンディングへ向かいます。これには国際マフラー学会も全員で立ち上がり、ブラボー!ブラボー!となるわけですよ。

このエンディングでは、アニメ第一話の展開をリバースしたコメディエンドが繰り広げられます。

大河の部屋に竜児が侵入。俺の覚悟だ!と同棲開始。だけどそこにやっちゃんの裁定が入り、高校生なので同棲は禁止。折衷案として竜児が大河の部屋に一人暮らしをして、大河はやっちゃんと暮らすことになります。

ところが、大河の残した(竜児宛の)ラブレターが室内で発見されると立場逆転。誰にも見せずに処分されるはずだった「間違えて中身を入れたままの」ラブレターを開き、竜児は紙面からはみ出すほどの愛を受け取って物語は幕を閉じます。(手紙の内容はアニメ版のエンディングから推測可能)

こうしてふたりは「ふつうに恋をして」大人になりましたとさ。

綺麗に決着をつけて、本編やスピンオフでばら撒かれた何らかを回収したエンディングとなりました。めちゃくちゃ物語の回収が上手くできてる。小説を含めて元ネタを把握しているほど楽しめると思います。

エンディングその18『櫛枝実乃梨100点』
ついに櫛枝との最終バトルが勃発する。フェイスモーションを見ながら会話をするTORAシステムが本領を発揮。「相手を激怒させるツボ」をつきながら真正面からぶつかり合うという、叫び愛による仮面破壊が凍った心(プリーズフリーズ)を突破するカギとなるのであった。

物語開始時の目的についに到達した既定路線のエンディング。互いを思いやる心が二人を遠ざけていたことを直視して、若干の冷却期間を置いたうえで申し分なくお付き合いをするという健全な展開である。

クリスマスの記憶を取り戻した竜児は、大河の想いを理解してもなお、みのりんに愛を告白する。原作通りに拒絶して、激烈に怒鳴り合う竜児とみのりん。だけど、今回は避けることが許されない決闘告白である。正面から気持ちを受け止めたことで、みのりんに心身を整理する有意義な時間が生まれる。

原作での数ヶ月間分の葛藤を短時間で処理して、「あなたが好き」「大河も同じくらい好き」「大河の幸せが私の幸せ」「私の幸せは別のところにある」「でも、大河の成長を舐めてた」「大河は自分だけの足で歩きだした」「至らなかったのは私の方」「幸せのあり方を決めつけていただけかもしれない」と段階的に気持ちを整理するみのりん。

告白をする前段階の説得バトルで怒鳴りながら、気持ちが漏れすぎて、うっかりフライング告白(本人は気づいていない)している竜児の熱さも、ハズしとして有効に働いている。

真正面からロジックで詰めると遠ざかる領域も、無理やり距離を詰めて土足で踏み込むことで変化が生まれると言う、とらドラ!文法がうまく効いていると思う。

そして、行き詰まる二人の前をちくわ大明神が通り過ぎる。「もう大丈夫だよ」とみのりんに伝える大河。大河を連れ去る謎のちくわ大明神、大河が命をかけて拾った愛のヘアピンが、ついに櫛枝の元へ到達する。

愛という名の後方支援。大河が一番頑張った。

すべての後押しを受けたみのりんは、竜児の気持ちを受け入れて、クリスマスに竜児へわたすはずだったプレゼントを彼に手渡す。針の穴より細いifをくぐり抜け、いまソレが竜児の元へたどり着いた。

あれほどの強くぶつかり合った激情は笑いによって和らげられ、相変わらずふざけた調子の櫛枝の表情にも変化が見られる。櫛枝はあの日のヘアピンを身につけて、竜児の横に並び立つ。

とらドラ!という作品は「笑い」が非常に印象的な作品だった。誰かを笑わせることで心が近づいていく。それが「好き」という感情でなくても、互いに許しあい重なり合う部分を増やしていく物語だったと思う。(その点、大河と竜児は互いに腹筋が痛くなるほど笑い合う仲であった。そりゃ誰だって遠慮する。俺だって遠慮する)

こうして、クラスメイトに平穏が訪れる。休み時間の与太話の中で、竜児が「開国してくださいヨー」と問えば櫛枝は「春までに開国シマース」と答える。高校生というか中学生レベルの二人のやり取りが微笑ましい。赤面した櫛枝の「廃藩置県!廃藩置県!」という照れ隠しの言動もかわいいものだ。

物語開始の動機が綺麗に回収されて、八方が丸く収まる。亜美ちゃん以外。亜美ちゃん……おまえ……本当に悲しい愛の大天使……

やがて、高校3年となり、竜児と櫛枝は正式に付き合いはじめる。「仕事と女、どっちをえらぶ?」という、戯れの質問に竜児は真剣に答えを選び、実際に管理栄養士としての後方支援を通じて、彼女をナショナルチームへ導く原動力となった。

竜児の「すべてを捨てない」という幼稚な理想論だけど、ストイックな櫛枝が「スポーツも恋も両立させる」という欲張りな姿勢に転じさせる原動力になったのだと思う。

本ゲーム作品中では、徹底して悪役にされていたみのりんが、唯一救われるルートだと思う。よかったね!

エンディングその19『そして日常へ』
色々あったけど、消極的にすべてを無かったことにした竜児。だが、恋の尊厳殺人事件が発生する修学旅行は目の前に迫っていたのであった。→原作・アニメの展開へ続く。

エンディングその20『小火(ボヤ)』
これが真のエンディングではないかと思うんですが、大河がマンションで火事を起こして強制退場。櫛枝もフェードアウト、友達とは疎遠。不便の象徴であったマンションは取り壊されて、すべては焦土と化すのである。かまいたちの夜で言えば、ストックエンドですね。おつかれさまでした!

エンディングその21『番外編エンディング』
すべてのエンディングに到達することで解放される番外編。シナリオ冒頭で毎回激突することになる生徒会冨家と記憶があやふやな竜児の心が入れ替わってしまうという転校生展開が進行する。
エンディングに影響しない選択肢が2つあり「冨家として狩野さくらと最後の時を過ごす」「竜児として最後の時を大河を過ごす」どちらも切ない展開が待っている。特に大河が「竜児以外に見せる表情」は、とても美しく、かなしい。ぜひ完全エンドを目指してほしい。

未来へ

こうして、私は「とらドラ!」の呪縛から解き放たれた。これからは趣味として「とらドラ!」をゆっくりと楽しむことができるぞ。ふぅ~。

おつかれさまでした。
おまけのストックエンドを食らえ!!

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おわりです。

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