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資料:ヨーロッパの左翼はウクライナ戦争をどう見ているか?――DSA(アメリカ民主社会主義者)機関誌から

■当noteからの紹介

今回紹介するのは、アメリカの左翼グループDSA(アメリカ民主社会主義者)機関誌に2023年5月4日に掲載された記事の翻訳である。DSAは最近のアメリカにおける若者の左傾化を受けて拡大し、バーニー・サンダースなどの民主党内の中道左派系政治家たちを支える基盤ともなっているグループとして、日本でも知られている。著者のクリス・マイサノはニューヨークDSAのメンバーであり、社会主義フォーラム編集委員会のメンバーでもある。『ジャコバン』誌などに寄稿している。原文はこちら(https://www.dsausa.org/democratic-left/what-is-the-european-left-saying-about-the-ukraine-war/)。

この記事は、欧州各国の左翼政党が、ウクライナ戦争についてどのような立場を取っているかの見取り図を提供するものだ。まとめれば、①政権に参加している、あるいはしていたような社会民主主義政党や緑の党、つまり中道左派は、一様にウクライナへの軍事支援を支持し、ロシアへの制裁に賛成している。②急進左派政党はさまざまであり、それを規定しているのはその国のロシアとの地理的関係やその党の共産主義運動としてのルーツなどであるということ。北欧や東欧でウクライナ支持が強く、南欧でロシア擁護が目立つようである。また、この記事ではウクライナの民主的左翼グループ「社会運動」の位置についても説明されている。

以下は当該論文の翻訳である(DeePLで機械翻訳し、それを調整している)。

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■各国の中道左派政党――ウクライナ支援で一致

今年の全国大会の前と期間中、DSA(アメリカ民主社会主義者)ではウクライナ戦争が議論の対象になりそうだ。「民主的左翼と社会主義者フォーラム」は、このテーマに関する記事を掲載している。ウクライナ戦争に関する欧州の左翼政党の見解と政策を扱ったこの記事も、その議論の一環である。

欧州議会の(中道左派の)会派「社会民主進歩連盟(S&D)」に集う各国の社民主義政党・労働者政党は一様に、ウクライナへの軍事支援などの援助やロシアへの制裁に賛成している。S&Dに属する政党は現在、ベルギー、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペインで政権を担っている。緑の党も多くの国で政権を担っているが、どちらかといえばS&Dの政党よりも軍事援助や制裁に熱心な傾向がある。

S&Dより左に位置する政党に目を向けると、その中で大きな差異が出てくる。その多くがGUE/NGL(欧州統一左派・北欧緑左派連盟)という政治会派に属している。GUE/NGLは様々な政治潮流に起源をもつ急進左派政党を含む。修正毛沢東主義のベルギー労働者党(Parti du Travail Belgique)からスペインのトロツキスト・反資本主義者(Anticapitalistas)までと幅広い。その中には、ウクライナへの軍事援助やロシアへの制裁に強く賛成する政党もあれば、党内で意見が分かれていたり、完全に反対する党もある。

大まかに言えば、これらの政党の戦争に対する見解は、二つの要因によって形成される。一つはその国がロシアやソ連に地理的に近く歴史的にロシアやソ連との関係が深いかどうかで、もう一つはその党が共産主義運動に起源をもっているかどうかだ。

ドイツの左翼党は、かつての軍国主義の影響、冷戦時代の東西ドイツ分裂、また政党として社会民主主義と共産主義の両方に起源を持っていることなどから、おそらく最も内部での葛藤の多い政党だろう。

まずはウクライナとロシアで苦闘する小規模な社会主義運動の声を聞くべきだ。彼らは戦争によって最も苦しんでいる人々である。

■ウクライナとロシアーー厳しい状況下で闘う少数派

ウクライナでもロシアでも、社会主義的左翼は戦争前から弱小勢力である。2022年2月24日以降、状況はさらに厳しくなっている。ロシアでの反戦デモは瞬く間に弾圧され、多くの左翼反体制派を含む数十万人のロシア人が国外に逃亡した。残った人々は、しばしば弾圧や脅迫に直面してきた。モスクワ在住の著名な民主的社会主義派の政治家で労働運動家のミハイル・ロバノフは、「警察への不服従」を理由に15日間、刑務所に入れられた。

