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「2025年問題」の命運を握る「地域医療連携」とは。事例やメリットをまとめてみた

こんにちは、Ubie PRチームです。
医療業界の「いま」と「これから」をお届けする #オープンファクトブック 。第5弾は、近年新しい医療の形として進められている「地域医療連携」を紐解きたいと思います。

地域医療連携とは、その取組や概念が生まれた背景やメリットをお伝えしますので、なんとなく目にしたことがある方や、初めて聞いたという方はぜひチェックしてみてくださいね。

地域一帯で患者の治療をおこなう「地域医療連携」

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年。社会保障費が増大し、財源が大幅に圧迫されることへの対策=「2025年問題」に向けて医療と介護の体制づくりが全国で進められていることを、前回のオープンファクトブックでお伝えしました。2025年の医療ニーズを推計し、それに対応する医療体制をつくるには、各地域の関係者の協力が不可欠です。

そこで、地域ごとの医療機関の役割分担や連携の仕組みを構築する構想として「地域医療構想」が誕生しました。医療機関が自主的に選択したその地域における医療機能を都道府県に報告し、都道府県が地域ごとの医療構想を策定していくものです。2018年4月より都道府県の地域医療計画として位置づけられています。

この「地域医療構想」を実現する上で欠かせないプロジェクトが、「地域医療連携」です。

医療機関は自らの施設の実情(設備の充実度や専門性など)や地域の医療状況(高齢者が多いなど)に応じて、地域内での役割を選択=機能分化します。そして、医療機関同士が相互に円滑な連携を図り、それぞれの機能を有効活用することで、患者が地域で継続的に適切な医療を受けられる体制をつくろう、というものです。

たとえば、日頃の診療は地域の身近な「診療所・クリニック」といった“かかりつけ医”にお願いし、より専門的な検査や高度な治療が必要な場合、かかりつけ医に紹介状を書いてもらい「病院」にかかるようにする。「病院」での治療が終わったらリハビリテーション専門の医療機関に移ったり、かかりつけ医でその後のケアをしてもらったりする。要するに、限られた医療資源を効率的に活用できるよう、施設単位ではなく、地域単位で患者さんの治療・ケアをおこなうことを目指したプロジェクトです。

日本の医療は、フリーアクセス制度により自ら受診先を決定できるのが特徴ですが、その弊害として「大きな病院で診てもらえたほうが何かと安心」と、軽症でも病院での受診を希望する「病院志向」が起こっています。これにより、 病院に患者が集中し、病院勤務医がカルテ作成に追われて過労死レベルの残業時間で働くなどの問題が発生しています。(詳細はオープンファクトブック#1参照)

地域医療連携による医療機関の機能分化は、2025年問題のみならず、こうした医療従事者の働き方改革の一助になることも期待できます。

事例にみる地域医療連携。鍵となるのは「情報共有」の仕組みづくり

すでに地域医療連携に取り組まれている地域の事例をみてみましょう。

ケース1:お薬手帳で患者中心の情報連携(福島県 会津市)

まずは、お薬手帳など患者が携帯する記録帳による情報共有の仕組みづくりを進めている、福島県会津市の事例です。

会津市では、2011年の東日本大震災を機に、一般財団法人竹田健康財団竹田綜合病院が中心となり「会津薬薬連携協議会」が発足され、翌2012年に 「地域統一型お薬手帳」を作成したそうです。

病院薬剤師が対象患者の病名や検査値、アセスメントなどを書くページの他、薬局側から患者へ、患者側から医師・薬剤師等への「メッセージ記入欄」も設けられ、患者を中心にした情報の双方向性を目指されています。

ケース2:ICT活用による施設間の情報共有(新潟県 佐渡市)

続いて、佐渡総合病院(新潟県 佐渡市)の佐藤院長が中心となって取り組まれているICT活用の事例です。

佐渡市の佐渡島では、「さどひまわりネット」という独自のシステムを構築し、住民の病名・処方・検査結果・画像・一部の介護情報などを共有されています。島内の医療・介護・福祉事業の約6割が参加し、人口の約3割にあたる住民が情報共有に同意しているとのことです。また島内で電子カルテがあるのは佐渡総合病院のみのため、電子カルテシステムがない医療機関や施設にも対応しています。

さどひまわりネットは、医療機関間の連携のみならず、医科・歯科連携、医療・薬局連携、介護施設での医療情報の参照、医療機関での介護情報の参照も可能。介護施設間での情報共有にも役立っているようです。

2021年3月に佐藤院長とUbie共同代表 医師の阿部が本件について対談したセミナーのレポートがあるので、詳しくは下記をご参照ください。

地域医療連携に取り組まない医療機関は損をする?

さきほどの2つの事例のように、地域医療連携に取り組む地域は少しずつ増加しています。これは、地域医療連携が、医療機関にとっての収入源ともいえる「診療報酬」(※1)に影響を及ぼしていることが大きいと言えます。

※1
診療報酬とは、医療機関が患者に施した医療行為や医薬品の処方に対して支払われる医療費のうち、保険者(患者が加入している医療保険)から支払われる料金のこと。医療の進歩や経済状況とかけ離れないよう、通常2年に一度改定される

地域医療構想の実現に向け、令和2年度の診療報酬改定で、かかりつけ医機能の推進や医療施設の機能分化が進められることとなりました

「診療情報提供料(Ⅲ)」という項目では、 かかりつけ医から紹介された患者に継続的な診療を行っている医療機関に、紹介元であるかかりつけ医からの要求に応じて、患者の同意を得て診療情報を提供した際の評価が新設されました。

加えて、紹介状なしで一定規模以上の病院を受診した際の患者負担額が拡大されたり、紹介・逆紹介率(※2)の低い(50%未満)病院は初診料等が減算されたりすることも決まりました。

※2
紹介率とは、他の医療機関から紹介されて来院した患者の割合のこと。 逆紹介率とは、他の医療機関に紹介した患者の割合を示す数字

このように、地域医療連携に取り組まない・協力しない医療機関は損をしてしまうルールが整備されたことで、本腰を入れざるをえないところまできているのが実情です。

地域医療連携のメリット

では、そこまでして地域医療連携に取り組む意義はあるのでしょうか。メリットをまとめてみます。

メリット1:医療費の適正利用

複数の医療機関が同じ患者情報を閲覧・管理できるため、何度も同じ検査を受けたり、同じ薬が処方されたりすることが減ります。患者にとっても医療機関にとっても、そして国にとっても正しく医療費が使われるようになります。

メリット2:医療機関の経営改善

各施設の設備状況が共有されたり、医療施設としての役割が明確になったりすることで、余計な設備投資をする必要がなくなります。さらには、たとえば共同で医薬品などを購入できれば、経営の透明性も確保されます。

メリット3:大病院集中の緩和

患者は症状に応じてかかるべき医療機関に案内されるため、各医療機関における患者待ち時間や急患対応の遅れを減らすことに繋がります。

まとめ

だれもが継続的かつ安定的に医療にかかるために欠かせない「地域医療連携」。2025年に向けてますます多くの地域・医療機関が注力していくはずなので、今後の動向に注目です。

出典・参考

「地域医療構想について」
 厚生労働省医政局地域医療計画課(2020年)
「地域医療連携とは」
 公益社団法人東京都保健医療公社
「地域医療連携事例集」
 一般社団法人日本病院薬剤師会(2019年)
「令和2年度診療報酬改定の概要」
 厚生労働省保健医療課(2020年)

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