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『サメがいないゴルフ場!!鮫無カントリー倶楽部』 2打目

「ファ〜〜ッ!」

E8番コースから美しい声が響いた。そよいだ風のような耳によく届く長い声が。かの種族は空気の流れを読み確実に標的へ矢を届ける技術を体得していた。当然、それはゴルフボールにも適用される。

犬養滅次郎の第三打は的確に9番ホールのグリーンを捉えた。乱打ではあるが持ち前の飛距離で見事にパーオン。財閥首魁の豪腕は経営だけに適用されるわけではない。

「ナイスパーオン!ヨイショ!」

可もなく不可もない進行で同じくパーオンを果たした取引先が積極的にヨイショに走り滅次郎は威厳に満ちた笑みで応えた。

「クッ……芝は純目、どれだけ弱く打っても芝の子らが運んでくれる……」

キャディが屈服感を噛みしめながら標準語で滅次郎に耳打ちする。その姿は標準的なキャディ服だが美しく長い金髪、碧眼、そして長い耳の特徴は隠しきれない。

「新しいキャディさんは優秀ですな!ヨイショ!」

9番ホールを犬養滅次郎はバーディ、某取引先はパーで終えた。

10番ホール。180Y PAR3。
荒れ狂う強風の中、孤島のグリーンへ打ち下ろす「魔の島」の異名を持つロストボールの魔境である。

「クッ……貴様は知らぬだろうが蒼き風の中に白の渦がある……高く打ち上げて垂直に白を通過させれば1オンは間違い無いだろう。貴様にその渦が見えるのであればな……」

「ふん、それを見るのが貴様の役目だろう、クラブを寄越せ」

滅次郎はアイアンを受け取ると瞳を閉じてアドレスし、キャディの指示する角度で白球を打ち上げた。

「……!」

飛球は過たず白い渦に乗り、螺旋を描いて見事に1オン。

「ナイスショット!ヨイショ!」

続く取引先の打球が風に流され次々とロストしていく様を横目に滅次郎がつぶやく。

「鹵獲キャディにしておくのはもったいないくらいだ、財閥(うち)へ来い!」

「バ、バカなことを……森を離れるなど……」

「安心しろ、貴様のような種族でも犬養は受け入れ……」

「ブァーーーッ!!!!」

隣接するホールから大飛球の警告が発せられた。難なく打球の直撃を回避をする滅次郎だが、その血で穢れた白球に刻まれた《Z》の文字に目を見開いた。

ヤツらが、来る!!

【つづく?】

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