悪魔のグルメ
2020/10/28現在、カクヨムにて無料で読むことが出来ます。
小説家になろうで消されてしまったので、修正版を執筆中です。
それでもいいという方のみご購入ください。
「悪魔のグルメ」
伏見彦人
ある種の凄惨はどうしようもなく人を惹き付ける。
一面の血の海に立って、僕は考える。
足元には横たわった一人の女。
その膨大な血がこの小さな身体に詰まっていたなんて、にわかには信じがたい。小さく見えるのは、両腕がもがれているからだけど。
床には広く青いビニールシートが敷かれていて、一片一滴も彼女を逃さないという意思があった。
僕はそれを望まないことだと思っていて、いやらしく、陰惨で、救いがなく、悲しく、悪いことだとも思っている。
一刻も早く、この場を離れたい。血のにおいが骨にまで染みついてしまうような気がした。
けくっ、けくっ、と喉が痙攣する。
とっさに吐き気だと思って、僕は口元に手を当てた。この場所を胃液で汚してはならないと考えたからだ。しかし、実際には違った。
左手がなぞった唇は、大きく歪んでいて、それでようやく僕は自分が笑っていることに気付いた。
口元に当てられた手は、血に濡れている。高く吊り上がった口角から伝った鉄の味を、僕は深く感じる。
そうだ、これは僕がしたことなのだ。僕は罪業の徒で、暴力の信望者なのだ。そう望み、そうあれば良い。ははは。
僕の声に怯えたように、女が身をよじる。出血量から見てもそう長く生きられはしないだろうが、それでもその瞬間を一秒でも伸ばしたいのか。
右手に持った鉈を、握りなおし、振りかぶる。
肉色の芋虫に刃が到達するまでの間、僕は絶頂にも似た快感の中で笑い続けていた。
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