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【最新小説review】『柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』第十話「柳生十兵衛がやって来る」

『バーフバリ』しかり『進撃の巨人』しかり『ジャイアントロボ 地球が静止する日』しかり、世の中の優れた大巨編は冒頭の数百文字や数分間、第一話に全てのエッセンスが含まれていることが多い。

町田市を舞台にした世界初の小説である『柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』もご多分に漏れずその要素を含み、さりげないセリフの応酬やキャラクターの端々からプロト版も含めた「死都町田ユニバース」を形成していることがよくわかる。今一度、逆噴射小説大賞に応募された第一話の800文字を読んでみてほしい。第十話で発揮される俺(百手のマサ)の交友関係や全員死亡したのにアナウンスを続ける防災課の「しんじつ」がこの時点で設定されていたことに目を見張るしかないであろう。

今回の本題は、冒頭10分で提示された物語構造・伏線が完全に回収されて、タイトルの真の意味までが明らかにされた第十話「柳生十兵衛がやって来る」の感想である。

疾走する百手のマサに立ち塞がるA級エキスパート月風連!それぞれがそれぞれの10倍強い循環参照的戦闘力加速の小宇宙。「狂える柳の名の下に!」狂気を理解してなお捨て石として柳生朝へ忠誠を誓う剣鬼の群れは筋道を通す魅力的な悪役として昇華されていく。

※月風連:柳生十兵衛を護衛する、柳生新陰流を極め狂人血清を打ち込んだ超人兵士の群れ。その実力は柳生新陰流を極め狂人血清を打ち込んだ超人兵士の十倍とされている。

それに呼応して出現する町田怪人軍団の威容はどうだ。侍がいた忍者がいた名無しのアーチャーもいる。この場に不審者が混ざっているのが実に町田らしい。「大将首じゃなくてもコスパ抜群の一戦ぞ!」二兆億利休の煽動に軽々しく乗り掛かる町田怪人軍団。まるでパチンコ屋の新装開店セールだ。さすが柳生十兵衛を斬るために全人口の8割が集っちゃった大武へん者の集団だ。まさにエンドゲーム、ここで勝負を決める!!

※コスパ抜群:そもそもの町田大虐殺は表敬訪問をした柳生十兵衛を討ち取って金も名誉も思いのままにしようと町田怪人が大量に集まったことが原因でもあるので、ある意味では一貫している。(町田怪人は、引かぬ懲りぬ省みぬ、でおなじみ)

この場面は『アベンジャーズ :エンドゲーム』のクライマックスと同様に大変にわかりやすく整理されていている。左手から町田を駆ける百手のマサと町田怪人軍団、右手からマサに立ち向かう月風連、左から右へ、柳生十兵衛が町田から逃げ去る前に百手のマサを辿り着かせる明確な《ゴールライン》が設定された。これは堪らないですよ。人間がエンタメに求める原始的欲求を分かっている。「走れ!マサ走れ!」観客は手に汗を握る、十兵衛も必死で逃げる、マサが走る、荒武者が散り、ネクロマンサーが進軍する、デスボットが日和見を決め込み劣勢側に火を放つ、黒天狗と紫インコは共通する敵に対して手を組んだ。町田怪人の一人一人にシリアスなドラマがある。二兆億利休や柳生ベイダーのエピソードがここで効いてくる。彼らは生きてた。

※ゴールライン:物語的な論点が明確にされる瞬間というのは鑑賞者お心が晴れやかになる。あらゆる複雑な要素を含めつつ、決着自体はシンプル極まりない走行勝負に持ち込む。作者の手腕が最も光った場面だと思う。

異形の多彩都市町田そのものが柳生軍団に雪崩を打って襲い掛かる。疾風ドンペリ突きに高密度レーザーが炸裂する。「前進撤退」をするヴァルチャー・スクアッド最後の一人の存在が柳生十兵衛の境遇を皮肉に笑う。そもそもエルンスト率いるヴァルチャー部隊が柳生十兵衛を苦しめ「突き」を引き出した姿をマサが見たことがこの大博打の勝算になっているのだ。これは燃える燃えますよ!

※疾風ドンペリ突き:インサイダー情報ですが、ホスト二号店は世間で追いはぎホスト団が話題になる前の時点で執筆されていたキャラクターです。美味しいところは見逃さない捕食者嗅覚の持ち主。

有象無象の町田怪人たちと「手」を結ぶ百手のマサの本領発揮。ほんとうに仲良しなのかはよく分からないが勝ち馬に乗りアッセンブルするのが町田アベンジャーズだ。本気誰心底有難ッス。限界を超えて逃走する十兵衛に追いつくには百手でも一手足りない。追い抜くには二手足りない。どうする、どうする、君ならどうする。さぁさぁさぁ、きたぞ!!「悪夢のZ2」だ!「轟ちゃん!」「マーくん!」二人なら必ず追いつける!

※悪夢のZ2:悪夢堂轟轟丸の愛車。無免高校生に不相応なまでチューンされた特製バイクが柳生十兵衛へ届く一歩となる「ゆうちゃん」のアルバイトも無駄ではなかったと象徴する場面だ。

だが嗚呼!相手は柳生十兵衛である。ヤギュニウム結晶の六つの力の一つ「時間」を操り彼は時を停止させた。1秒を争うレース中の時間停止能力使用の圧倒的シナジーはスティールボールランでもご存知の通りだ。十兵衛が半歩先んじた。ヤギュニウム結晶のことが気になりすぎるがここは次回の天狗に任せる!

※次回の天狗に任せる:今はそっちを気にしている場合ではないので次回にアロハ天狗先生がちゃんと説明してくれることを信じてあえて先を急ぐこと。信じているぞ!!

町田怪人総切腹姿勢。陸橋!ここはよく知っているぞ。映像が浮かぶ、十字路を超え陸橋を渡りきる十兵衛、バイクは限界仏契るがやはりあと半歩足りない!静寂。ここは相模原のようで相模原ではない。俺のマチダビリティがそこは相模原ではないと囁いている。柳生十兵衛が降り立ったのはまさに《町田》であった。マダム・ストラテジーヴァリウスの「あと一手」が届いた。

※境界変更:本作でも数少ない実現可能な必殺技である。

皆様は第一話の頃から、いやプロト版の時点から「全員死亡した防災課のアナウンスが継続していた」事実に気がついていただろうか。内臓館の住所が旧町田市役所であったことは?市内にネットワークを拡げゆりかごから墓場までケアしていた存在は?そう、マダムこそが「町田市の維持」を目的とした行政装置そのものであった。マサの申し出た取引はマダムの急所を突き、だからこそ彼女は賭けに乗り勝った。マサが柳生ベイダーが爽やかに命を投げ打ったことがどれほど彼女に影響したかは分からない。だが、決断し影響を与えることができる人間こそが主人公だ。百手のマサ、お前は立派な主人公だ。

※全員死亡した防災課:あまりフィーチャーされていなかった人物が、実は最初から最後まで重要な役割を果たしていたことが判明するのは好きかい?うん、大好きさ!

そして、クライマックス。

ヤァ!ヤァ!ヤァ!

ここに百手のマサがいる。

ヤァ!ヤァ!ヤァ!

柳生十兵衛がやって来る。

町田怪人と相模原の勇者が二人を囲む。

「来いよ、十兵衛」

柳生十兵衛がやって来る。

次回、いよいよ最終回!!

ここで燃えなきゃどうするよ!!


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