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【映画考察】『シティーハンター』はようやく爆誕した日本製ヒーロー映画。

★★
Netflixで話題になっている本作は、なんと週間グローバルTOP10(非英語映画)でも初登場1位を獲得したらしい。その背景には、もちろん原作人気があるだろうとは思うけれど、同時にこの映画が極めて純然たる「ヒーロー映画」だからだと僕は思った。正直そんなに感想はないんだけど、その衝撃を書いてみた。

『悪は存在しない』
原作:北条司
監督:佐藤祐市
出演:鈴木亮平, 森田望智, 安藤政信, 華村あすか
上映時間:104分
日本公開:2024年4月25日(Netflix配信)

▶︎あらすじ

射撃スキルは抜群、でも美女にはめっぽう弱い超一流のスイーパー、冴羽獠。亡き相棒の妹に懇願され、しかたなくふたりでその死をめぐる真実を追い始める。

Netflixより

以下、ネタバレを含みます。

▶︎なんといっても鈴木亮平

Netflix Japan (Youtube)より

もう正直、この映画のレビューはこの1点で終わってもいい気がするというほどに、実写版『シティーハンター』は鈴木亮平の映画である。いや、実写版『シティーハンター』=鈴木亮平と言っても過言ではない。

記事冒頭の変顔しかり、「安心してください」の裸踊りだったり、この映画の鈴木亮平はまずは突き抜けてコメディアンとして遊び回っている。映画『シティーハンター』という舞台上で、あるいはその世界で、彼は本当に楽しそうに肉体を踊らせている。そしてそれがとても心地いい。

どうしてなのかはわからない。テンポか、滲み出る鈴木亮平の人格か、あるいは演出の極端さなのか。しかし、それは確実にコメディアンとしての存在感であり、例えばジム・キャリーを彷彿とすらさせる。

Netflix Japan (Youtube)より

かと思いきや、こんなにも澄んだ瞳で表情を緊張させもする。このあたり、とても漫画的な表現だと思うし、その緩急や凹凸の要求に鈴木亮平は見事に応えて見せた。静と動、緊張と弛緩。役者・鈴木亮平がキャラクター・冴羽獠となって、完全にこの世界を支配している。表情筋の躍動、筋肉美の無駄遣い、間違いなく鈴木亮平という身体をもってこの映画は屹立している。

そしてこの主人公の絶対的な魅力という要素が、極めてヒーロー映画的だと思った。アメコミに代表されるヒーロー映画は、その名のとおり、基本的には主人公=ヒーローを見る映画だと思う。日本ではこれまであまりその類の作品、つまり1人の主人公の魅力(コミカルかつシリアス)で突き通す作品は少なかったのではないか。遡ると、ウルトラマンや仮面ライダーに行き当たるような気がしていて、本作『シティーハンター』は日本映画における新しい(けど古い)純然たるヒーロー映画として僕は観た。

▶︎驚くほどに物語が薄い

Netflix Japan (Youtube)より

そしてもう1つ、半ば逆説的にこの「ヒーロー映画」としての特徴を際立たせているのが、ストーリーの薄さだと思う。このストーリーが好きな方にはごめんなさいですが…。

射撃スキルは抜群、でも美女にはめっぽう弱い超一流のスイーパー、冴羽獠。亡き相棒の妹に懇願され、しかたなくふたりでその死をめぐる真実を追い始める。(再掲)

Netflixより

Netflixから引用したあらすじの短さたるや…!笑でも、正直本当にこれくらいの内容しかない。なにより僕が好きなのが「しかたなく」という言葉選びだ。もちろん文章の意味通り冴羽の動機についての意味もあるだろうが、僕にはこの物語全体が「しかたなく」展開されているということを暗示しているようにも思えてならない。

おそらく、冴羽獠=鈴木亮平さえそこに存在していれば、ストーリーはどんなものでもよかったのだろうと思う。どんな動機で、どんな敵がいて、どんな展開で解決していくのか。そこに深いメッセージはなく、とにかくテンポよく、誰にでもわかりやすく、冴羽獠=鈴木亮平を邪魔しない軽やかさがあれば、どんなものでもよかったのではないか。

と、ここまで書いたところで、原作となる漫画やアニメにまったく触れていないのはいかがなものかと思い、アニメの1話〜5話を見てみた。

なるほど…。

めちゃくちゃ面白いじゃないですか…。

およそ20分の放送尺のなかで、本当に見事なまでにストーリーが進行し、たしかに社会的な意味はないまでも、伏線らしい演出や謎解き的な仕掛け、なにより冴羽獠のキャラクター性をこれでもかというほど引き立てるシーンの連続が心底面白かった。

各回の最後、「Get Wild」が流れ始めると、冴羽獠がかっこいい意味深な台詞をキメる。例えば今回の映画とも重なる第5話(槇村との別れ)の最後では、妹の香に向かって「来年の誕生日は地獄で迎えるかもしれないぜ」と告げる。あるいは第2話の最後、冴羽に命を託し死を覚悟した女性が心のうちの思慕の念を語ったかと思うと、冴羽は女性を救い、あまりにもダサい黄色の布地にピンクのハートが描かれたパラシュートを開く。

こういう「キメ」の演出がアニメは本当に練られて冴え渡っているではないか!うーん…、アニメを見てしまうと、鈴木亮平がいかに冴羽獠を見事に演じきっているかを痛感する一方で、実写版のストーリーの味気なさ、なにより演出の脆弱さが目についてしまった…。

▶︎役者さんは残酷だ

Netflix Japan (Youtube)より

正直なところ、もう書くことがない。このnoteでは基本的に3つのポイントから映画をレビューしたいと思っていて、これまでもそうして書いてきた。しかし、今回の『シティーハンター』は、すでに述べたように「鈴木亮平」のひと言で本当は語り終えてしまうと僕は感じている。それ以外は、駄文。文字数稼ぎでしかない。当然まさに今書いているこの一文も。

この映画は、これまで書いてきたように、日本映画には珍しい純然たるヒーロー映画として「冴羽獠=鈴木亮平」を描いた作品である。従って悲しいことに、それ以外のキャラクターは全員サブであり、ほとんど脇役と言ってもいいほどなのだけれど、それにしても、、、今回の役者さんはもう少し頑張ってほしいなと思った。

以前、『ゴールデンカムイ』のレビューでも書いたことだが、漫画の実写化において大切なのは、「いかに監督や制作チームがそのキャラクターの本質を理解し、役者がその魂を演じるか」だと思っている。それでこそ、コスプレ的に見た目を再現すればいいという甘い話ではない「キャラクターの忠実な再現」に手が届くのではないか。

その観点から言っても、やはり鈴木亮平は冴羽獠を忠実に再現している。彼の表情や所作の一つひとつが、コピーではなくその身体から浮かび上がっているように見えるからだ。

では、それ以外のキャラクターはどうか。香を演じた森田望智、悪役を演じた迫田孝也、刑事役の木村文乃。皆さんきっといい役者さんだとは思うけれど、残念ながら演技が上滑りしているように見えてしまったし、彼らはその動きや言葉をコピーしているに過ぎない気がしてしまった。あるいは、誇張すればいいと思っているのか、強い演技がキャラクターだと思っているのか。とにかくクサいと僕は思ってしまった。

役者さんは残酷だ。
身体で演じるか、心から演じるか。
その違いは一目瞭然だから。



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