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映画『ブックセラーズ』

もともとは職場の先輩だった長いつきあいの友人と、年に一度、互いの誕生日に「本」を贈り合うということをしています。もう二十年近くにもなるでしょうか。はじめの頃は、誕生日がくると職場のマイデスクの上にリボンのかかった本が置かれていたものですが、お互い別の職場に移り、遠く離れた地で暮らす今は、誕生日のたびポストをのぞくのがささやかな楽しみになっています。

だれかの為に本を選ぶのは、とても楽しい作業です。そして思いのほか難しい作業でもあると感じています。
例えば「彼女はミステリー好きで、こんな作家が好きだったはず」・・・というところまでは知っていたとして、有名なミステリー作品や人気作品だったりすると、すでに読まれてしまっている可能性も高い。
本を選ぶポイントはその話の内容だけにとどまりません。もうちょっと文字が大きいほうがスイスイ読めてラクかしら?とか、装丁がきれいなほうがいいかしらね?とか、あんまり高価だと気を揉ませちゃうかしら?とか。
気兼ねなく心から楽しんでもらえそうな一冊を選び抜くために、その年の誕生日が過ぎたら次の年の誕生日に向けて、またじっくりと本探しを始めます。
誰かの為に本を選ぶには、まずは自分自身じっくり本と向き合う必要がある。だからこそ自称本好きの私達にとって、この『バースデイ選書』はとても楽しくて、とても嬉しいイベントでもあるんです。


さて。
先日、映画『ブックセラーズ』を観ました。
とっても、とっても素敵な映画でした。

希少本の狩人であり、売り人でもある“ブックセラー”達。彼らの本に対する偏愛ぶりがスクリーンからダダ洩れまくっている、本好きにはたまらないドキュメンタリー映画です。
彼らが集めに集めた本がぎっしりと並べられた書店の様子はどこも圧巻で、ただただ眺めているだけで夢見心地、最初から最後までときめきが止まらない美しい作品でした。

そしてもうひとつ、この映画をさらに素敵に感じさせてくれたのは、上映中のミニシアター内の空気感ではなかったかと感じています。
例えばブックセラー達へのインタビューの場面。彼らの言葉に思わずクスッとくるような瞬間に、館内の空気がフッと緩むような気配が確かにあって、あぁ、スクリーンの向こうにいるブックセラー達だけでなく、あっちの席で観ている人も、斜め後ろのこの人達も、きっと皆さん本が好きなんだなあ・・と感じる瞬間がちょいちょいあるんです。
不思議な安心感というか心地良さというか・・・おそらくは映画館という場がそうさせるのだと思いますが、そんな気持ちのよさも含めて後味の良い映画でした。

いまだ緊急事態宣言下。
ミニシアターはどこも苦境に立たされているという話を耳にしますが。
大きな映画館ではかかることのないこのような作品をなくしてほしくないと、強く強く思います。


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