過酷な扱いを受けたロシアの左翼や戦争反対派は彼だけではない。特にひどい例では、13歳の少女が学校で反戦の絵を描いたために孤児院に送られ、父親がベラルーシからロシアに引き渡され、戦争に批判的なソーシャルメディアへの投稿のために2年の禁固刑を言い渡された。

ロシア共産党の指導部は戦争を支持しているが、草の根の党員の中には勇気ある反対の声を上げる者もいる。彼らの一部は昨年、他の社会主義運動の活動家たちとともに「左翼反戦円卓会議」の声明を発表し、ロシア政府に対して戦争の即時停止と軍隊の撤退を求め、さもなくば「政府と社会政治システム全体の根本的な変革」を求めた。この声明には、共産党やロシア社会主義運動などのメンバーが署名した。

ウクライナの左派は、おそらくロシアよりもさらに弱小だ。社会主義・共産主義政党は2000年代に党員数も選挙における支持率も低下した。彼らの親ロシア的傾向は多くの人々に不信感を与え、ロシアとの緊張が高まるにつれ、彼らはますます弾圧を受けるようになった。2015年、共産党とその他の小政党は禁止された。2022年の侵攻の直後、ウクライナ政府は、対ロ協力者であるという理由で、社会主義的または進歩的な響きの政党名を持つ数多くの政党に新たな禁止令を出した(当noteによる注を下につけた)。

彼らが対ロ協力者だという主張は証明されていないが、ロシア系アメリカ人の社会派作家グレッグ・アフィノジェノフが指摘するように、「これらの政党が実際には親ロシア派であり、極右やファシストを含む彼らの政策がしばしば支離滅裂であったことは事実」である。残念なことに、アフィノジェノフも指摘しているように、ウクライナでは「親ロシア(あるいは親平和)的な意見と福祉国家志向の政治が強固に結びついていた」ため、「ロシアの侵攻によって前者の信用が失墜すると、後者も敗北した」のである。

継続して存在している左翼グループとして「社会運動」(Sotsialnyi Rukh)がある。この小さな民主的社会主義者グループは、侵攻に対するウクライナの軍事的抵抗を支持する立場を堅持しており、メンバーの一部は軍の予備役部隊(当ote注:領土防衛隊のこと)に加わっている。しかし民主的社会主義者として、ウクライナ政府の新自由主義的な経済・労働政策や、上記のいくつかの政党に対する新たな禁止令にも反対している。

彼らは声明の中で、「政府は戦争という状況を悪用してウクライナの労働者の労働権を攻撃し、今やその行動は政治的・市民的自由を制限することを狙っている。我々はこれを支持することはできない」としている。

社会運動はロシア社会主義運動とつながりを持っており、昨年、両組織は共同声明を発表した。その内容はウクライナへの軍事支援、ロシア軍の完全撤退、プーチンその他のロシアの支配層への制裁を求め、ウクライナにおけるロシアの軍事的敗北を願うものである。強調しなければならないのは、これらの組織は非常に小さく、基盤も限られているということだ。にもかかわらず、これらの組織はおそらく、今日のウクライナとロシアにおいてDSAと最もよく似ている。

(ウクライナの政党禁止令についての当note注:侵攻後のウクライナで「侵略国と組織的につながっている」として戒厳令期間中の活動を禁止されたのは、ウクライナにおけるプーチンの最大の盟友であるメドベチュクがリーダーを務める「野党プラットフォーム」(44議席/423議席中)と「野党ブロック」(5議席)という2つの国政政党、そして国政に議席を持たない9つの零細の親ロ派政党(つまり全野党、あるいは主要な野党の活動が禁止されたという、よく見る説明は誤り)。メドベチュクは、キーウが陥落した暁にはロシアの傀儡政権首班候補だったようで、プリゴジンも動画でそのように語っている。ただし、「社会運動」はこの禁止命令を批判する声明を出している。禁止された組織の多くがロシアを賛美していたのは事実だし、彼らの多くは社会主義~を名前に掲げながら反ユダヤ主義や同性愛反対といった反動的な主張を専らしている人々であったが、個々人の行為について法廷で裁くべきだったというのである。こちらはウクライナ国会の議席内訳。A Parliament Diagram in R – DataVizStory©

