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誤解される重度発達障害の梅子さん

梅子さんが3歳の頃、発語がないことで当時、「自閉症」と診断を受けた。

この頃から彼女に対する誤解と偏見が私の中で始まったといっても過言ではない。
いっこうに言葉が出ない上に、名前を呼んでも振り向かない。
返事もしない。
3歳だと健常児は、理屈を言えるくらいまで発達しているのに、1日泣いてばかり。
目を離すとどこにいってしまうのか分からない。
トイレトレーニングも進まず、お箸も使えない。
友達と遊ぶことなどなく、一人で洗剤の容器を並べてばかり。
おもちゃで遊ぶことを見たこともない。
その上、眠ってもくれない。

コミュニケーションが取れない梅子さんと1日いるのは非常に苦痛だった。
理解できない子供と一緒にいるのは、ただただ辛い日々。

でも、今になってどうしてこんな症状が彼女に出ていたのかは理解できるようになった。
今でも覚えているのが療育センターに初めていった外来セッション。
午前と午後の二部制の中で、先生が帰り間際に教えてくださった一言。

「彼女は未だ混沌とした中にいます」

当時ははて?と思っていた言葉だったけれど、なぜか忘れることがなかった。
梅子さんは、幼かったのでまだ自我をきちんと確立できていなかったのが1つ。
そして、重度の分かりづらさを持っていることが1つ。

そんな幼少期から小学校中学年くらいまでの梅子さんの行動について考察してみた。

①名前を呼んでも振り向かない…
②名前を呼ばれても返事をしない…
③1日泣いてばかり…
④直ぐに行方不明になる…
⑤トイレトレーニングが遅い…
⑥お箸が使えない…
⑦友達と遊べない…
⑧おもちゃで遊べない…
⑨ほとんど夜は眠らない…

①名前を呼んでも振り向かない…

※自分の名前を知らない
※仮に知っていたとしても、自分が他者から呼ばれているとも思っていない。

まずは、梅子さんに平仮名も読めて書ける状態ではないまま、漢字の名前から教えた。
同時に発音も一緒に聞かせて教えた。
そして、「名前は?」と私が聞くとフルネームで答える練習をした。

②名前を呼ばれても返事をしない…

※「はい!」という返事の仕方を知らない
※他者から返事を求められているとも知らない。

コミュニケーションの課題学習の中で私が梅子さんのフルネームを呼ぶたび「はい」と答える練習を積み重ねてきた。
机上で練習をしないと返事さえできないのが重度発達障害の特徴だった。

③1日泣いてばかり…

※言葉というツールを持っていないので、赤ちゃんの時代のコミュニケーションのとり方しか知らない。
※訴えたいことがあっても、訴え方を知らない。
※健常児のような言葉の模倣がないので、言葉を覚えられない。
※他者の模倣をするなどという考えを持っていない。
(人より物との相性がいいのが発達障害の特徴)

療育を本格的に開始して2年後くらいには「大泣き」は一旦、終息するかのようになってきた。
理由は「指示に従うこと・人から学ぶこと」を梅子さんが知っていったから。
そして、私が観察記録から彼女の言い分に気づけるようになったから。

④直ぐに行方不明になる…

※危険認識が圧倒的に乏しい。
※いつも親(らしき人)が当たり前のように自分の後ろを追いかけていると思っているので、振り向く必要もない。
※興味関心のあるものを見にいったり、触りにいったりしたい。
※人混みが嫌でその場から立ち去りたい。
※理解できない所に長居をするのが嫌なので立ち去りたい。

重度発達障害者は危険認識が健常者より圧倒的に低い。
それが命を落とすことに繋がってしまう。
「死」が分からないからこそ、目が離せない梅子さんだった。

⑤トイレトレーニングが遅い…

※排尿・排便の意味が分からない。
※気づけば自分の周りが濡れていたり、💩の塊が落ちていたりする。
そのため、何かあるぞ!と思って遊んでしまう。
※排尿や排便が体のどこから出ているのかもはっきりしなかった梅子さん

梅子さんが小学校4年の時、私に「○○クリニック!」と大きな声で訴えてきたことがあった。
何事かと思い見にいくと、いきなりお尻を出して指差した。

お尻に穴があいている!
大変だ!

