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Twitter は数多の星の一つとなった

マイクロブログの覇権戦争は切って落とされた

 昨日 Facebook、Instagram を擁する Meta 社から、Threads という新しいマイクロブログがリリースされました。リリースからわずか 1 日で 3000 万ユーザーを獲得するなど、過去に前例をみない華々しいデビューを飾る一方で、それ以前から様々な新興マイクロブログサービスが乱立しており、ポスト Twitter を巡る激しい開発・ユーザー獲得争いが行われています。この note では、それらマイクロブログ SNS の覇権争いに目を向け、それら SNS にどのような特徴があり、どのように運営していて、どのようなユーザー獲得を行っているのかを見ていきます。

自己紹介

 先に少し自己紹介をします。私はうるし (@uakihir0) といいます。自分は長らく Twitter のクライアントアプリを開発していました。(TheWorld) 今は、様々な SNS を同時に見ることができる SNS クライアントアプリ SocialHub を開発しており、エンジニア目線で SNS を見ることが多いです。一方でマイクロブログという緩く気持ちを共有し合う、その魅力に取り憑かれたユーザーでもあります。自分の主観が交じる説明にはなると思いますがご了承ください。説明の順序は自分が登録した順序で記載していきます。


Twitter

 ますはマイクロブログを語る上で欠かすことの出来ない、Twitter について現状の整理も兼ねて記載します。Twitter は 2023/7/1 以降、一般ユーザーに見放されつつあります。厳しい API (リクエスト) 規制を一般ユーザーに課し、タイムラインなどが見えなくなるというサービス根本に関わる問題が起きてインプレッションが低下しています。

 また、Twitter 社はその API 規制に対しての公式の声明を出し、ユーザーに対して理解を促しました。しかし、この声明にユーザーに対してお詫びの文面はなく、この規制の影響はごく一部、と実際に規制にかかって使えないユーザーを無視した上、いつ解除されるかも明示されないという、余計に怒りを煽る結果になりました。

 また Twitter はそれ以前から、突然クライアントアプリ開発を禁止したり、開発者向け API の有料化したり、有料化した API について事前告知無しで機能を削除したりと、やりたい放題で、Twitter に今まで存在した様々な文化が失われました。Bot だと例えば、しゅうまい君は、ユーザーのツイートを取得できなくなり学習が出来なくなってしまったため止まってしまいました。この例はあくまで、一例でしかなく、私が作っていた Twitter クライアントはじめ、様々なアプリケーションが使えなくなり、Twitter の自由が損なわれました。このことについては、以前の note を参照してもらえればと思います。

 Twitter の今後の見通しについてはわかりませんが、この API 規制が続いている限り (規制が終わっても規制の印象が拭えない限り)、ユーザーは不信感を持ってサービスを使い続けないといけないことになります。これはあまりにも Twitter ユーザーにとってはマイナスです。今後はユーザーと信頼関係を再構築することに努めるべきと個人的には思います。


Mastodon

 次に語るのは Mastodon です。ActivityPub というサーバー同士を繋ぐ仕組みを持っている分散 SNS として、非常に多くのユーザーベースを抱える Mastodon ですが、基本的にはこの Twitter 騒動においては、かなり被害者的な立場にあります。

 Mastodon は日本においては mstdn.jp pawoo.net となかなかに苦難の道のりを辿ってきました。mstdn.jp はそれこそ Mastodon の中では有名なサーバーですが、運営元を二転三転しています。pawoo.net も Pixiv から運営元が変更されて、ニコニコが開始した friends.nico も 2019 年にサービスを閉じています。このように、Masoton の歴史は、コストがかかる一方で、非常にマネタイズが難しいという問題に悩まされてきた歴史とも言えます。

 7/1 の Twitter 騒動以降、Mastodon は各有名インスタンスはどれも非常に重たい動作になるなど、人口の流入や復帰勢で賑わいました。前述の話を踏まえれば人口流入について一口に歓迎できるものかどうかは、サーバー毎によって異なってくるように思えます。

 Mastodon は分散 SNS として、様々なクラスタをそのままを、サーバーとして分散して表現していたりと、棲み分けが一番進んでいる SNS といえます。恐らく、この状況は未来もしばらく変わることはないと思うので、その特定のクラスタに合う趣味・思考を持つ人にとっては最適な SNS であることが期待できると思います。


Misskey

 次に国産 SNS として期待を一気に背負っているのが Misskey です。Misskey も Mastodon と同様に ActivityPub に対応し、Slack, Discord のようなカスタム絵文字リアクションをメインフィーチャーに据えたマイクロブログ SNS になっています

