イタリア旅行記(その3)
フィレンツェ~ピサ周遊(1月2日)
ローマ市内散策&カウントダウンを楽しんだ翌日、丸一日かけてフィレンツェ~ピサを周遊する予定にしていた。
当然のことながら旅行会社を利用していないため、列車の時刻調査やチケット手配からスケジューリングまで全て自分たちの手で行う。
ローマ市内散策中にイタリア国鉄窓口でのチケット購入を済ませていたので、1月2日の朝から出発…と思っていたら、ホテル前のゴミ箱が大炎上していた。
フロントのにーちゃんに尋ねたところ「燃えてるねぇ。そのうち消防車がくるんじゃ?」的なノリだった。
日本だと人だかりができて大騒ぎするだろうに、ローマの青空の下、人通りも無くボウボウと燃え続けるゴミ箱…色々と凄いな。
朝一発目から中々の衝撃を受けつつも、テルミニ駅へ。
と、列車を待っていると何やらホームが不穏にザワつき始めた。
よくよくアナウンスを聞いてみると「フィレンツェ行きの列車の出発ホームが変更されました」とのこと。
しかもかなり離れた位置のホームに。
出発5分前の直前アナウンスだぜ。
平然と言ってくれるな。
乗客と思しき人々が大慌てで走りだし、僕らも遅れまいとそれに続いた。
急いで列車に乗りこんだが、念のために一緒に乗りこんだ人に尋ねてみる。
僕:Mi scusi. Questo treno va a Firenze?
(すみません、この列車ってフィレンツェ行きですよね?)
一緒に駆け込んだ乗客:…Forse
(…多分ね)
不安に駆られながらも、とりあえず座れそうなシートを探す。
(その後、車内の電光表示でフィレンツェ行きということを確認し、無事到着)
フィレンツェまでの列車内(その1)
年末年始シーズンだったため、車内はガラガラ。
(※ヨーロッパではカウントダウンとかのイベントを除いて年末年始は基本的に家族と家で過ごすのが慣例らしい。)
日本の列車と同じようにシートを回転させて対面式にできるため、移動中も旅程の確認会議を目的として対面式で陣取った。
旅程の相談や車窓を眺めたりしていたところ、怪しげなオッサン(コーンロウの東洋人が言うな)二人が突然隣に座ってきた。
~~~~~~~~~
| ❚
通|-- ❚ 車
|〇〇 ❚ ←オッサン&友人
|〇〇 ❚ ←オッサン&僕
路|-- ❚ 外
| ❚
~~~~~~~~~
何だこれ。
超密じゃねーか。
加齢臭で窒息死するわ!
窓際で逃げられねーし!
もう一度言うが、列車内はガラガラだ。
通路を塞ぐように僕らの隣に座ってきたこいつらの目的は何なんだ…
突如乱入してきた二人のオッサンは僕らに話しかけるでもなく、その二人で会話を交わすこともない。
カネか!?
それともまさかシリが目的なのか!?
下手に動けば…ヤられる!!!
(意味はご想像にお任せします)
ビビりつつ妙な沈黙に耐えていると、車掌さんが入ってきた。
日本と同じく、切符の確認作業のために車掌さんが列車内を巡回しているのだ。
面白いのは日本と違って必ず巡回しているわけではないようで、巡回したりしなかったりする。(長距離路線はほぼ確実に巡回がある)
明らかにやる気のない車掌さん(乗客がおろうがお構いなし)は終始ダルそうにチェックしていたり、チェックそのものをしなかったりする。
イタリアらしいと言えばイタリアらしい(笑)
ヨーロッパで鉄道を利用する時の注意
僕が旅行した国(イタリア/ドイツ/フランス)は日本のような自動改札がなかったり、あったとしても整備されていないところが多い。
フランスなんかは酷いもんで、あったとしても「故障中」の張り紙が一週間くらい平気で貼られてたり、自動改札に通した切符が出てこなかったりすることもある。
そんな適当な運営に慣れっこなのか、駅員の目の前で自動改札を乗り越える人もいたりする。
駅員に怒られるぞーと見ているこちらがヒヤヒヤしたが、駅員は見てみぬふり。
フランスの場合地下鉄にも抜き打ちで切符チェックが入ることがあるため、取り締まることについて窓口駅員は放置しているのかも知れない。
「オレの仕事は切符販売と案内!詳しい案内はしないけどな!」ってつもりなんだろう。
多くの日本人が困惑するであろう「C'est pas ma faute!(オレのせいじゃないし)」ってことかも知れない…
イタリアの場合、列車に乗りこむ前に「この切符は今日購入&利用中です」ということを証明するため、駅舎構内やホームに打刻機が設置してある。
車掌さんが巡回してきた時、打刻機で処理を済ませているかチェックした上で車掌さん自らパンチングを追加する。
「利用中(打刻) + チェック済」が刻印された切符は使えない、という仕組みだ。
車掌さんの切符チェックは厳しく、違反した場合は下記罰則が適用される。
・乗車前の打刻をしていないものは罰金
・使用済み切符での乗車(不正乗車)は罰金&強制下車
ヨーロッパへ旅行予定の人は是非とも注意されたい。
フィレンツェまでの列車内(その2)
車掌さんに気付いたオッサン二人組が何やら慌て始めた。
なんと、切符のパンチ跡を爪で擦って隠蔽しようとしているのだ。
ちょっと待て!
怪しい見た目のお前らがそれをやってたら、オレも仲間だと思われるだろ!
オレの見た目も充分すぎるほど怪しいんだから、いらんことすんな!!!