という意味だった。
彼女の顔はこわばっていた。

それ、肛門な…と思いながら、そんなことも気づかなかったのだ…と初めて知った。😂
彼女には、大丈夫だからということを伝えて、みんな穴があいていることを教えたら安心した顔になった。
それだけ、重度発達障害者は、自分の体のことも気づきづらいのだと知った。

⑥お箸が使えない…

※道具の使い方が分からない。
※指先が異常に不器用。
※自分の指なのに指をどう動かせば動くのかさえ知らない。

道具を使いこなす前に指1本、1本が使えないことを療育センターの先生から教わった。
模倣の練習を積んでようやく…と思えば、異常なほどの不器用さだった。
自分の体を自由自在に扱えないのが重度発達障害の梅子さん。
そのため、指運動から始め、鉛筆の持ち方を教えた上でお箸(割り箸)の練習をした。

⑦友達と遊べない…


※コミュニケーションが取れないので、子供の集団に入れず興味関心が全くない。
※一人でいることを寂しいとも思っていない。
※人より物との相性が抜群なので、お気に入りの物さえあれば十分。
※友達との遊びは、「暗黙のルール」が存在するので、分かりづらい。

幼少期の梅子さんは、公園に連れて行ってもすぐにそこから逃げ出そうとすることがよくあった。
例えば、他の子供たちが遊んでいる砂場に行っても、直ぐにそこを離れてしまっていた。
彼女は他の子供たちにほとんど興味を示さず、一人で遊ぶことを好んでいた。

また、梅子さんは特に幼稚園に入学した際に、ママごとなどの遊びに参加できないことが多かった。
ママごとは、役割やルールが暗黙のうちに存在するため、重度の発達障害を抱える梅子さんには高度な遊びであり、理解や参加が難しかった。
そのため、彼女は急いでその場から離れることがあった。

⑧おもちゃで遊べない…


※おもちゃの遊び方(ルール)を知らない。
※触っても面白いとも思っていないのですぐに捨ててどこかに行ってしまった
※自分の興味関心のある(洗剤容器)物を並べて過ごすのが大好きなのでおもちゃに関心を寄せなかった。

梅子さんはおもちゃにもルールが存在していることに気づき、その見えないルールに対して遊び方が理解できなかったため、おもちゃにはほとんど興味を示さなかった。
親がどれだけおもちゃを提供しても、彼女は何一つ自分からそれらを使いこなすことができなかった。

代わりに、梅子さんは洗剤容器などを倉庫から取り出してはそれらを並べて遊ぶことがよくあった。
彼女にとって、それが彼女自身の遊びの形であり、楽しみだった。
彼女はおもちゃの代わりに身の回りの物を使って、自分自身の独自の遊びを楽しんでいた。

彼女にとって「並べる」という行為を満たすことに繋がったのは、トモニ療育センターでの特定の課題だった。
例えば、「100並べ」とか「タイル並」といった課題が、何千回と繰り返し教えた。
これにより、気づけば洗剤を並べることが次第に減少していった。

この経験から、人は特定の欲求や興味が満たされると満足し、それに取って代わる何かを見つけることができることを再確認した。
彼女にとって、新たな課題や活動が、彼女の興味や能力を発展させるのに役立った。

⑨ほとんど夜は眠らない…


※日中、外で動き回っているのに眠ってくれない。
※子供は、疲労感を感じない。

梅子さんの幼少期には、夜中の2時や3時に寝ることが普通で、ほとんど眠らないような状態で、昼間も寝ることはなかった。
この問題について、療育センターの先生からアドバイスをいただいた。

早く眠らせることはできないけれど
早く起こすことはできる

そのアドバイスを受けて、早朝に梅子さんを起こしてマラソンをさせたり、日中には山登りをした。
しかし、それでも梅子さんは眠らないことがあった。
その際、先生から新たなアドバイスをいただいた。

社会性がなく、周りに気を遣うこともないので気疲れせず眠ることがない。

確かに、彼らは天真爛漫で無邪気。
しかし、周りに気を遣うことを経験したことがないため、人は周りに気を遣う生活をしていると、体力的に疲れていなくても精神的に疲れてしまい、すぐに眠ってしまうことがある。
梅子さんに気を遣わせる生活を心がけることで、彼女が他の人から学び、社会性を身につけていくことが眠ることにつながっていった。

実際、今の梅子さんは、夜の10時頃になると、目が重くなり、すぐに眠りにつくようになった。
仕事や日常生活の中で、周りの人々に気を遣わせることが多いことが、この早い就寝の主な理由と考えられる。


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