新規就農者は“地域ぐるみ”で育てる。高知・山北みかん産地が挑戦する独自コンセプト「地域就農」
💡今回のnoteは、12月11日〜13日に開催される「U-29×山北みかんフェア」に寄せて書いています。当日のイベントにお立ち寄りいただく方々や農業・地域のことに関心のある方々に向けて、産地の声をお届けします!
本記事をご覧いただき、ありがとうございます!
12月11日〜13日、コミュニティメディア「U-29 ドットコム」を運営する株式会社ユニークは、株式会社山北みらい、株式会社UNCHEFと共にフェアイベントを開催します。
開催にあたっては、11月には都内在住のU-29世代のメンバーと高知にある山北みかん産地に出向き、収穫のお手伝いをしながら農家の皆さんと交流を図りました。現地に出向いたからこそ感じることができたものは多く、初めて知ることも少なくありませんでした。
今回は、山北みかん産地において持続可能な地域農業を実現するための事業創造に取り組んでいる株式会社山北みらい(以下、山北みらい)代表取締役の堀川 里望(ほりかわりぼう)さんに伺ったお話をお伝えします。
みかんの先にいる産地の方々の姿。毎年美味しいみかんを作り続ける産地の方々の想い。産地の厳しい現状を受け止めよりよくしようと取り組む方々の情熱。
イベント会場やそれ以外の機会に山北みかんを手に取っていただく際、ぜひ心に残していただければと思います!
「山北みかん」が全量県外に…。見過ごせなかった産地の裏側。
ー堀川さんのプロフィールをお聞かせください。
山北みらいの代表取締役の堀川 里望と申します。高知県にある香南市の元職員を経て、現在は株式会社ものべみらいグループと、グループ会社の株式会社山北みらい、株式会社ヤ・シィ、一般社団法人物部川DMO協議会で役員をしております。主に、物部川エリアの観光や地域発展に関わる事業や持続可能な地域農業を実現するための事業創造に取り組んでいます。
ー今回は、「U-29×山北みらい」の取り組みということですが、里望さんご自身は山北という土地や山北みかんとどのように出会ったのでしょうか?
行政マンとして香南市役所で働く中、平成27年に初めて農業課に配属となりました。35歳で農業分野に飛び込んだわけですが、それまで農業とは無縁の人生を過ごしていました。最初に取り組んだのが「六次産業化」といわれるもので、当時は「地域の特産品を使って加工品を作ればいいんだ」という感覚でした。
やがて、担当として取り組むうちに「(香南市の特産品と言われる)「山北みかん」の加工用・商品を見かけないな」と思い、気になり始めました。農家さんに尋ねてみると、意外な事実がありました。
山北みかんは、高知県外に全量買い取られていたんです。販路がなく、他県で買い取ってもらえるのであれば…ということで買い取られ、他県の加工品の原料になっていると聞きました。その現実を目の当たりにした時、僕は悔しかった。高知県民にとって誇るべきもののひとつである山北みかんがまさかそんな風に扱われているなんて思わないじゃないですか。
その現状を見過ごすことができず、自分たちで山北みかんを原料とした加工品の開発や販売を手がけていこうと声をかけ始めました。今思えば、これが今の株式会社山北みらいに繋がるきっかけだったと言えるかもしれません。
ーその後、どのように開発や販売を進めていったのでしょうか?
自ら農林水産省の提案型事業に対して、山北みかん産地をブランディングする企画書を作成し、5年間で約2,000万円の交付決定をもらいました。その結果を持って、加工品の商品をつくってみないかと農家さんを訪ねてまわったんです。地元のシェフにも依頼し、いくつか試作品をつくるうちに「山北みかんバター」という人気商品も誕生しました。
自ら言い出したプロジェクトなので、次に何をすべきか、加工品を販売するのにどうしたらいいのか、を最初は自分で調べなければならなくて…。原価計算、食品表示法、在庫管理体制、ラベルデザイン、営業など、やるべきことは山積みでした。市役所の職員だけれども、言い出してしまったからにはやるしかないと思い、その頃は一人突き進みました。
産地を守るために必要だった。「地域就農」という新コンセプト
ー加工した商品を開発した後、どのように展開されたのですか?