そう思うと、怪しい旅の一団と見られるためのオッサンなりの作戦だったのかも知れない。
と、オッサンたちの行為に引きつつもビビっていると車掌さんが僕らのシートにやってきた。
車掌さんは二重瞼の大きなタレ目と吊り上がった眉が印象的な、どことなくロシアっぽい顔つきの痩せた小柄なおばちゃんだ。
多分、昔は美人でモテたたんだろうな…という勝手な想像を膨らませる。
(※当時もモテていたなら失礼)
車掌さん:Bonjorno. Biglietto, per favore
(こんにちは。切符をよろしいですか?)
友人&僕:Bonjorno. Prego.
(こんにちは。はい、どうぞ。)
車掌さん:(切符をチェックして)…Grazzie. Buona giornata
(ありがとう。良い一日を。)
ふぅ…何も悪いことはしていないけど、一安心。
さぁ、問題のオッサン二人組の番だ。
オッサンA&B:…(無言で切符を手渡す)
車掌さん :…Quando hai acquistato questo biglietto?
(…このチケットはいつ買いました?)
オッサンA&B:…Oggi
(…今日)
車掌さん :Il timbro è diverso. Vieni ,per favore.
(打刻が違いますね。ちょっと来てください。)
オッサンA&B:Mi sono comprato!
(オレ、これ買ったし!)
(※イタリア人同士の会話で早口だったことや2012年時点の記憶なので文法の間違いがあるかも知れない。そこはご勘弁を。)
買った、買ってない、そもそも打刻がおかしいし何だこの証拠隠滅は…
という押し問答の末、小柄な車掌さんはオッサン二人の首根っこを掴んで別車両へ消えていった。
…
……
………
車掌さん強い&怖えぇー!!!
妙なオッサン二人から救ってくれた正義のヒーローだったが、その強さに驚いて呆気にとられるとともに「もし自分が打刻してなかったら…」という恐怖を存分に抱かせてくれた。
繰り返しになるが、ヨーロッパで鉄道を利用する人はくれぐれもご注意を。
そうこうしているうちに列車はフィレンツェへ到着。
現地はソボソボと小雨が降っていた。
フィレンツェ&ピサ観光~帰路
(各観光施設のレビューは詳しい方の記事が参考になるので、省略)
フィレンツェで軽く迷子になりながらも目的のサンタ・マリア・ノヴェッラ教会を存分に堪能し、ちゃっちゃと昼食を済ませてピサへ。
フィレンツェからピサへ列車で移動し、ピサの斜塔へローカル路線バスで向かう。
斜塔の“予想以上”な傾きっぷりに驚愕して楽しんでいたが帰路の列車時刻の関係上、フィレンツェへ大急ぎで戻って列車へ飛び乗った。
勿論、打刻は忘れずに。
こうしてイタリア旅行中のフィレンツェ~ピサ弾丸日帰り旅行を終えた。
ローマへ到着した頃にはとっぷりと日が暮れて、普段から閑散としているテルミニ駅は余計に薄暗く感じた。
ホテル近くのレストランで食事を済ませ、移動の疲れが出たのか即寝落ちした。
朝燃えていたゴミ箱は撤去され、燃え跡にススが残っていた。
ローマというかイタリア、色々とメチャクチャで面白い国だ。
旅の楽しみ(言葉)
ピサの斜塔へ向かう路線バスで、忘れられない一コマがあった。
古い街並みに見惚れながら友人と会話していると、地元のお爺ちゃんが「タワレ?タワレ?」と話しかけてきた。
何を言ってるんだ…と不審に思うも「Tower=斜塔に行くのか?(イタリア読みだと「タワレ」になるようだ)」と、斜塔への行き方を教えようとしてくれたらしい。
斜塔に向かうならもうすぐ下車する必要がある、とのこと。
ローカル線に乗りこんでくる外国人が珍しかったのか、慣れていないであろう英語で懸命に伝えようとしてくれたのだ。
このことにいたく感動してしまった。
拙いながらも僕もイタリア語で感謝を伝えた。
その後も日本から来たことや日帰りでローマから観光に来ていることを話した。
そうこうしているうちにバスは斜塔近くのバス停に到着し、改めてお礼を伝えて下車した。
お爺ちゃんは僕らがバスから降りた後も手を振り続けてくれていた。
やはり、現地の人とは現地の言葉で話した方が圧倒的に面白い。
一般的に国際語として認識されている英語はコミュニケーションツールとして使いこなせるにこしたことはない。
しかし英語が母国語ではない話者、特に使い慣れてない者にとっては「母国語から英語への変換」という一種のフィルタ(負荷)がかかったような会話に感じてしまう。
どちらか一方の母国語で会話をする行為は非母国語話者の中でフィルタの存在は消えないが、母国語話者はフィルタが無くなる気がする。
(勿論、不慣れな非母国語話者の意を汲み取る必要があるが…)
ドイツに旅行した時は英語教育が浸透しているのかドイツ語で話しかけてもこちらが観光客だとわかると咄嗟に英語で返してくれたりもしたが、イタリアやフランスで現地語で話すと相手が急に明るく&フレンドリーになることが多かった。
その場限りの関係性ということや効率を求める目的であれば英語に軍配が上がるのかも知れないが、個人的には現地語で会話をして一瞬だけでも打ち解ける方が好きだ。
同じ「旅の恥はかき捨て」なら、間違っても良いから現地語で会話してみることをオススメする。
何せ相手も「外国人」ということで英語で話しかけてくるだろうと身構えているのか、カタコトだろうが稚拙だろうが現地語で話しかけると「おぉ、頑張るね(笑)」という感じで迎え入れてくれる人が多い。
旅先という僕にとっての非日常の中でも、そこに暮らす人々が日常を営んでいる。
そういった人たちの日常の中へ飛び込んで、日常と非日常の狭間を味わえることが旅の醍醐味なのではないかと思う。
(その4へ続く)
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