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UO人物列伝『演歌の花道』②

これは実話である。

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『知の聖堂《ライキューム》』の特設ステージ。
出演予定のアイドルグループSNGが通信トラブルによって現着しない旨を支配人が説明し、彼は観客の苦情を甘んじてケツで受けた。(彼は責任を全うしたのだ)そして、残り時間の穴埋めのために無名の女性がステージに立つ。彼女の名はMottie the Bard。

吟遊詩人であろう。ならばカラオケか、と観客たちは推測した。当時ブリタニア演芸界の歌い手には二種類が存在した。カラオケ的に既存の歌を発言マクロに搭載しているカラオケ人間 *4、そして既存アニメソングの歌唱を複数アカウント間同期で自動化*5させたカラオケアイドルグループである。

故に観客の期待値は低かった。

(またアニソンを聞かされるのか)(せめて知ってる歌だとイイな)

しかし、舞台に上がった吟遊詩人はまず客席いじりから始めた。この時点で異質である。

「こんばんはー」
「支配人の尻は私が守ります!」
「さぁこっちへ雪玉を投げて!」

散々雪玉を投げさせて雪まみれになる歌手。観客とのコールアンドレスポンスを繰り返し客席の温度を確かめていく。

「今日は演歌を聞いてもらいまーす」

(演歌?)(演歌だと?)
観客席に動揺が走る。プレイヤーには馴染んだ楽曲だが西洋ファンタジーの世界ではあまりにも異質なのではないか?しかし、彼女が着込んでいるのは禅都由来のObiとKimono。その生地は遠目から見ても高品質なものであることが見て取れる。観客席は異文化への好奇心に注目することになった。*6

彼女は歌い出した。
若き日に出会い愛し合った恋人たちの記憶、あなたが望む距離は2歩、私が求めるのは1歩の距離、二人の価値観の違いはやがて、二人の卒業と共に決定的に別たれる、そんな演歌を。

貴方が残る この宿舎を 今夜わたしは 出ていきます。
涙の別れに ならないように あなたに背を向け  Kal ort Por *7
さよなら さよなら 好きな人
ああ涙の ああ涙の 秘薬切れ *8

観客は泣いた。

<つづく>

註4 著作権的にNGの恐れがある
註5 著作権的にNGかつ明確な利用規約違反
註6 実はこの時期ソーサリア世界に新たな側面、和風世界「禅都」が発見されたばかりであり注目度は高かった。
註7 瞬間移動呪文 Recall のマントラ(起動/魔術/移動)を意味する。
註8 ウルティマシリーズの呪文は(秘薬)を消費して発動する。秘薬切れの場合、呪文は発動しない。つまり「サヨナラ」と言い残した後に、その場に居座る気まずい空気が流れる。ワザとか偶然か。二人の行く末は観客の想像に委ねられる。


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