見出し画像

成績に左右されない観客動員の秘訣【名古屋グランパス】

前回の記事に引き続き "スポーツビジネス産業展" 特別講演の紹介です。
今記事では、2/6の講演から1つ、興味深かったものについてまとめました。

それでは、お付き合いください!

【紹介講演】

今回はこちらの講演を紹介します。

画像1

元ヴィッセル神戸の代表取締役社長であり、現名古屋グランパスの事業統括マーケティング部長の清水克洋氏

名古屋グランパスは2019シーズン、42,298席のキャパシティを誇る豊田スタジアムを数試合で完売にしており、既にJリーグ屈指の人気を博しています。

そんな名古屋グランパスが観客動員UPのためにどのような取り組みを行っているか、どのような工夫をしているかを講演でお話されていたので、それを紹介していきます。

【目指すべき姿】

まず名古屋グランパスのこの先、目指すべき姿について話していました。

・Team → 強く見て楽しいサッカー
・Fans → 街いちばんのクラブ
・Management → 優勝争いの出来る安定的経営基盤

この3つの要素を上から順に回していく事で好循環を生み出そうとしている、と清水氏は言っていました。

実際、名古屋グランパスは風間八宏元監督の元で超攻撃的なサッカーを繰り広げ、2017年の2部リーグでの戦いから観客を伸ばし続けてきました。
豊田スタジアムで観客数4万人超えの試合は、2018シーズンに2回、2019シーズンに3回と着実に観客動員の力を伸ばしています。

2019シーズンの平均観客動員数は、27,612人とJリーグで4番目の動員力を誇り、売上規模は70億円弱となるそうです。
2018シーズンの売上規模は、55億円だったので1年間で約10億円の増収に成功していることになります。

増収内容としては、チケット収入はもちろん、MD事業(グッズなど)やスポンサー収入も軒並み2~3割ほど伸びているとの事でした。
人気が増せば、企業にとってより魅力的な広告媒体となりますから、スポンサー額が平行して増えるというのも納得です。

またその他のtoC分野においても、収入と同様に2~3割の増加に成功したとの事でした。
toC分野について具体的には、twitterやInstagramのフォロワー数やファンクラブ会員数を指していました。露出の増加は、更なる観客動員増に繋がるので大きな要素だと感じました。

そして中期的な目標としては「2022年に100億円の売上規模」を掲げていました。100億円の根拠として興味深かったのが、欧州5大リーグを基準とした金額であったことです。

現在、欧州5大リーグの売上規模平均は

1位 プレミアリーグ (イングランド)
2位 ブンデスリーガ (ドイツ)
3位 ラ・リーガ (スペイン)
4位 セリエA (イタリア)
5位 リーグ・アン (フランス)

となっており、5位のリーグ・アンが約100億円の平均売上規模となっているそうです。
「では、まずそこを目指そう。フランスリーグで戦えるようなクラブ経営をまずは目指していかなければならない。」という形で目標設定に至ったと話をしていました。

ちなみにJリーグでもヴィッセル神戸が、2019年に売上高100億円を達成するだろうという事も言っていましたし、その規模がスタンダートとなる未来を予測しているようでした。

【企業パートナーシップ】

この講演でも、企業とのパートナーシップについて話が上がりました。
スタートアップピッチと称した活動を行っているそうです。

以下のような事例を中心に出資してくれるパートナー企業や地元企業とコラボレーションを図っているとのこと。

・au(KDDI)と共同でスタジアム内における5Gへ向けた取り組み
・BEAMSとのコラボレーション(特別ユニフォームのデザインなど)
ダイナミックプライシングの導入
akippaと連携し、駐車場問題や渋滞問題解決に向けた取り組み
・TOYOTAのロボット技術を用いて車いす客の観戦アシスト
テクムズの顔認証技術を用いてマーケティングデータを収拾(性別・年齢などを)

ほんの一例のようですが、様々な実験的取り組みを行っていますね。
そして名古屋グランパスのウェブサイトにも、スポンサーという言葉はありませんでした。前日の講演では、千葉ジェッツ島田氏も「スポンサーという言葉は使わない」と話していたように、これからのスポーツクラブと企業のリレーションシップが変化してきている事をここでも感じました。

【マーケティング指標】

強力な動員力を誇る名古屋グランパスですが、それはここ数年の話であり、以前は年間30万人前後の入場者数を推移していたそうです。

そして2014年度には、Jリーグ観戦者調査の各指標で最下位という不名誉な状態になってしまいました。その指標が以下。

・Jクラブは、それぞれのホームタウンで重要な役割を果たしている
・サッカー選手は、社会の模範として重要な役割を果たしている
・サッカーは、若い人たちの生活にいい影響を与えることができる

これは、クラブとサポーターの距離が遠かったことに起因していたと分析していました。それ故にその結果を受けても何をしたら良いのか分からない状態だったそうです。

そこでまず、来場している観客向けの調査から開始したところ一つの課題が浮かんできました。それは「名古屋グランパスの試合があると何処で知ったか」という設問で「どれも見ていない」という層が半数以上だったという点です。
既に名古屋グランパスが好きでスタジアムへ足を運ぶことが習慣化している人(=コア層)にしかクラブの存在が身近なものになっていたかったという事になります。

