描画

地方におけるスポーツビジネスの可能性【鹿島アントラーズ×千葉ジェッツ】

前回の記事でも紹介させてもらいましたが、私はJリーグに所属する柏レイソルを応援しています。

そして昨今、そのJリーグは、楽天の資本を元手にスター選手の獲得を続けるヴィッセル神戸や、シティフットボールグループ(CFG)のノウハウを活用し躍進を遂げた横浜Fマリノスを筆頭に、スポーツビジネスの色が濃くなっています。

そこで私も「一体、スポーツビジネスとは何か?他のスポーツクラブは何をしているのだろうか?」を探るべく "スポーツビジネス産業展" に参加してきました。
2/5, 2/6 の2日間で計5つの特別講演を聴講する予定ですので、各日ごとに印象に残った講演を紹介したいと思います!

まずは2/5から紹介していきます。

【紹介講演】

今回、紹介する講演はこれです!

画像1

2018シーズン途中にJリーグの名門「鹿島アントラーズFC」の経営権を取得した株式会社メルカリの取締役会長であり、経営権取得と同時に鹿島アントラーズの代表取締役社長に就任した小泉文明氏

経営難に陥っていた「千葉ジェッツふなばし」の代表取締役社長(当時)に就任し、クラブの再建のみならず強豪チームへと押し上げた剛腕経営者の島田慎二氏

今、スポーツ界でも注目を浴びている2人の経営者の対談とあって会場は超満員でした。
そのような貴重な講演を聴講することが出来たので、それを紹介していきます!

【働き方改革】

両氏とも昨今のバズワード「働き方改革」について語っておられました。

両クラブとも今は非常に生産的な働き方をしているそうですが、代表への就任当初はヒドイものだったそうです。

これは両氏とも話していたのですが、スポーツクラブにおいて良くある事が「好き故にひたすら頑張って働いてしまう」だそうです。
社員の方々はスポーツビジネスに関わりたくて従事しているので、頑張りすぎてしまうとの事でした。

しかしいくら好きとはいえ、やはり長時間労働は生産性を低下させてしまいます。そこでまずは働き方改革から取り組んだとおっしゃていました。

そこで興味深かったのが両氏のアプローチの違いです。

まず鹿島の小泉氏は以下の改善を行ったそうです。

・電話やメール主体のコミュニケーションからslackに置き換え
・紙の資料を廃止し電子化
・決定権を今までの5階層から3階層に短縮し無駄な稟議を削減

その結果、現在の鹿島アントラーズはメルカリと同じような働き方が実現しているそうです。
かなりホワイトになっているのでしょう。
(参考:なぜメルカリはホワイトな労働環境をつくれるのか?

対して千葉ジェッツの島田氏は以下のように言っていました。

・テクノロジーは強くないので社員の意識の部分で改善している
・無駄な会議を取り止める、ダラダラした無駄な残業を削減
・とにかく短い時間で生産性を上げることに注力した取り組み

かなり対象的な話をされていました。
ただ、テクノロジーは飽くまでも手段ですから、意識改革の部分は同じだと思います。
働きすぎる社員は会社にとって有難い存在になりえますが、しっかりそこに問題意識を持って対応しているのは現代型の経営者だなと感じました。

【クラブ経営】

既にクラブとしてのアイデンティティを確立されている状態で経営に乗り出した鹿島の小泉氏と、経営破綻寸前の状態から経営に乗り出した千葉ジェッツの島田氏、対照的に見える両クラブですが、ベースとしている部分は同じでした。

「ビジネスとチーム強化の両輪を同軸で回していく」という点を両氏とも語っていました。

資金を投資→チームが強くなる→観客・スポンサー増→資金増→資金を投資→更に強くなる→サイクルを回していく

という点において同じ目線を持っており、これはスポーツビジネスの基本となっているのだと感じました。

ただ鹿島アントラーズと千葉ジェッツではスタート地点が違うため、そのアプローチ方法には特徴がありました。

鹿島アントラーズは既にホームタウンでのブランドが確立されているため「行政の課題をスポーツクラブが解決していく」という方法でアプローチを行っていくそうです。
また、これからやってくる5G時代は、今まで以上に生活がネットワークで繋がっていくと考えられています。
そこでメルカリの持っているテクノロジーを行政に還元し、それを用いて課題解決することで、行政・市民の理解を得ていくという方針で改革を行っているとの事です。小泉氏は「これはJリーグの理念にも通じるものがある」と言っていました。