■中東欧諸国――ソビエト支配の経験からロシア制裁に強く賛成

スターリン主義とソビエト支配の経験は、東欧・中欧の多くの地域で民主的社会主義に対する信用までも失墜させた。にもかかわらず、この地域には急進左派政党が存在し、困難に直面しながらも組織化を続けている。最も著名なのはポーランドのレヴィカ・ラゼム(共に左翼)で、現在6人の国会議員を擁している。ラゼムは、ウクライナが「帝国主義の侵略者に対する自決のための正義の戦い」を繰り広げているとして、ウクライナへの軍事援助とロシアへの制裁に強く賛成している。

ラゼムは軍事同盟であるNATOに批判的であり、最終的には欧州連合(EU)の支援のもとでNATOに代わる新たな欧州の安全保障体系を構築することを求めている。しかし同時に、「適切な欧州安全保障体系の欠如を考えると、NATOは現在、ロシアに対してポーランド市民を防衛する唯一の保証となっている」とも主張している。

戦争が始まる前、ラゼムはプログレッシブ・インターナショナルと(ギリシャの急進左派政治家)ヤニス・バルファキスが結成したDiEM25(欧州の民主主義運動)のメンバーだった。しかし、ロシアの侵攻から4日後、ラゼムの全国評議会は満場一致で両組織からの脱退を決議した。この決定を説明する声明の中で、彼らはこう書いている。「プログレッシブ・インターナショナルとDiEM25がウクライナの主権を認める明確な宣言とロシア帝国主義への強い非難を行わないため、レウィカ・ラゼムはこれらの組織との協力を終了する」。

それ以来、ラゼムは中東欧の他の左翼運動と協力し、彼らの立場への支持を強めてきた。2022年3月には、ウクライナへの軍事援助、債務取り消しと難民支援、ロシアへの制裁を求める共同声明をこの地域の多くの政党と発表した。ラゼムのほか、社会運動(ウクライナ)、Vasemmistoliitto(左翼同盟、フィンランド)、Kairiųjų aljansas(左翼同盟、リトアニア)、Budoucnost(未来、チェコ)、Jsme Levice(われわれは左翼だ、チェコ)、デモス(民主連帯党、ルーマニア)、Enhedslisten(統一リスト/赤緑同盟、デンマーク)が署名した。
 

■北欧諸国――NATO批判とウクライナ支援の間で模索

北欧の2つの左派政党がラゼムの声明に署名している。フィンランドの左派同盟とデンマークの赤・緑同盟である。左翼同盟のルーツはフィンランドの共産主義運動だが、フィンランドはロシアと長い国境を接しており、歴史的な関係も険悪だ。彼らはフィンランドのNATO加盟に強く反対していたが、ロシアの侵攻後に変わった。社会民主党主導の連立政権の一員としての立場から、NATO加盟に反対してきた歴史的な立場を変えたのである。この決定には賛否両論があったが、左翼同盟の党員や議員の大多数は、最終的に現実的な理由から政府のNATO加盟決定を支持した。しかし、同党は引き続きNATOに批判的であり、最終的にはNATOを新しい欧州の安全保障構造に置き換えることを求めている。

デンマークの赤・緑同盟は、フィンランドと同じような軌跡を描いている。彼らはウクライナへの軍事援助を支持し、ロシアの支配層に対する強力な制裁を求める左翼同盟とスウェーデンのVänsterpartiet(左翼党)との共同書簡に署名した。デンマークは戦争前からNATOに加盟していたが、フィンランドの赤・緑同盟と同様、戦争の影響を受けてNATOに対する歴史的立場を修正した。同党は引き続きNATOの代替を要求しているが、現在では、NATOに代わる実行可能なオルタナティブが実現可能になるまでは同盟からの脱退を推し進めることはないとしている。デンマークのもう一つの左派政党であるSocialistisk Folkeparti(Green Left)は、ウクライナへの軍事・経済援助を含む政府のウクライナ支援を支持している。