ダイレクトマーケティング施策は、それまでは「交通機関広告」がメインだったとの事ですが、ほとんど目に触れていなかったという事実が浮き彫りになりました。そこで方向転換を行い、web広告とテレビコマーシャルを施策の中心に添えることにしたそうです。

その結果、以前は半数以上いた「どれも見ていない」という層は劇的に減少し、現在では23%程にまで改善してきているとの言っていました。

愛知県という土地柄、車通勤の方が多いと思いますし交通機関広告が有効ではなかったという背景はあるにせよ、アンケート結果を真摯に受け止めすぐさま改善に着手したスピード感がとても素晴らしいと感じました。

他にも、名古屋グランパスの存在を知らせるための施策を、街のいたるところで打っていたそうです。

・大須商店街にエンブレムの描かれた旗を設置しマンホールもグランパス仕様に。
・瑞穂区役所にも名古屋グランパス仕様のデコレーションを実施

上記のような地道な施策を経て、2019年には夏場の4試合に跨って「鯱の大祭典」を行っています。

企業パートナーシップの一例にも記載した、ファッションブランドのBEAMSとのコラボユニフォームが大きな注目を集めていたのを私も記憶しています。

BEAMS効果でファッション雑誌「BRUTUS」でも取り上げられたり、名古屋港水族館での記者会見、スポーツ紙のみならず一般紙でも取り組みが紹介されるなど、非常に多くの露出があったそうです。

BEAMSコラボユニフォームはとても好評だったそうで、多くの購入者がいたとのこと。中でも白黒で鯱柄のGKユニフォームは非常に人気があったと言っていました。背中のしっぽ柄が可愛いですね!

Instagramでも「#鯱の大祭典」でスタジアムの雰囲気を投稿してもらう取り組みも多く行っていました。
試合中の写真よりも、スタジアムでの体験を生活の一部として楽しんでいる様子を投稿してもらい(いわゆるインスタ映え)、スタジアムが楽しい場所であるという認知を若年層へ広げることに成功したそうです。
気になった方、ぜひ「#鯱の大祭典」で検索してみてください。サッカー観戦の次世代の可能性を感じることが出来ると思います!

その結果、鯱の大祭典期間中の試合では多くの動員を記録していました。

画像2

後半2試合は瑞穂競技場での試合でしたが、いずれの試合も満員となっていました。特に8/30にFC東京戦は、金曜日の雨の試合で2万人動員は驚異的だと思います。

またこうしたイベント試合の後は、CS満足度調査を必ず実施し、次回以降の施策に反映させていっているとの事でした。

この結果を見るだけで名古屋グランパスのマーケティングが成功している事が伺えますね。
2019シーズンの年間入場者数は52万人となり、もちろん歴代最多を記録したそうです。

清水氏は、2020シーズンの目標を「年間55万人」と設定していましたので、今シーズンどんな施策を打ってくるのか、ウォッチしていきたいと思います!

【マッチデーに向けたアプローチ】

もちろん、裾野を広げた中でも試合中のスタジアムの雰囲気を疎かにしているわけではありませんでした。
webサイトなどを利用して以下のような段階でサポーターへ向けたアプローチをしているそうです。

~試合前日
 →選手による "応援のお願い" メッセージ動画や試合の見どころ解説を配信
試合当日
 →試合速報、試合結果、スタジアム写真の素早い配信
試合翌日~
 →マッチレビューを配信

このような配信系コンテンツに加え、試合当日には選手と直接触れ合える施策を行う事で、選手やクラブを身近に感じてもらうことに成功したそうです。
取り組みを行っていくうちに選手も協力的になり、ファン対応やメディア対応を頑張ってくれている、という話もしていました。

またスタッフによる来場者へのおもてなしにも力を入れているそうです。
来場者への挨拶や、ディズニーランドのような誕生日シール、落とし物などえ届けてくれた人にThank youシールを配るという活動をしているとの事でした。
これらの活動には小西工己社長も積極的に参加しているとのことで、サポーターとの距離感がグッと近くなったと言っていました。

その影響もあり、2017年までは0人(!)だったボランティアさんも、現在では200人まで増え、1試合あたり20~30人の方が活動されているそうです。

かつて、Jリーグで一番クラブとサポーターの距離の遠かった名古屋グランパスは、皆に愛される素晴らしいクラブに変貌したと証明できる、そんなエピソードだと感じました。

【まとめ】

清水氏は、J2に降格した2017年に入社し、それからわずか3シーズンで名古屋グランパスを人気クラブへ押し上げた、素晴らしい経営者です。
しかし、そこまでの過程に運要素は一切感じられず、やるべきことを地道に積み重ね続けた結果であると感じました。

当たり前のように思える来場者への挨拶を徹底したりすることも意外と出来ていないクラブも多いのではないでしょうか。
街中デコレーションに向けても地道な交渉がたくさんあったと思います。

最初は小さな活動でもリソースが貯まってくれば、その次は大きな活動ができるようになりますし名古屋グランパスは将来必ず100億円規模のクラブになると、そう確信しました。
清水氏を先頭に規模を拡大し続ける名古屋グランパスの今後に期待したいと思います。

【あとがき】

2/5, 6と2日間通してスポーツビジネス産業展で5つの講演を聞いてきました。
2/5の講演で印象に残ったものを前回のnoteにまとめています。
清水氏の話にも共通している部分が多くありますので、こちらも合わせて読んで頂けると嬉しいです!

以上、長文にお付き合い頂きありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?