バターやジュースなどの商品開発をおこない、少しずつ販売できる商品が揃ってきた頃、都市部のバイヤーを山北の産地に招くようになりました。さらに、空港で山北みかんのPRイベントをおこなったり渋谷ヒカリエでトークショーを開催したりなど、多くの企画に取り組みました。
ー行政マンとして、非常にアグレッシブな活躍ですね!
市役所の職員としてはあれでよかったのかもしれませんが、六次産業化担当として2年ほど取り組むうちに新たに気づいたこともありました。
後継者が見つからないまま農業を営む人材の高齢化が進み、産地の存続が危ぶまれる未来が見えてきたんです。それを受け、「僕が取り組まなければいけないのは、ヒット商品を開発することではない。本当の意味で香南市・山北産地を救うためには、産地を守り、育てていくことに取り組まなければいけないんだ」と気づきました。たとえ開発した商品がたくさん売れても、農業を営む人材がいなくなってしまっては産地自体が衰え、なくなってしまいますからね。
ー本気で商品開発と販路開拓に挑んだからこそ、その先にミッションのようなものに辿り着いたのですね。
それ以来、僕たちは香南市・物部川地域を就農しやすい場所にしようと思い、取り組んでいます。そのために、「山北モデル」と言える新しい地域農業のあり方を提案し、普及させていくことがミッションだと思っています。
ー「山北モデル」とはどういったモデルですか?
ひとつの農家への就農ではなく、地域への就農…「地域就農」をコンセプトにしています。
「新規就農」というと「家」単位で考えられることが多く、その農家に跡継ぎが現れるかどうかという世界です。その枠を超えて関わり合ったり支え合ったりすることはなく、ひとつの「家」の中で処理されることが多かったんです。その跡継ぎが現れなければ、代々続いたその家の農業は途絶えてしまいます。そうした事態に陥っている農家が多く、後継者不足が大きな問題として叫ばれているわけです。
それに対し、僕たちが考える就農の形は少し違います。後継者不足問題を「農家」単位ではなく「産地全体」の問題として捉え、産地として、あるいは地域として後継者を育てていこうと提唱しているんです。
ー具体的な取り組み例を伺えますか?
地域おこし協力隊の制度を活用して「山北みかん研修生」を募集し、地域全体で育成。研修生たちは3年後の山北での独立就農を目指す形です。
農業に関わる人材の高齢化が進むと放棄地が増え、独立就農しようとする人がいても農地や園地がなくては困りますよね。そこで、山北みらいでは園地を譲り受け、管理し、独立収納する方へ農地をお渡しする取り組みもしているんです。
ー伺った一連の取り組みの過程で里望さんは市役所職員から転職し、現在は山北みらいの代表取締役になっていますよね。なぜ、安定感のある市役所職員から飛び出そうと思ったのですか?
まず、課題やミッションのようなものが見えてくると、どうしても解決したい、目指したいと思ってしまう性格なんです(笑)。取り組んでいくうちに、その気持ちがどんどん増していきました。また、それまで所属していた農林課から異動になったことも転機だったと言えるかもしれません。
行政で働いていると4〜5年に一度は異動があります。僕自身のことを話すと、ここまで話したようなことに向き合い、熱心に取り組んでいた農林課から上下水道課に異動することがありました。名前から伝わると思いますが、お察しの通り…全く異なる部署への異動です。
異動後は上下水道課の仕事に取り組んでいたわけですが、一部の農家さんは(農林課で一緒に取り組んでいた僕のことを思い出してくれて)「市役所の職員さんをまったく見なくなったね。寂しい」という声を耳にすることもありました。それを聞いた時には、かなり葛藤しましたね。自分はこのままでいいのか、と。
ー農家さんの気持ちになり、農地や産地のことを思うと、もどかしい気持ちになりますね…。
当時は40歳になるタイミングで、よく考えました。行政マンとして、あのまま後方支援に徹する働き方を選ぶ選択肢もありました。でも、人生残り20年ほどしか社会に貢献できる時間がないと考えれば、悶々とした気持ちを振り払い、自分がみんなをリードして走り切りたいと思いました。
ー市役所職員を辞めるという大きな決断をされた時、不安はなかったですか?
