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U30企画 ある人の危機感や楽しみを知ることから「まち」を考える

U30とは?

 「U30」とは、「U30がワクワクするまち暮らし」をテーマに、30歳以下の世代がまちへ関わるための「新しい入口づくり」、「新たな関わり、巻き込み」を考え、実践する団体です(随時メンバー募集中)。活動のひとつとして、対談企画を実施します。まちづくりや都市分野以外からそれぞれのメンバーがかっこいいと思うゲストをお呼びし、異なる分野の視点で楽しくまちで暮らすコツ、まちの関わり方、都市の楽しみ方を考えます。


まちって何?まちづくりって何?

 普段、当たり前のように使っている「まち」という言葉、「まちづくり」という言葉。この言葉の大前提には、一人ひとりの「人」があるように思います。だからこそ、この一人ひとりの「人」に思いを馳せることなく「まち」についての議論はできないはずだし、「まちづくり」は一人ひとりの「人」が日々をどう過ごすのかということと同義であるようにすら感じます。

 今回のディスカッションのゲストは松岡大悟さん。兵庫県の日本海側に位置する人口1万6千人ほどのまち香美町で建築塗装業を営みながら、まちづくりに取り組むNPO法人の運営や、隣県鳥取の市街地活性化に取り組むまちづくり会社の役員、そして、町議会議員としても活動をされている46歳です。今回のディスカッションでは、松岡さんという一人の「人」がこれまで何を感じ、どのように日々を過ごしてきたのかを知ることから、その延長線上にある「まち」について考えることを試みました。

まちとの関わりが一気に押し寄せてきた 〜松岡さんについて〜

 ディスカッションの冒頭、松岡さんから、現在に至るまでの取り組みの変遷やその時々に感じていたことをお話いただきました。学生生活を終えて地元へと戻り、家業である建築塗装業の道に進んだ松岡さん。まちに戻ると早速「消防団、商工会、自治区での伝統文化の継承など一気にまちとの関わりが押し寄せてきた」と言います。しかし、そんな地域の役割も40代になると一段落し、周囲では引退していく流れがあり、「これからは生業を頑張るんだ」と言われるように。

 まちに人がいて、日々生活や生業が営まれることに伴って、新しい建物の建設や既存の建物を修繕する必要が出てくる。そんな建築塗装を生業とする松岡さんは「まちのことからは引退して、生業のことに集中しよう」と言われることに違和感を持ったそうです。

 そんな40代になって感じた違和感から、次は自分たちの手で活動を作ろうと、同級生を中心にNPO法人を立ち上げ、移住や関係人口促進・空き家の利活用などを始めた松岡さん。さらにはその後、隣県である鳥取の市街地活性化にも自分でリスクを取りながら学びと実践をしようとまちづくり会社(※1)に役員としても参画しました。


人口以上に大切な、まちを構成するバランスの話 〜ヒント1〜

 参加したU30のメンバーからの「人口が急速に減っている現状をどう捉えているか」という問いかけに対しては、実際に人口減少を目の当たりにしながら事業に取り組む松岡さんだからこその回答が。松岡さんは「人口1万6千人のまちに工務店がいくつあるか、水産加工屋がいくつあるか、そんな風にまちを見てみると、需要に対して供給が多い状態で、もっとまちの人口が減っていってもまちの中で経済を回していくあり方は模索できる気がする。むしろもっと少ない人口の方がバランスが良くなるかもしれないし、人口減=問題ではない」と言います。
 そして「大切なことは人の数以上に年代間のパワーバランスではないか」とも。若い世代がチャレンジでき、まちの中心を担っていけるようなバランスをいかに作るのかを考えた結果、松岡さんが次なるチャレンジに選んだのは議員という仕事。まちの中で、20代との新たな繋がりも見えてきた松岡さんは、プレーヤーとしての役割を若手世代へ渡し、次はプレーヤーが活動しやすい環境づくりに回ることを選択しました。60代でも若手と言われるという香美町の中で、20代がプレーヤー/40代がそれを支えるという構図は確実にまちのバランスを変えています。
 このことは、U30という年代で何ができるのかを考えることの重要性と、同時にそのグルーピングからは溢れてしまう異なる世代の人といかに役割を分かち合いながら、日々の暮らしを持続させ・前進させるための最適なバランスを見つけていくか、一人ひとりの実践と対話が大切だというメッセージに感じます。

人を知ることとまちを知ること 〜ヒント2〜

 最後に、ペンキ屋さん(松岡さんは建築塗装業のことをペンキ屋と呼ぶ)としての生業の話を聞く中で思いがけず、面白い気づきがありました。「ペンキ屋さんとこれまで会うことがなく新鮮」という感想がU30メンバーの複数名から出たのですが、企画者として松岡さんをゲストに選んだ僕(※2)も松岡さんと会うまではペンキ屋さんに会ったことはありませんでした。でも、松岡さんに会ってから僕は、まちのあらゆる建物や建造物に塗装が施されていることに意識が及ぶようになりました。当たり前の風景の一つひとつにペンキ屋さんの仕事が関わっていると知ること、同じように目に見えている様々なものがまちに住む一人ひとりの仕事で出来ていると感じること。その視点を増やしていくことの積み重ねによって、住みたいまちの姿をより鮮明にイメージできるようになり、どうすれば住みたいまちに近づけるのか具体のアクションをより多様に考えられるようになるのではないでしょうか。
 知らないことを知ること、出会ったことがない仕事に触れること、大人の話を聞くこと、その中でまちを見つめてみること、これからますます楽しみが増えた気がします。

※1 株式会社まるにわ 

【ゲストスピーカープロフィール】
松岡 大悟(株式会社松岡塗装店 代表取締役/香美町議会議員ほか)

1974年生まれ。兵庫県香美町出身。国立米子工業高等専門学校を卒業後、家業の松岡塗装店に入社。2012年からは同代表を務める。2015年には香美町の地域課題解を事業で解決するNPO法人TUKULUを設立し、代表理事として移住定住促進業務や空き家利活用等に取り組むほか、鳥取市の市街地活性化に取り組む株式会社まるにわのメンバーとしても活動中。2021年からは香美町議会議員としても活動を開始。公と民の両面から香美での活動を展開している。


【企画者プロフィール】
※2山本 修太郎

1997年生まれ。兵庫県香美町出身。神戸大学経済学部を卒業後、株式会社タウンキッチンに入社。社会人生活を送りながら、地元香美町出身の20代5名で構成する一般社団法人HiCO-BAYの運営などを通じ、地元香美町に将来住み続けていくための種まきも行う。


<過去記事>
第1回:「U30」の視点で合意形成を考える

第2回:「U30」の視点で考える「まちとの多様な関わり方」

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