ダンジョン探偵2 断片


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 アスフォガルには、俺が転生してくるずっと前から地域密着型のマフィアが根付いている。
 その名もイージンドゥと言い、これは彼らの言葉で“青ざめた手”という意味を持つ。
 領主や迷宮検査官といった治安維持に携わる者たちは『青手組』と言ったりする。
 彼らの主に手首から先には、青いレースの手袋のような精緻な刺青いれずみがびっしりと施されているためだ。
 青ざめた手イージンドゥは組織というよりひとつの民族であり、生活を共にする共同体であり、一種の文化形態である。
 彼らは土着信仰から影響を受けたカラベリア正教の熱心な信者で、独自の犯罪倫理にきわめて忠実であった。
 一般的なゴロツキとは違って、青ざめた手は野卑な言葉づかいをしない。
 神を侮辱するような言葉を使った者には苛烈な制裁が下され、女子供や老人、障碍者しょうがいしゃなど、弱者を軽んじることも許されない。
 彼らの中では常に『敬意』という尺度が重んじられた。
 敬意を抱くに値しない存在というのももちろん彼らの中に存在し、共同体の外の人間、特に権力者やそれに従う法的手続きの執行人を、青ざめた手の構成員たちは特に侮蔑し、積極的に攻撃した。
 青ざめた手たちが住む集落の近くに騎士や迷宮検査官が近づくと、決まって魔法による爆撃や火炎瓶での出迎えがあった。
 悪い場合は、捕まって拷問の末に殺害され、道に十字架にはりつけにされて捨てられた。
 彼らは強盗や殺人、麻薬の売買をしたが、彼らの倫理観の中では彼らは極めて善良であった。

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