全く不安がなかったわけではないですが、行政で働くことも、それ以外の仕事に就くことも、(その土地にいれば)その土地に貢献しようという気持ちがあれば大きな違いはないと思います。20年近く行政の仕事を経験してきた自分だからこそできること、僕みたいな性格の人物だからこそできることがあると信じています。
生産者と消費者が近づくことで見える、山北のみらい
ー今後、山北みらいとして目指していきたいことを教えてください。
一言でいえば、山北を中心とした産地を盛り上げていきたいですね。具体的には、単に商品を開発して販売するのではなく「関係人口づくり」に取り組んでいこうと思っています。山北地域のことを全く知らない人たちに訪れてもらい、何かを感じてもらい、そこから産地にフィードバックされる流れがパワーやきっかけになると思うんです。その結果、山北が魅力ある産地・地域となり、ファンと言える人が増えてくれればと願っています。
今後どういう展開になるかはまだわからないけれど、産地の他のステークホルダーができないこと、やらないことに挑む存在でありたいですね。そのためには、さまざまな県外の方と接点を設け、積極的な情報発信も取り組んでいくつもりです。
ー山北地域に初めて訪れる方々には、特にどういった点をおすすめしたいですか?
山北の人たちの温かさや土地の雰囲気を感じてほしいですね。青い空、みかん畑の風景、開放的な空間…その全てに僕自身も惹かれています。いつから好きになっていったかは覚えていないけれど、この土地で過ごすうちにだんだんと感じ始め、気づけばファンになっていました。
ーどんな方に山北地域、山北みかんの魅力を知って欲しいですか?
日頃スーパーで買い物される方にこそ、ぜひ山北地域やみかんの魅力を感じて欲しいですね。
というのも、スーパーで買い物するとき、何を基準に選びますか?価格や見た目の良さで選ぶ方が多いでしょう。一方で、生産者と近い距離で暮らしている僕たちの中には「あの人が作るみかんだから買いたい、食べたい」という基準もある。生産者と繋がり、購入することが増えると、野菜や果物を買い、食べることへの喜びと楽しみが増えるんです。
そうした体験を知ってほしい、必要とする方へ届けたい…そう願っています。
12月11日〜13日に学芸大駅前で株式会社ユニークの方々とみかんを販売する取り組みは、まさにその願いを叶える貴重な機会のひとつです。
最初は全量県外へ買い取られ、自分たちが育てたみかんを誰が、どこで、どんなふうに食べているのかわからなかった産地の方々にとっても、こうして直接みかんを手に取ってくれる方々と知り合えることはきっと大きな意味があります。
今後も山北みらいが地域内外を繋ぎ、新たな価値を創出し続け、テーマとして掲げつづける「地域就農」の実現を果たします。
最後に
ご覧いただき、ありがとうございました!
今回は、都内在住のU-29世代が初めて高知の山北みかん産地を訪れて知ったこと、日頃みかんを手に取っておられる方々に伝えたいと思ったことをnoteにまとめてみました。
地域や生産者との繋がり、普段の買い物や食生活が豊かになるきっかけを求めている方がいれば、ぜひ12月11日〜13日のフェアイベントにお越しください🎉
生産者の方々とU-29メンバーがご来場をお待ちしております!
SNSではRTキャンペーン企画も行っています!ぜひチェックしてみてください。
本イベントの共催会社
▼株式会社山北みらい
▼株式会社UNCHEF
▼GAKUDAI MARCHE
取材=山崎(株式会社ユニーク)
執筆=角南(株式会社ユニーク)
構成・編集=山崎(株式会社ユニーク)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?