曲がりくねった道の先にあった古びた洋館

子供の頃に歩いてた裏道のことをたまに思いだす。そこは、両手を広げたら両側に手が届くほどの狭くて細く妙に曲がりくねった道。

道の両側には空地や工場の裏側のフェンスばかりが続いている。家がたまにあるけど、勝手口や裏庭に面していて玄関は表通りに向いている。ひと通りはほとんどない。

曲がりくねった道の最後あたりに古い洋館風の建物がある。蔓草が這ったフェンスに囲まれて、中の様子はわからない。庭には雑草が生い茂り人が住んでいる気配はまったくない。

その洋館は玄関がどこにあるのかもよくわからなかった。表通りに回ると別の家屋が建っている。裏通りのフェンスに入口はあるけれど蔦が絡まって通れない。どうやって人が出入りするのか不思議だった。

当時のわたしはその道をたまにしか通らなかった。月に数回の時もあれば、数ヶ月通らないなんてこともある。だから、ある時ふと目をやるとフェンスを這っている蔓草に、たくさんのバラが咲いているのをみてひどく驚いた。もう何年も前から知っている道なのに、この植物がバラとは知らなかった。

当時のわたしにとって、バラは特別な花だった。花は血のように赤く、棘に触るとケガをする危険な植物。怖い話が好きだったわたしはバラは吸血鬼のイメージが焼きついていた。

薔薇に囲まれた入口のよくわかわらない古い洋館。そんなわけはないと思いつつも、吸血鬼が住んでいる可能性を捨てきれないほど当時のわたしはまだ子どもだった。

バラのトゲがどれほど鋭いのか触って確かめたかったけど、ケガをするのが怖いことと、洋館の中の誰かに見つかるのに怯えて手を伸ばすことすらできなかったことを、いまでもよく覚えている。

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