ノルウェーとスウェーデンの左派政党は、デンマークやフィンランドの左派政党とは多少異なっている。例えばノルウェーのポスト毛沢東主義組織「赤い党」(Rødt)は、ロシアへの制裁には賛成だが、ウクライナへの軍事援助には反対であり、NATOから脱退して北欧の防衛同盟を構築することを求め続けている。ロッド議員は「しかしながら我々はそのような代替案の開発について適切に議論したり、取り組んだりしてこなかった…北欧左派は政策を策定し、我が国の国防政治とNATOに代わる代替案の両方について信頼を得るためにもっと努力する必要がある」と語る(当note注:「赤い党」のその後については本稿末に著者による後記あり)。

ノルウェーのもうひとつの急進左派政党であるSosialistisk Venstreparti(社会主義左翼党)も、NATOから離脱して北欧の防衛同盟を構築することを支持しているが、ウクライナへの数十億ドル規模の援助パッケージに署名し、それは軍事と民生両方の目的に使用された。スウェーデン左翼党(旧共産党)は当初、ウクライナへの軍事援助に反対していたが、その後、素早く転換した。しかし同党内部は軍事援助の問題で分裂したままだ。また同党は、スウェーデンの中立に対する歴史的な支持とクルド人との連帯から、スウェーデンのNATO加盟に強く反対している。トルコがNATO申請承認の条件としてクルド人難民や活動家を取り締まるようスウェーデンに要求しているためだ。

■ドイツーー対応めぐって一枚岩ではない「左翼党」

この問題でドイツは恐らく最も興味深い。ウクライナ支援国の同盟の中で重要な意味を持っているドイツで、左翼党が激しい板挟みの中で格闘しているからだ。同党は厳しい状況にある。前回の選挙ではかろうじて議会に議席を獲得したが、内部では常に政治的論争に悩まされている。左翼党は2007年に結党。大半はドイツ西部を拠点とする社会民主党(SPD)の離党組だが、旧東ドイツの統治政党の後継者でもある。そのため、社会民主主義と共産主義の両方にルーツがあり、この国の東西の大きな政治的亀裂とリンクしている。選挙では東部地域、特に高齢の年金受給者から多くの支持を得ており、旧西ドイツからの支持は相対的に少ない。

昨年の党大会で、左翼党はロシアの侵攻を非難し、ウクライナ国民との連帯を表明し、ロシアの支配層に対する制裁を求めた。同時に、ウクライナへの軍事援助に反対した。この立場は、ドイツの再軍備や軍事費増大に対する広範な反対と結びついている。しかし、これは党が一枚岩であることを意味しない。ロシア制裁とウクライナ軍事支援を停止してロシアのガス輸入を再開することを訴えて物議を醸しているサハラ・ヴァーゲンクネヒト議員の支持者と、彼女の党内批判者との間には多くの抗争がある。この内紛は、支持者の士気を低下させ、党に魅力を感じていたかもしれない他の支持者を遠ざけることで、党を衰弱させている。

世論調査によれば、左翼党支持者の戦争に対する見方は複雑である。約57%がウクライナへの戦車供与に反対しており、戦闘機の供与にはさらに大きな割合が反対している。交渉については、戦争を終結させるためにウクライナは領土をロシアに割譲しなければならないという意見に55%が反対する一方、いつロシアに和平交渉を呼びかけるかはウクライナが決めることだという意見に61%が賛成している。

ドイツ政府の戦争への対応については、党派を超えて幅広い懸念がある。最近の世論調査では、全体の59%がウクライナ戦争に関する政府の方針について「あまり満足していない」または「まったく満足していない」と答えている。戦争に対する不安や、SPDと緑の党・自由民主党の連立政権の不人気にもかかわらず、左翼党はこれを利用できていない。もし今、国政選挙が行われたとしても、十分な票を獲得できないかもしれない。

