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死者とぼく

雑草がまばらに伸びた空き地にぼくは立っていた。空には灰色の雲が低く垂れ込め、昼間にしては薄暗い。見渡す限り建物もなく、堤防らしき隆起が長く伸びている。なんだか河川敷を埋め立てたような殺風景な場所だった。

空き地の横に青い軽自動車が停められていた。ぼくが乗ってきた車だ。その影から死者がひとりゆらりと現れた。

ぼくは隣にあった墓石を持ち上げると(いつの間に隣にあったのだろう)こちらに向かってゆっくりと歩いてきた死者に打ち下ろした。

死者は墓石を胸にいだきながら仰向けに倒れる。青白いような、緑色のような、血色の悪い肌。戦前の軍服のような格好をして、表情は無だった。

ぼくは死者が起き上がることを警戒して、大きく距離を取るため空き地の反対側に移動して、墓石の後ろに身を隠す。いつの間かあたりには墓石がずらりと並んで墓地になっていた。

恐怖心は感じていなかった。ただ、死者を仕留めたのかそうでないのかが気になっていた。


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