 Misskey はその独特な文化から、Twitter でバズを引き起こし、特に 7/1 以降、非常に多くのユーザーが新規登録を行いました。Misskey も Mastodon 同様の分散 SNS ですが、misskey.io がほぼすべてのユーザーの受け皿になっており、非常に活発になった一方で、Masotodn 同様に動作の問題を抱えることになりました。

 misskey.io の運営は基本的に寄付によって成り立っています。寄付に対してユーザーにバッチを付けたりするなど、付加価値を付けることで寄付を行う動機づけを行っています。 7/1 騒動の少し前に、寄付先として使用していた Patreon のページが突如削除されてしまうという問題が発生して、大問題に発展しました。その後、7/1 騒動が発生しユーザーが爆発的に増え、サーバー費用がヤバいということもあり、Pixiv FANBOX 上で新たな支援プランを作成し支援者にのみ、アカウント新規登録できるコードを配布するという形をとりました。その後徐々に緩和し、現在では支援プラン以外で、希望者にランダムで招待コードを配布しています。

 Misskey はその独自の文化から、独自のコミュニケーションが行われており、マイクロブログとしてはかなり異端児だと思います。特にカスタム絵文字リアクションは簡易的な返信として使えて非常に便利ですが、その分、逆に普通のリプライ減るため、話すという文化は Misskey にはやや希薄だと自分は感じています。このように独自の文化にあったユーザーが根付く場所としてあり続けていくと自分は思います。


Nostr

 一番の SNS 異端児だと思うのが Nostr です。個人的にはマイクロブログというよりは、チャットだと思っているので、紹介は軽めにしますが、面白い SNS であることは間違いないです。

 Nostr はリレーと呼ばれる、投稿などのデータを受け渡し・記録を行うサーバーを購読し、そのデータを元に画面の表示を行います。データの形式や使い方によって、マイクロブログや、掲示板のようなサービスを作ることができます。よく使われるのがマイクロブログとしての見せ方で、それっぽく使うことが出来ます。

 Nostr が個人的チャットだと思っている理由としては、その仕組上から、自分や他人の発言を遡って探すのが非常に大変で、確実性が無いためです。機能的にそうであるため、ユーザー自身もあまり自分の発言を資産 (歴史の蓄積) だと思って発言していない節があると個人的に感じています。

 Nostr の機能的な一番の特徴といってもいいのが Zap で、これは Bitcoin を他のユーザーに渡すものです。詳しくは省きますが、この機能のためか、Nostr は Bitcoin 愛好家に非常に好かれています。例えば、Twitter 創設者の Jack がその筆頭です。

 Nostr は 7/1 の騒動以降、ユーザー数を伸ばしましたが他の SNS に比べても些細な伸びでした。あまりにも独特ゆえか話題にも上がらない印象です。とはいえ、その独特な機能ゆえに、愛好家に好かれ続ける唯一無二の場所として存在すると思います。


Bluesky

 Bluesky は先程登場した、Twitter の創設者 Jack が投資しているオープンな SNS プラットフォームの一つです。 ATProtocol という独自のプロトコルの上で動く分散 SNS です。(現状はまだ分散機能は動作していません)

 Bluesky は Jack の Twitter 創設における反省を踏まえて、各種 OSS マイクロブログ (Mastodon, Misskey, Nostr) 同様にオープンに開発されています。また、開発母体のマネタイズの理念として、広告の無いソーシャルプラットフォームを掲げていて、先日資金調達が行われました。

 Bluesky は基本に忠実な Twitter ライクな機能を備える一方で、カスタムフィードという、独自のタイムラインを作成できる仕組みを備えていたり、モデレーションについても細かいフィルタ設定ができたりと、ユーザーがコンテンツのコントロールを行うことができる仕組みを中心に、他にない機能も備えています

 オープンな開発が行われている故に Bluesky は既に API が公開されており、Matodon 等と同様に、エンジニアコミュニティーの中で Bluesky にまつわる様々なソフトウェアが作成・公開されています。その遊び場としての魅力もあり、ユーザーのエンジニア比率が他の SNS と比べてやや高いのではないかと自分は感じています。エンジニアユーザーも巻き込んで成長していくところも、この Bluesky の強みだと感じています。

 Bluesky ではユーザー認証にドメイン認証を用いています。ユーザーが保持するドメインに特定の設定を行うことで、そのドメインをユーザーの ID として設定することが可能です。ドメインの ID によってユーザーがそのドメインを持っていることが証明されるので、分散 SNS における問題であった、なりすましなどの対策を行うことができます。また、Bluesky の開発母体ではドメインの管理サービスの提供を予定しています。

 Bluesky に参加するのには、現在招待コードが必要になりますが、日本人コミュニティーの参加者も非常に増えてきており、サービス開始直後より、かなり招待コードが出回るようになってきています。Twitter アカウントがあるなら、フォローしている人が Bluesky をやっていないか検索してみるといいかもいいかもしれません。

 Bluesky はこのように非常に意欲的で、既存の Twitter の問題点に対して多角的なアプローチから解決しようと目論んでいます。現在は private beta の段階なので、一般公開まではまだ時間があるとは思いますが、将来性に期待したユーザー達が既に集まり、コミュニケーションを取り合っています