千葉ジェッツは逆に「金もない、客もいない、人もいない、知名度もない」という状況からのスタートだったそうです。
更に千葉県には、既に ジェフユナイテッド千葉・柏レイソル・千葉ロッテマリーンズ といったプロスポーツクラブが存在しており、新興クラブである千葉ジェッツが当時の「無価値」な状態で勝負してもスポンサーを獲得するのは不可能でした。

そこで島田氏は、スポンサー営業に出向き徹底的に未来のビジョンを語る事で企業に "投資" をしてもらうようにお願いしていたそうです。
投資をお願いする上でのマニフェストは「3年でタイトルを獲得する」だったそうで、実際にBリーグ誕生の2016年に天皇杯を優勝していますから、マニフェストを達成していることになります。ここからも島田氏の剛腕っぷりが伺えると思います。
また選手獲得の交渉の際も、スポンサー営業と同様に未来のビジョンを示し「この船に乗らない手はないぞ(島田氏)」と言っていたそうです。

また千葉ジェッツの初期の方針として興味深かったのは、アリーナに魅力が生まれるまでは集客をしていなかったという点です。
魅力が生まれる前に来た観客は、つまらない思いをして二度と来ない可能性が高いため、ポリシーを持って集客を3年間ほど我慢していたそうです。
一度離れた人間を呼び戻すには、新規の観客を呼ぶ以上に膨大がエネルギーが必要とされるため、計画的に集客をせず環境作りに注力していたとのこと。そして我慢を重ねた3年目に、ちょうどBリーグが発足し千葉ジェッツの人気が爆発した、という必然の上に成り立った人気だということは新しい発見であり新しい目線でした。

【地域密着】

ファシリテーターから「お互いのチームの印象は?」という質問に対する両氏の回答が以下でした。

小泉氏「数十万人規模の都市のスポーツビジネスを体現しているのが千葉ジェッツ」

島田氏「失礼な言い方だが、あのような場所で数万人の観客を集めて、更にタイトルを20冠も取っている鹿島アントラーズは化け物」

両クラブとも地域密着を強く体現しているクラブであり、それを体現し成功させているクラブであると言えると思います。

鹿島アントラーズは、前述と重複する部分もありますがメルカリの持つテクノロジーのノウハウで行政の課題を解消しようとしています。

そしてもう一つ大きな取り組みとして紹介されていたのが、ホームタウン内の企業向けにビジネスクラブを展開するというものです。小泉氏は「現代版ロータリークラブ」と表現していました。
地元の企業に参加してもらい、企業同士のマッチングやビジネスチャンスの拡大支援を鹿島アントラーズが主導となって行っているというものです。

これによって少額スポンサードの企業にも価値を提供することが出来るようになったと言っていました。
島田氏も「千葉ジェッツではスポンサーという呼び方をやめてパートナーと呼んでいる。一緒に企業の課題に取り組んでいく姿勢を持たなければ投資してもらえない。今は『露出上げますよ。なのでスポンサーしてください』では集まらない。」と話しており、日本スポーツにおけるスポンサーシップの在り方の変化を感じました。
※実際に千葉ジェッツのHPを見たところスポンサーという言葉は本当に1つも使われていませんでした。

その千葉ジェッツの島田氏は「クラブとしてホームタウンへの貢献(経済効果・人口増加)を強めていきたい」と語っており、地域密着への強いこだわりを感じました。

貢献の内容にも具体的に語られており、経済効果に関しては魅力のあるアリーナを作りアウェイチームのファンもたくさん来てくれるような取り組みをしているとのことでした。
アウェイチームのファンは当然、宿泊や観光を伴うものとなるのでダイレクトに経済効果に直結する動員と言えるでしょう。

そしてその後、印象的なワードとして「地域愛着」というのを掲げていました。
地域愛着とは、千葉ジェッツをより魅力的なものにし、「千葉ジェッツがあるから船橋に住みたい」という人を増やして生きたいという目標だそうです。船橋市の人口増(=税収増)でホームタウンに貢献したいという千葉ジェッツの地域に懸ける思いが強く反映されたキーワードだと、そう感じました。

