素のままでいて。

夏になったばかりというのに校舎は蒸し暑い。
こんな古い校舎の癖に保温機能付きなんじゃないかと思う。

近年、では珍しい初夏の真夏日。
生徒達は口々に暑い暑いと言いながら、
夏限定のポロシャツをパタパタとしている。
その中でズボンまで折り曲げている奴がいる。
あいつが大也だ。
クラスの男子上位グループに君臨している。
あんな格好が似合うのがとても羨ましい。
僕も少しだけ折ってみようとズボンの裾に伸ばしたとき、
ふわっと石鹸の香りがした。
「足かゆいの?」
祐美は首にシーブリーズをつけながら聞いてきた。
「ちょっとだけ」
僕は嘘をついて少しだけ足首を掻いた。
「今日ちょっと暑すぎない?」
祐美は慣れた手つきで髪を縛る。
「真夏日らしいからね。昨日は涼しかったのにな」
僕はなんとなく視線を逸らしながら言った。
視線を逸らした時、大也と目があった。
大也は目が合うとニコッと笑う。
男の俺から見てもクラス、
いや、学年の中でも上位の男前だ。
「大也ってイケメンというか男前だよね」
祐美は大也に手を少し振りながら言った。
「それはわかる」
でも祐美も学年の中なら可愛い方だよね。
心の中でそんな言葉を付け足す。

祐美は昼休みになると
他のクラスに弁当を持っていなくなる。
僕は横の空いた席を軽く見る。
「和希!お願い!」
不意の声にビクッとして前を見ると、
大也が手をスリスリとしていた。
「次の授業の宿題写させてくんない?」
「別にいいけどさ、毎週毎週聞いてくんなよ」
恥ずかしさで少しだけ語気が強くなる。
「ごめんて。これやるから。」
大也は横の席に座りながら、
パインアメを投げて来た。
俺の好きな飴だ。
「こんなもんじゃ足りないなー。
俺はこんなんで喜ぶガキじゃないぜ。」
この時だけは大也と話す時に緊張しないで、
言葉がスラスラと出てくる。
遠くから見る大也と
近くで話す大也は別人のようだ。

「今週の土日どっちか空いてる?」
「えっ、空いてるけど」
「じゃあ、買い物ちょっと付き合ってくんない?」
「うん」
「土曜でいい?」
「うん」
適当に相槌を打ちながら、
ぼーっと考えた。
「えっ?なんで俺?」
割と声が出た。
チラチラっとクラスメイトが見て
すぐに何もなかったかのように、
楽しく話し始めている。
「えっ去年約束したこと覚えてないの?」
大也は少しだけ驚いた顔をしていた。
「覚えてない」
僕は素直に言った。

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