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SAULT (ほぼ)全アルバム聴いてみた


SAULT (ソー)という謎のグループについて存在を認識してはいたものの、情報をほとんど出さない主義ゆえに取っ掛かりもなく今日まで至っていました。
常にネタ切れ気味である自分の音楽ラジオ番組用に、夏休み企画ぐらいの軽いノリでまとめて取り上げてみようかと聴き始めたのがきっかけでした。

2019年に何の前触れもなく登場した、ほとんど素性の知れない覆面グループ。
でも当時『ミュージック・マガジン』誌はある程度詳しく紹介していて、目にした記憶があります。分かっている範囲では、プロデューサーのInfloが全体の指揮を取っていて、歌の中心はCleo Sol、そしてシカゴのラッパーKid Sisterが加わる。ここを基本メンバーに、Infloとの繋がりから様々なゲストも参加しているらしい。
それ以外に明らかになっていることはほとんどなく、誰が演奏しているかも不明。公式サイトもSNSも最低限の告知のみで、過去の投稿は削除しているようです。

ここまでの約5年間でEP含め13枚もの作品を出しているだけでも信じがたいのですが、今回最も驚愕したのは内容がどれも非常に優れている点。
まとめて聴いてみるとアルバムごとに特徴はかなり異なっています。おそらくですが、SAULTという匿名性の高い旗印のもとに多種多様な音楽家たちが集結し、かなり自由の効く制作環境でそれぞれの表現を追求しているのでしょう。
思ったのは、音楽家というのは、既存の枠組みから外れて創造性を全開にできる状況を作ればこれだけの成果を残せるものなのか?ということ。
自由な発想で曲を書き、砕けた雰囲気で演奏できる。新曲を発表するペースも自分たちで決められ、誰と共演するかも気兼ねなく選べ、売り上げを気にすることなく音楽そのものに集中できる。もちろんそれぞれ実力ある音楽家たちだからこそ、これだけの中身がある面白い音楽を残せているのでしょうけど、今までの私が慣れ親しんできた常識がひっくり返されるほどの驚きがあります。
具体的にはソウルを中心としたブラック・ミュージック全般であり、パンクを通過しレゲエに感化された後のロックっぽさもある。加えて多彩な要素を持ちつつも、一言でまとめるとしたらリズムを重視したダンス・ミュージック。しかもそれらだけではなく、クラシックの範疇に入るオーケストラ作品まである。
何より、”Rebel Music”すなわち、音楽表現を通して少数であり虐げられている側から声を挙げ抵抗していこうという意志が全体に通底している。

せっかく(ほぼ)全アルバム聴き込んだので、現時点で聴ける10枚のアルバム+EP1枚から、カッコ良く聴きやすいもので一つのプレイリストを作りました。アルバム発売順に並べて、それぞれから1~3曲ずつ選んでいます。

  1. SAULT “We Are the Sun”『5』(2019)

  2. SAULT “Why Why Why Why Why”『5』(2019)

  3. SAULT “Let Me Go”『5』(2019)

  4. SAULT “Tip Toe”『7』(2019)

  5. SAULT “No Bullshit”『7』(2019)

  6. SAULT “Wildfires”『UNTITLED (Black Is)』(2020)

  7. SAULT “Eternal Life”『UNTITLED (Black Is)』(2020)

  8. SAULT “Free”『UNTITLED (Rise)』(2020)

  9. SAULT “Strong”『UNTITLED (Rise)』(2020)

  10. SAULT “I Just Want to Dance”『UNTITLED (Rise)』(2020)

  11. SAULT “Air”『AIR』(2022)

  12. SAULT “Valley of the Ocean”『Earth』(2022)

  13. SAULT “Stronger”『Earth』(2022)

  14. SAULT “In The Air”『11』(2022)

  15. SAULT “Fight For Love”『11』(2022)

  16. SAULT “Run”『Today & Tomorrow』(2022)

  17. SAULT “4am”『AIIR』(2022)

  18. SAULT “God Is Love”『UNTITLED (God)』(2022)

  19. SAULT “God Is On Your Side”『UNTITLED (God)』(2022)





以下、ほんの一言ずつですがアルバムを紹介していきます。ここも発売順。

『5』2019年5月発売 全14曲42分

5
最初のアルバム。発表直前に予告的な先行シングルが3曲出ていたようだ。それらを筆頭に聴きやすく耳馴染みのする曲も散りばめられている。
ほぼ全作を聴いた後に改めて振り返ってみると、すでにグループとしての特徴はあらかた出ているように感じる。基軸にあるのはソウルを中心としたブラック・ミュージック。エレクトリック・ベースとドラムスの反復するリズムを中心に、作り込むというより一筆書きというかセッション的な作曲方法を採っている。敢えてゴリゴリっとした生々しい録音。