講演の最後に両氏が語ったスポーツビジネスの可能性にも、地域への思いが強く表れていました。

小泉氏「これからはスポーツが生活に欠かせないものになっていくので、スポーツから日本を盛り上げていきたい」

島田氏「地方創生のためにスポーツビジネスをしているといっても過言ではない。これだけ様々な地方にスポーツチームがあるのは凄い事で、それをビジネスとして発展させていければ地域、延いては日本を元気にしていける唯一無二のコンテンツだと思っている。」

【スタジアム・アリーナについて】

今後のスタジアムやアリーナの在り方についても話題にあがりました。

鹿島アントラーズは、スタジアムを「テクノロジーの分野において有効な実証実験の場」として捉えており、今後デジタル化の実験をどんどん行っていくそうです。

・スポンサーのdocomoと共同で5G導入の実験
・全てのアクティビティを顔認証で行えるように
・VIP向けプラン(ヘリ送迎、ゴルフ付きプランetc...)

小泉氏は、「これらは準備が整い次第、リーグ戦34試合でPDCAサイクルを回して実効性を高めていきたい。そしてマネタイズの仕組みを確立していきたい。」と話していました。

小泉氏は再三「極端な話、サッカーを見に来なくていい」と発言しており、スタジアム滞在時間を如何に長くできるかが大切であると話していました。
今シーズンから今まで不可だった再入場を可能にし、スタジアム周辺に屋台村を作り、お祭りのような雰囲気を常に作り出していくとの事でした。
「屋台村があることでお父さんがサッカーを見ている間、家族はスタジアム周辺で楽しめるようにすることが目標」とかなりの本気が伺えました。

カシマスタジアムのスタジアムグルメはホーム側はかなり充実しているので、私のようにアウェイサポーターとして行く身としても、上記の取り組みはとても楽しみです。

またカシマスタジアムの減席についても言及しており「世界のトレンドは減席しプラチナ化していくこと。カシマスタジアムも25000人ほどにして満員率を高めたい」と言っていました。
それについては島田氏も「Jリーグは満員率が全体的に低い。空席が多いと熱量に差が出て、スタジアムを魅力的な場所にしづらい。これはバスケも同じ課題を抱えている。」と共鳴していました。

一方、千葉ジェッツは、船橋市内に1万人規模の新アリーナを建設するとの事です。完全に民設民営のアリーナだそうで、mixiと共同で出資し実現に至ったそう。
現ホームアリーナである船橋アリーナ(収容4,368人)では、4年連続最多動員を誇る千葉ジェッツの試合において満席の試合が多くなっており、このままプラチナ化路線で行くかどうか、かなり悩んだそうです。

ただ「既存のものを変化させるには膨大なエネルギーがかかる上に確実性も少ないが、良いサイクルに入っている現状で投資していかなければならない」と島田氏が語ったように、クラブの成長スピードに合わせてタイミングを掴んでいく事が非常に重要だと考え、新アリーナ建設を決定した経緯があったそうです。

【まとめ】

以上が、1時間の講演の中で語られたほぼ全ての内容です。

両氏とも共通して地域創生に非常に強いフォーカスを当てており、旧来型のスポンサード(親会社から多額の支援)ではなくクラブ自らが価値を生み出し、お金を生み出していく仕組み作りに注力されている事が伝わりました。

変化を惜しまず常に変化し続ける姿勢は、新時代のスポーツビジネスの可能性を大きく感じました。サッカーとバスケ、各スポーツ界を引っ張っていく存在になると思います。

新経営基盤となった鹿島アントラーズ。
小泉氏はテクノロジーの分野の人間らしく、理路整然と今後の鹿島アントラーズについて語る姿が印象的でした。鹿島アントラーズに対する愛情も感じましたし、その中で更に良いものを作っていきたいという情熱を感じました。サッカー界に新しい風を吹き込んでくれると期待しています。

新アリーナ建設で勢いに乗る千葉ジェッツ。
島田氏は、内に秘めた情熱をひしひしと感じる語り口が印象的でした。強いカリスマ性があり、私自身も話を聞いているうちに心酔してしまいました。笑
強い情熱を持った代表のいるクラブチームが成長しないわけがないと思いますし、千葉ジェッツから日本のスポーツ界を変えてくれるのではないかと期待しています。
ちなみに島田氏はサッカー界にも参画する予定があるそうで、とても楽しみです。

以上、長文にお付き合いいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集

Bリーグ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?