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眠れぬ夜に-10-

第10夜

 イエローメタリックのフィアットプントに乗っていたのは随分と前のことなのに、今日はそれを駆って友だちの家に急いでいる。
 急いでいる時にかぎって信号につかまるのはお約束だが、なお悪いことに昔近所でつるんでいた男たちに囲まれてしまった。一人一人はそう悪いやつではないが、まとまると暴走してしまう性分を発揮させないように、ほんの少し下から、でも隙を見せないように、今はリーダー格になったと思われる小柄な男にどいてくれと言ってみる。

 しかし言う相手を見誤った。やにっけのある口の片方をあげて笑うとボンネットをこじ開け、ないっすよ、と本当のリーダーに報告した。あ、あいつはやばいな、と思うと同時に消えたはずの修羅がむくりと起きた。身中の虫である。こんなつまらない場面で騒ぐとは情けない。そして当然、我が身を乗っ取られるわけには行かない。。
 ・・・「ここにあるよ」と胸の中からそれをとり出して見せ、彼らの目線が切れたと同時にアクセルを踏みこんで難を逃れた。ミラーの中の男たちはこちらを見ていない。虫は消えていた。


 町は危険である。今日も借金取りに襲われたという知らせを受け、案内人に連れられて現場に急ぐ。角かどにはそれぞれ急ぐ別動隊の影があった。空は赤みがさしてきて、空気はひんやり気持ち良かった。現場はこの辺りでは平均的な一軒家だった。
 簡素ながら明かりとりが大きい部屋は外からも隅々まで見え、当然向こうからもこちらの姿はよく見えるはず。。そう思ったらいきなり銃撃戦になった。
 犯人がいったん銃を置いた隙に踏み込むと犯人は両脇に人質を抱え隠れた。左は私の父だ。このままでは撃てない、「接近戦だ」と前へ出ると首を撃たれた。死ぬかと思ったら大して痛くない、出血も僅かである。反射的に撃った私の弾も犯人に当たっていたが同様に軽傷である。ただ撃たれたことにいきりだった犯人は人質をうちすてこちらに突進してきた。撃ち返したが大して効かない。この世界の銃は非力らしい。
 犯人の弱点は目である。何故かそれを知っている。私ははじめ右目を、ついで左目をむしりとった。躊躇はなかった。犯人はついに倒れ、主を失った窪みには涙が溢れていた。たかだか金のことで愚かなことをしたな、と寒々しい気持ちになるのはいつものことだった。陽はまだ暮れていなかった。

第10夜

 ノンアルで晩酌のまね事をするようになって久しい。その日の事を手のひらの上に出して見たりクズカゴに入れて見たりもするし、考えても仕方のない事を取り出してきて結局は「仕方ないか」としまい込んだりもする。何も解決しないけれどそれがまたよい。相手がいればたわいもない話で時間を潰し、頃合いで引き上げる。飲んでる時にこれが出来たなら、なんて後悔も案外悪くない。
 それでももうちちょっとだけ、と感じた時は小さな物語を読む。小説でもエッセイでも漫画でも。最近は昔書いた自分のテキストを眺めるのも好きだ。私自身、驚くほど忘れていて新鮮である。アル中の利得と言う事にしよう。
 暫く、その雑文をここに披露させて頂く事にします。眠れぬ夜の暇つぶしにでもして頂けたら幸甚です。

アル中になるようなポンコツですがサポートして頂けると本当に心から嬉しいです。飲んだくれてしくじった事も酒をやめて勘違いした事も多々ございますが、それでも人生は捨てたもんじゃないと思いたい、、。どうぞよろしくお願い申し上げます。