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温又柔『台湾生まれ 日本語育ち』

温 又柔  おん ゆうじゅう/Wen Yuju
『台湾生まれ 日本語育ち』(2015)


台湾に出自を持ちながら3歳から日本で暮らしている作家が、自身の言葉と向き合うエッセイ。
これは良い本だった。
読んでいるこちらも自分のルーツに思いを馳せることができた。
さらには、母語が自らの人格や考え方の形成にどれだけ深く影響するかも含めて、普段あまり意識することのない領域にまで連想が及ぶ。


著者のデビュー作『来福の家』(2011)を裏側から読み解く自己解説本のようにもなっている。
馬祖(バソ)という驚くほど中国に近い島々への研究旅行記もあるし、日本人ではないが日本語で小説を書いた先達たちへの敬愛を表す「恋文」にもなっている。


幼いときから日本で生活している作者にとって、自己認識としては日本人に限りなく近いのだろう。
しかし、書類上は間違いなく外国人。
運転免許の更新時には「外国人登録証明書」の提示が求められる。いや、それは常に携帯することが義務づけられているらしい。
投票権についても、日本では持っていないが、台湾での総裁選には一票を投じることができる。


祖父母の世代は、日本の占領下にあったため日本語を身につけた。
両親の世代になると、日本は敗戦し蒋介石の国民党が中国語を普及させる。
台湾語、中国語、そして日本語が混じり合う環境で育った作家は、自分の母語はそれぞれの言語にまたがっているという認識に至る。「ひとつの母語の中に三つの言語が響き合っている」、その過程を丁寧に追体験することができる。


執着とも言えるぐらいの言葉への粘り強い考察。
そうでなければ作家として立つことはできないのであろうが、言葉そのものへの信頼度も高い。


多くの文学作品も引用・紹介されているが、特にエイミ・タン『ジョイ・ラック・クラブ』、李良枝の諸作、龍應台『台湾海峡一九四九』は読んでみたいと思った。



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