『7』2019年9月 10曲34分

7
やはりリズム隊と声が中心。そこにシンセサイザーと打楽器、バックコーラスで幅を作っている。一発録りのような勢いもある。歌も含め、歪ませたような音像は意図的なものだろう。



『UNTITLED (Black Is)』2020年6月 20曲57分

UNTITLED (Black Is)
シリアスさを増していくようで、主張はより明確に、人種的少数派からの視点になっているように思う。その点からもソウル~ゴスペル色は濃い。キーボード類の音色も多彩だし、編曲の方法も幅広い。"繋ぎ"のような曲も複数あって、アルバム全体で表現しようとしている。



『UNTITLED (Rise)』2020年9月 15曲51分

UNTITLED (Rise)
最も躍動感があり、突き抜けたようなポジティヴさも兼ね備える一枚。バトゥカーダと呼ばれる打楽器隊のみの迫力ある演奏も効果的。ファンクっぽさ、ジャズの感覚も混ざり込む。弦楽器や語りなどもふんだんに取り入れている。


※『NINE』2021年6月 10曲34分 
こちらのみ、現在はフィジカル(CDあるいはレコード盤)のみで入手可。99日間だけ無料ダウンロードできたようです。未入手のため今回は割愛しました。



『AIR』2022年4月 7曲45分

AIR
またガラリと変わって、合唱隊やオーケストラによるクラシック作品。映画音楽風でもある。ハープや琴?も中心的に使われている。壮大な曲調、たおやかな旋律と、かなり聴き応えがある。


※『10』2022年10月 1曲10分 (『Angel EP』と表記される場合もあり)
ルーツ・レゲエの香りがする3つの曲を一まとめにしている。2番目のゆったりとした曲が好みだが、取り出せないので今回ここでは割愛。


そして、ここからの5枚は2022年11/11同時発売。

『Earth』 9曲39分

Earth』 
ジャメイカであったり、ブラジルっぽいものも含まれる。詳細は不明だがレユニオン島のマロヤみたいな演奏、どことなくアフリカン・ポップス風味も。さらに射程距離を広げてブラック・ミュージック全体を俯瞰しているのかもしれない。と思いきや、和太鼓のような音も?1曲ごとに録音場所も違うようだが、相変わらず謎が謎を呼ぶ。



『11』 11曲44分

11
引き続きレゲエやパンクの要素もあれば、甘めのソウルもある。同じ曲の中でも独特の混ざり方をしている。やや抑制の効いた曲調が多め。個人的にはクレオ・ソルの歌が出てくると聴きやすい。



『Today & Tomorrow』 10曲38分

Today & Tomorrow
最初に聴いてみたのはこれなのだが、自分の理解からは最も遠い一枚。歌は子どもたちによる合唱隊に任せている。理由は分からない。若干ファンクっぽいが、演奏と楽曲は極めてシンプル。ハードコアみたいな高速なパンクもある。



『AIIR』 5曲25分 

AIIR
どう発音するのか、題名通り『AIR』の続編的な位置付け。つまり、オーケストラによるクラシック作品。美しく明るい曲調、豪華な演奏で聴きやすさもあり、とても楽しめた。



『UNTITLED (God)』 21曲73分

UNTITLED (God)
タイトル通りゴスペル色が最も前面に出ている大作。ループしたり、切り貼りしたような編曲は明らかにヒップホップ以降の発想だろう。細かく聴いていくと、フォーク調であったり、やけにポップなもの、手紙の朗読みたいなものもある。


そして今のところの最新作が『Acts of Faith』と題された、1曲32分のアルバム。昨年末、最初で最後として行なったライヴで、この未発表だった作品を丸ごと演奏したようです。つい先月、期間限定(数日間のみ?)で無料ダウンロード配布されていて、気づくのが遅すぎた私は未聴のままです。現状では聴取不能。


最後に、ほぼ重複する内容ですが、自分の番組「熊谷悠一アワー」(コミュニティFM「渋谷のラジオ」)でSAULTを2回に渡って取り上げた際の記録を貼っておきます。

8/11 SAULT 小特集・前編


8/18 SAULT 小特集・後編



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