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立ったまま歯科健診/吐血が描く文字

悪夢の続き。

手にしたノートを囲んでわたしたちは相談する。ここに書かれていることは、いったい何を意味しているのか。

授業を受けて書いたような、自らの研究を記録したような。文字と数式と図形が並んでいる。

わたしたちはいつのまにか地上にいた。あたりには廃墟となったビルが立ち並び、人通りもある。

みんな古びた服を着て、乱れた髪型、煤けた顔でふらふらと歩いている。

わたちたは歩きはじめる。しばらく行くと倒れそうなビルがあった。打ちっぱなしのコンクリート。窓ひとつない。大きなドアは赤茶けたペンキで塗られ、ところどこほ剥がれている。

中に入ると、そこは歯医者だった。白髪の老人が汚れた白衣を着てこちらを向いて立っている。女性看護師もいるが遠くの方で作業をしてこちらには無関心のようだ。

いくつかある治療用の椅子はもう長く使われていないようで埃をかぶってボロボロになっている。

仲間のひとりめが立ったまま口を開けて医者の検診を受ける。金属の平たい棒や先が小さな丸い鏡になった器具が乱暴に口の中に突っこまれる。医者は目が悪いのか顔を近づけて覗き込むように口の中をみてくる。

歯と金属が当たるかちゃかちゃとした不快な音がする。突然、医者が大きく咳き込みはじる。しばらく下を向いて咳をしていたが、顔を上げて勢いよく吐血する。ひとりめの顔から体、床にまで血が降りかかる。

医者は咳き込みながらふたりめの検診をはじめる。血まみれのひとりめが床をみて目を見はりわたしに話しかける。

「これはノートにあった字です」

床に飛び散った血が漢字をかたどっていた。漢字は二文字。「慶」「態」に似ているが、わたしはノートにその文字があったかわからない。

ふたりめの口を覗き込んでいた医者の咳がまたひどくなり吐血をする。ふたりめの全身と治療椅子のあたりにまで血が飛び散る。今度はふたりめの服についた血が漢字になっていた。「龍」「策」に似ている。

「この字もあったはず」ひとりめがノートを素早くめくって該当の場所を調べる。

医者は咳き込みながらわたしの前に立つ。わたしは口を開ける。金属の棒が口の中に入れられかちゃかちゃと嫌な音がする。

医者は咳き込みながら、顔を近づけてきてわたしの口を覗き込む。血まみれのふたりは期待を込めた目でわたしのほうを見ている。 

覗き込んだまま医者が大きく咳き込んだ。血が顔に降りかかる。あたりが真っ赤に染まる。

そこで目が覚めた。


私の全身はガクガクと震え、鼓動が早くなっていた。

もう明け方になっていたので、一瞬目を開けると部屋のなかは薄っすらと光が差していた。

暗闇でなくてよかったと思いつつ、でも何か見てはいけないものが視界に入ってくるのが怖くて強く目を閉じる。

再び眠ってあの夢に戻らないよう、目を閉じたまま意識を保つ。

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