■フランスとイタリアーー急進左派はウクライナ支援に反対・慎重

フランスとイタリアは西欧でもユニークな存在だった。これらの国では共産党がとても強かったからだ。フランスでは、共産党は1980年代まで常に約20~25%の得票率を獲得し、特に産業労働者の間に強い基盤を持っていた。イタリアでは、最も大きな共産主義者の組織であるイタリア共産党は最盛期には200万人を超える党員を擁する西欧最大の共産党であり、1976年には最高得票率34%を記録した。イタリア共産党は1991年に党を解散したが、フランス共産党は今世紀まで持ちこたえた。

フランスでは、共産党も社会党もジャン=リュック・メランションが率いる左翼ポピュリズム運動「不服従のフランス」(La France Insoumise,FI)に駆逐された。FIは、社会党や緑の党、共産主義者たちを含む左翼連合NUPESの主要メンバーである。イタリアでは、旧共産党の大部分は最終的に民主党となり、現在では(欧州議会の中道左派会派である)社会民主進歩連盟(S&D)の中心的な中道左派政党となっている。その一方で、一方、急進左派はイタリアの政界の片隅に後退している。

今日のイタリアで最大の急進左派政党はシニストラ・イタリアーナ(イタリア左派)で、国会議員の数はわずかである。彼らはロシアの侵攻を非難しているが、ウクライナへの軍事援助には反対で、NATOにも批判的だ。より小規模な人民連合は、ポーテレ・アル・ポポロ(人民に力を)や共産主義再建派といった非常に小規模な政党を含み、国会に議席を持たないが、彼らもまた、ウクライナへの軍事援助やロシアへの制裁に反対し、NATOを非常に批判している。フランスでは、左翼連合NUPESに属する政党はほぼ同じ意見である。

フランスの社会党と緑の党はウクライナへの軍事援助とロシアへの制裁を強く支持している。「不服従のフランス」(FI)も制裁と軍事援助を支持している。例えば、メランションの国際問題担当上級顧問は最近、「ウクライナは軍事的なことも含めて支援されなければならない」と主張した。しかし、メランション党首は、社会党や緑の党と比べて和平交渉を重視しており、FIの議会グループは、ウクライナ政策についてエマニュエル・マクロン大統領との定期的な協議を要求している。

最後に共産党。彼らはロシアの侵攻を強く批判し、制裁とウクライナへの防衛的兵器の提供を支持している。しかし、同党のファビアン・ルーセル党首は最近、攻撃的兵器とみなすものの提供を中止し、ウクライナ政策について和平交渉を重視し、もっと議会で議論するように求める声明を発表した(フランス憲法の下では、大統領は外交権をほぼ完全に掌握している)。 

■ギリシャ、ポルトガル、スペインーー急進派は支援に強く反対だが例外も

これら3カ国の急進左派は、NATOを強く批判し、ウクライナへの軍事援助に反対する傾向がある。ただし、いくつかの注目すべき例外もある。

ギリシャでは、急進左派連合(Syriza)が保守政権によるウクライナへの軍事援助に反対しており、Syrizaの党首で元首相のアレクシス・チプラスは、援助がギリシャを戦争の当事国にしたと主張している。ギリシャ共産党は、5%前後の支持率を得ている。

彼らはロシアの侵攻を「卑劣」としながらも、米国、NATO、そしてウクライナ政府に等しく戦争責任があるとしている。同党の議員たちは昨年、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の演説をボイコットした。また、共産党系の労働組合の一部も、ギリシャからウクライナへの兵器輸送を拒否する行動を行っている。

欧州の他の共産党に比べて再建が進んでいないポルトガル共産党の国会議員も、昨年、ゼレンスキー演説をボイコットした。同党の議会グループのリーダーは、ゼレンスキーが「ファシストとネオナチの性格を持つ勢力に取り巻かれ支援されている、ゼノフォビア的で戦争屋的な権力」を体現していると非難した。また、Bloco de Esquerda(左翼ブロック)は、マルクス・レーニン主義やトロツキストのさまざまな潮流にルーツを持つ政党で、ウクライナに対しては共産党よりもはるかに共感的だが、やはり軍事援助は支持していない。

