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「不甲斐ない」なんて言葉が僕の口をついて宙を舞う頃、きみは今日も五線譜に書きつけたばかりの音を街中で弾き倒した。 それが聞こえたカフェのウェイターは鋭く舌を打ち、遠巻きにあれを聞いた通行人Aは、音の鳴った方へ駆け出す。野次馬心にほんの少しの希望を織り交ぜて。 そしてこんな街中に、青紫に輝く蝶。うるさいパトカーのサイレンと忙しない人の流れ。指揮者のいないオルケストラ。魑魅魍魎。 青空で閉じただけの箱庭都市で、深呼吸。不甲斐ない僕にできる数少ない行い。それは深く息を吸うことでも、
あなたが何者でもよかった。差し伸べられたものが釈迦の右手でも、悪魔の左手でも。取らないなんて選択ができるほどの信念も信条も、僕は持ち合わせていなかったから。 手を取った時、あなたは赤く笑った。赤面したとかそんなことじゃない。ただ、見えていないはずの舌が真っ赤であることに触れた気がする。とにかく僕には一番遠い色で笑ったのだ。 街の中で彼らに向けて歌っていた時、きっと僕も同じように笑っていた。 闇堕ちする時ってこんな感じ? 思考も視界も水平なまま狂っていく。うまく立てなくなって
だか僕よりRMLの話 僕は選ばれた筈だった。 この歪な世界を正すべく、生物の理を外れ、数多の 時を駆け、未来を変える役目を負った筈だった。 ──それなのに、この糸は何だ? 首に、手首に、指に絡みつく糸は、僕に世界の螺子を巻かせまいとする様に── ──まるで僕に「指でも咥えて眺めていろ」とでも言う様に── 変えるべき世界に縛りつけて、指さえ咥えられない状態にしておきながら。 これはタチの悪い夢なんだろう? 頼むから早く醒まさせてくれ! 全てが狂う前に僕は叫んだ。 『こ
ゆかいなキャラ紹介
もう、一体何度目になるのか。数えるのは遥か以前にやめてしまったが、推測でとっくに三桁へ突入している筈だった。きっとこのまま四桁へもいくのだろう。とうとうめまいさえ覚えなくなった。 幾度となく「終わり」を見てきた。それはいつも【結末】ではなく【終末】だった。いつだって私と、私の愛する人が住むこの国は、おかしくなったまま戻らなかった。愛する人は色んな目に遭った。突然遠くへ行ってしまったり、志しを同じくしては排斥されたりした。白く染まったことも珍しくない。絶望の果てに凶行へ及ぶこと
踊鎖を名乗る人の歌う【諦め】。対して、突如篝火花さんが打ち出した【希望】の歌。そして──ライト・"ムーン"・ライトが真っ赤な蝶の群れと共にぶつけてきた【蹂躙】。高架下は素通りどころかまともに通行できない状態となった。無数の赤い蝶が外壁となり、実質的にあたし達のいる場所一帯とその外側とを切り離してしまったのだ。 「流石にこの状況だと警察来るんじゃ……」 「根回ししたから来ないよ。君らが悪足掻きをやめるまではね」 「というか、何なんですかあなた!ステラさんに入れ知恵なんかして!そ
一年前 『未来は過去を無視した』という文字列を見た時、僕はハッとして、そして酷く落ち込んだ。架空の世界が放つ言葉は、どうしてか現実に一番深く突き刺さる。今の世界はまさにそうだった。歴史に学ばず過ちだけを繰り返す。僕も、友達も、家族も、見知らぬ他の人も、政治家でさえ。だから駅前で演説をしている野党議員のことも、僕は遠くから冷めた目で見ていた。どうせこの人も同じだ。そりゃあ、僕にだって理想はある。でもそれは叶わないのだ。こんな政権が何年も続く世界なんかじゃ、到底無理なのだ。 「