T2

 次に、この中だとかなり規模的には小さいですが、T2 (仮名で変更予定らしい) を紹介します。T2 は日本語圏においては、NHK のニュースで話題になりました。

 T2 は他の SNS と異なるところはかなりモデレーションに力を入れているところです。投稿に対しての通報のボタンが、いいねと同じ大きさで画面に配置していることからも、それが見てとれます。また、なりすましのユーザー認証にも力を入れていて、実際に初期の頃は、運営チームがビデオ通話でユーザーと会話して確認を行っていたようです。(今は、第三者機関による身分証明で認証を行います)

 また、開発においても、Discord から技術者を引き抜き、CTO に据えるなど、精力的に行われており、ユーザーベースは少ないながらも安定して動作しています。また、現在は新規登録には招待コードが必要です。


Threads

 7/6 に満を持して登場したのが、Meta 社による Threads です。Instagram のアカウントでユーザーを作成でき、そのソーシャルグラフを持ち込むことができるのが最大の特徴です。Mastodon 等と同様に、ActivityPub に対応を予定していて、それら SNS とも相互にやりとりが可能になる予定です。

 Instagram は Twitter と比較して 4 倍程度のアクティブユーザー数を誇る、トップクラスに位置するソーシャルメディアです。一方で、Instagram はあくまでも写真や動画を中心にしたコミュニケーションであり、会話はコミュニケーションの中心ではありません。Threads という名前に込められている思いは、その会話にあると以下のインタビューの内容から伺えます。(日本語で書き起こしはこちら)

 Instagram のソーシャルグラフを持ち込むことで、Threads は一気に成長しました。記事冒頭に記載した通り、1 日で 3000 万ユーザーは過去に無い勢いだと感じます。一方で、Instagram のソーシャルグラフが反映されやすい仕組みである以上、既存のインフルエンサーの投稿が影響力を持つ世界観は変わりません。しかしながら、Instagram はクリエイティブが評価される場です。Twitter での文字ベースのインフルエンサーは Threads では、ほぼゼロから再度ソーシャルグラフを構築する必要があり、既存のクリエイターベースのインフルエンサーに比べてビハインドを負うことになり、活躍することは結構難しいのかもしれません

 Instagram は過剰な承認欲求を排除するために、デフォルトの設定では、いいねの数は表示しない設定になっています。この設定は Threads にも引き継がれ、デフォルトではいいね数は表示されない仕組みになっています。また、ユーザーのプロフィールページを見ても、その人が自分をフォローしているかが確認できません。自分のページのフォロワー一覧から確認することはできるのですが、遠回りで、相互にフォローしているのかは簡単には確認できません。このように、エンゲージメントをあまり意識させない作りになっています。Twitter のようにブックマーク数とか閲覧数等を表示するように変更していった変更の方向性とは真逆に感じます。(タイムラインの時間の並びについても言及しようかと思いましたが、どうやら時間順のタイムラインを実装する予定らしいです)

 Threads は Instagram のユーザーを取り込み、クリエーターとの会話コミュニケーションの場として発展していくことが想定されます。 ActivityPub の王として君臨することも想定され、まだまだその方向性が見えてくるのは先のことだとは思いますが、ポスト Twitter 時代の本命として期待されていた Threads は、その期待をしっかりと背負った船出になったのではないかと思います。


まとめ

 ここまで長く、様々な SNS を紹介してきましたが、どれも様々な個性を持ち、様々な信念の元作成されていることが分かると思います。これからの時代、個人のアイデンティティや、趣味嗜好、所属、活動に合わせて SNS を使い分けるのが一般的になってくるのではないかと個人的には感じています。もちろんそれは 1 つの SNS に集中して活動するのでもいいし、様々なネットの人格に合わせて、SNS を行き来してもいいと思います。

 個人的に未来を想像すると、Twitter はテキストメディアを中心としたバズフィードの場として今後も生きると思います。Threads は Instagram との相乗的な作用を軸に Twitter のクリエーターの移住先として、今後も爆発的な伸びが期待できる場所だと思います。Bluesky や Mastodon はオープンな分散 SNS として、コミュニティーベースの活動の場として根付いていくと思われます。分散 SNS がメジャーを取っていくかどうかは、これから開発次第だと感じます。個人的には将来的な伸びしろが期待できる Bluesky を応援していますが、まだ不透明の部分も多いので、それこそ、これからの開発次第です。

 このマイクロブログ覇権戦争は、ユーザーに動揺と混乱をもたらしましたが、良い方向で捉えると、インターネットを変えるチャンスにもなります。バズフィードと対立煽りに汚染された今の Twitter は正直見るに耐えない部分があります。ユーザーが SNS を住み分けることで、居心地の良い環境を身を置き、インターネットのストレスから開放されます。Twitter でいいやと諦めずに、色々な SNS に顔を出してみてください。きっとあなたを待っている SNS があるはずです。

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