スペインの急進左派の見解も、ほぼ変わらない。ポデモスはロシアの支配層に対する制裁には反対していないが、ウクライナへの軍事援助には反対しており、NATOを強く批判している。スペイン共産党もNATOに批判的で、「スペインはこの紛争に関わるべきではない」と公に主張している。

しかし、社会党主導の連立政権で共産党の労働大臣を務め、スペインで最も人気のある政治家で新しい左翼の選挙プラットフォーム「スマール(団結)」のリーダーであるヨランダ・ディアスは、ウクライナへの軍事援助を支持している。バルセロナ・アン・コム(Barcelona in Common)に属するバルセロナのアダ・コラウ市長も同様の立場だ。彼女はカタルーニャ州の選挙連合「En Comú Podem(in common we can)」を通じてスマールと連携している。コラウは昨年冬にキーウを訪れ、バルセロナ市からキーウ市への市民的援助を行った。キーウでコラウは、「私は これを『紛争』というより占領と呼びたい。不公正で、残酷で、国際法違反の戦争犯罪だ」と述べた。

■英国労働党左派――ウクライナをめぐって二分

英国労働党の主流派は、ウクライナへの軍事援助とロシアへの制裁に強く賛成している。これは予想通りだ。それよりも興味深いのは、労働党左派のなかでウクライナ政策をめぐって分裂が起きていることだ。前党首のジェレミー・コービンは、国際情勢に対する平和主義的な見解を貫き、ウクライナへの軍事援助とロシアへの制裁に声高に反対している。コービン時代のシャドーキャビネットの「首相」であったジョン・マクドネルは、労働党左派の数十年にわたる重鎮であるが、ウクライナへの軍事援助を支持している。「ウクライナ人が必要とする武器の提供を拒否するということは、ロシアの侵略が成功する可能性が大幅に高まることを意味する。 平和は確保されるだろうが、ロシア占領軍によって押し付けられた不安定な平和だ」という理由だ。

党首のキア・スターマーが、侵攻前に「ストップ・ザ・ウォー連合」(英国の反米傾向の反戦団体)の声明に署名したマクドネルらに対し、名前を削除しなければ労働党議員団から外すと脅迫したことは注目に値する。マクドネルらはそれに従ったが、コービンは理不尽にも次の選挙で労働党候補として立候補することを禁止された。

■まとめ

この概説は、欧州の左翼政党をすべて網羅しているわけではない。そしてもちろん、欧州の左派政党の見解や政策だけが、ウクライナ戦争に関する議論において考慮されるべき事柄でもない。アメリカの民主的社会主義者たちは、戦争によって影響を受けている世界中の人々、特に、国家主権と自決権を守るというアメリカ政府の主張が懐疑的な目で見られて当然であるグローバル・サウスの人々の見解と政策を考慮する必要がある。

その上でなお、戦争は欧州で起こっており、そこにいる同志たち、特にウクライナ、ロシア、東欧・中欧、北欧諸国の同志たちの立場を考慮しなければならない。

■追記――ノルウェー「赤い党」が軍事援助賛成に転換

この記事を書き終えた後で、ノルウェーの急進左派「赤い党」が最近の全国会議で採択されたウクライナへの軍事援助に関する声明を発表した。赤い党はこの会議以前は軍事援助に反対していたが、この声明は軍事援助に賛成する立場に変わったことを表している。声明は「武器支援がなければ、ウクライナは蹂躙され、帝国主義的野心を公言する排外主義的で右翼的な民族主義なロシアの政権に服従させられていただろう。これこそが、独立と平和のために戦うウクライナの求めに応じて武器支援を提供するのが正しいと言える理由である」としている。赤い党は引き続き、ロシアの支配層を標的とした制裁、ウクライナ難民の保護、ウクライナの国家債務の帳消し、ウクライナの戦後復興支援を支持する。
(声明の全文はここで見ることができる。 https://links.org.au/norway-red-party-supports-ukraines-fight-freedom

(2024年7月27日掲載)

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