迎えた次のライブ当日。いつも僕らが歌っている場所に人がいた。背が高く、細身で若い。大学生だろうか。右の目元に泣きボクロがあるのが印象的だった。 「君らがいつもいる黒歌歌いの人達?思ったよりメンバーいるのかな」 「……僕、オトハです。あなたは?」 「俺、エンドシーカー。終末を見る者、的な?えっとね、ライト・ライトに君らのこと、潰すよう言われたの。よろしく」 「どうよろしくされればいいんだ……」 「歌えば?黒歌。どうせ白で上塗りされるけど」 そう言って後ろに下がって距離を取ると腕
「思い出したな、あの時のこと」 ギフトが去った後、左月さんが呟いた。 「別にイキりたかった訳じゃない。自分に酔ってた訳でもない。だけどさ、世知辛いじゃん、世の中って。君ちゃんも辛酸舐めてきただろ?そんな中でさ、正義ほど信用ならない概念もないじゃん。真面目に叫ぶのは馬鹿らしいじゃない。ああいう思想は生まれるべくして生まれた。沢山の人の中に。そん中には俺ちゃんだって含まれる。これに「それは違う」つって、どれだけの人が納得するんだよって」 「でも、それでも言い続けなきゃいけないと思
占いは基本信じないし見ないタイプなのだが、その日の朝はたまたまテレビを点けていて、なんとなく目に入った。自分の星座の運勢は最下位。縁起悪いなと思い、すぐに消してベッドに潜りこむ。そして昼過ぎにアラームを二つセットし、目を閉じた。 生まれ変わってもまた人間になることがあったら、二度と夜勤の週五勤務なんかしなくていい人生がいい、などと思いながら。 きっちり六時間後、アラーム音で目を覚まし身支度をする。その間、何故か心がざわついていた。怖いのだと思った。この間、あんなことがあった
「どうしましょう……」 呟いてみたけれど、相棒は物言わぬ蝶。からかうように私の周りを飛び回る。 既に時は金曜日。最新の会合から二日経つ。この間にオトハ君とステラさんからそれぞれメールを受け取った。先日の会合でどうやら、河川敷さんに対し圧をかけているような話し方をしていたらしく、二人から苦言を呈されたのだ。オトハ君に至っては、"春告花の分断を図っているのでは?"とまで疑われる始末。慌てて「今度河川敷さんに謝る」「分断も望んでいない」とは返したものの、河川敷さんには何て言えばいい
星は歌う。どうやら音波を発するらしい。でも宇宙は真空だから、誰も聴くことはできない。 星は踊る。他の何にも邪魔されずに二つだけで、お互いの周りをくるくる廻り合って移動している星があるのだとか。 星が歌って踊れるなら、歌だって空を飛んだりする……のかもしれない。奇想天外も意外と起きるこの世界だ。「あり得ない」と一蹴するのは少し憚られた。それにしたって、あんな言い方はしなくても。でも不思議なのは、篝火花さんがロマン一辺倒ではなかったことだ。会うと大体ふわふわしている印象で、子供み
・レクイエム ・カンタービレ ・Light Up The Sky ・春告花(読み:はるつげばな) ・ワルツに拍手を 書き写したユニット名候補のメモを眺めて、少し長めに唸る。こういうのを考えるのは久々だ。RPGのギルド名とかなら延々と悩み、その時間さえ楽しかったりするものだったが、それを現実でやるのは中々気恥ずかしいものがある(実際に名乗ったりする機会があるのかはわからないが)。ハンドルネームだって別に現実的な名前じゃないのに、何がこんなに抵抗感を生むのだろう? 一応、『レク
呆然。笑い。「そんなことより」。 数少ない友人達に近況を話した反応をまとめてみて、困ってしまった。そして踏み入れた世界の位置を思い知る。法は確かに施行された。当時はニュースでも取り上げていた。調べてみると、左月さん達以外でも声を上げている人々がいる。そう言うと「そうじゃない」と返された。 「存在を信じてないわけじゃないけど、活動家なんかやめた方がいいよ」 「何故ですか?」 「何故って……世間が引くというか、いい顔しないし、ヤバい人に思われるよ。適当に理由つけて離れた方がいいっ