見出し画像

GIGA時代の新しい中心概念?自己調整学習・AARサイクルとは?

お盆休みで1週休みましたが再開。
前回、OECD Learning Compass 2030の解説をしたので、今回はその中で紹介されている学習モデル:AARサイクルや自己調整学習について解説してみます。
※OECD Learning Compass 2030を解説したnoteは以下です。2nd GIGAを検討中の人は是非一度読んで欲しいです。


「令和の日本型教育」で重視された「自己調整の学び」

タイトルで「新しい」と書きましたが、概念自体は2006年の教育基本法改正で学びの主体性が強調されたことや、前の学習指導要領では「生きる力」のなかで、「自己調整」の趣旨は込められています。

ただ、明確に「自己調整」「自ら調整して」という言葉が使われ出したのは、2021年の中央教育審議会の答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して令和の日本型教育を目指して」からなのではと思います。

「令和の日本型学校教育」の構築を目指してより

6月に開催されたNew Educaton Expoでの堀田先生による基調講演でも「新しい中心概念」として「自己調整学習」が挙げられています。

OECD Learning Compass 2030で必要な学習プロセスとされているAARサイクルもほぼ同様の概念。これらが求められる背景などは、改めて前回のこちらを見ていただけたらと。

そんな自己調整学習やAARサイクルについて、簡単に解説してみたいと思います。

自己調整学習とは?

自己調整学習(Self-Regulated Learning)は、1980年代から教育心理学者であるバリー・ジマーマンらに研究され、広く認知された概念です。
自己調整学習は、3つの要素(動機付け・メタ認知・学習方略)と段階(予見・実行・振り返り)で説明されています。

要素:動機付け・メタ認知・学習方略

自己調整学習を行うために必要な構成要素は、以下の3つ。

  1. 動機付け(Motivation)
    学習に取り組む際の意欲や目的意識。学習者が達成したい目標を設定し、その目標に向かって努力するための内発的動機や自己効力感などを含む。

  2. 学習方略(Learning Strategies)
    学習者が学習目標を達成するために用いる具体的な方法や技術。ノートテイキングとる、予習をする、のような学習の方略を含む。

  3. メタ認知(Metacognition)
    自分の認知過程を意識的に監視・制御する力。学習の計画・実行時の自己モニタリング、学習後の自己評価などを含む。

段階:予見・実行・振り返り

3つの必要要素を踏まえ、自己調整学習は以下の3つの段階を繰り返すこものとされています。

  1. 予見(Forethought)
    学習が始まる前に行われる段階で、目標設定や学習戦略の選択を行う段階。加えて、学習に対するモチベーションや期待も形成される。この段階での計画が、後の学習活動に大きな影響を与える。

  2. 実行(Performance)
    学習活動の実践段階。予見に基づいて学習が進行し、同時に自己モニタリングが行われる。ここでは、選択した方略を実行しながら、進捗状況を確認し、必要に応じて方略を調整する。

  3. 振り返り(Self-Reflection)
    学習活動の後に行われる評価と反省の段階。学習の成果を評価し、目標が達成されたかどうかを確認する。この段階でのフィードバックは、次の学習サイクルの予見段階に活かされる。

AARサイクルとは?

ではAARサイクルはどのようなものか。
OECD Learnig Compass 2030で提唱されている「AARサイクル」は、自己調整学習と類似した概念です。
前回のnoteでも書いていますが、AARサイクルのAARは

  1. Anticipation(見通し)

  2. Action(学び)

  3. Reflection(振り返り)

を指し、これを繰り返す(サイクルする)モデルです。
自己調整学習が「予見」→「実行」→「振り返り」の繰り返しなので、言葉の意味合いに違いはあれど、ほぼ同じ。

先ほど図示したものとAARサイクルが描かれているOECD Learning Compass2030を比較すると

という感じ。
自己調整学習は内側に構成要素を書いていますが、AARサイクルは相互作用するコンピテンシー(≒資質・能力)が描かれています。

一瞬パクったのかと思ってしまいますが(失礼)

AAR サイクルは包括的または排他的であるとは定義されていません。むしろ、それは、経験学習の理論など、他のさまざまな学習理論やサイクルを反映しています。
The AAR cycle is not defined to be comprehensive or exclusive; rather it reflects a range of other learning theories and cycles, such as theories of experiential learning.

AAR_Cycle_concept_note.pdf (oecd.org)

とあるので、自己調整学習などの様々なモデルを踏まえて、より抽象化・一般化したものとしてAARサイクルがあると捉えても良いのだと思います。

また、前回紹介したOECD Learning Compass 2030で描かれているように、AARサイクルそのものは大きな目的として、個人と社会のウェルビーイングを置き、生涯に渡っての学びの在り方として抽象化・一般化したということもあるのだろうと感じています。

「今に必要な学び」なのは間違いない。が…

ざっと自己調整学習とAARサイクルについてまとめてみましたが、どう感じましたか?
「今の時代には必要な学び方であり、大人になっても有用で、子どものうち=学校で経験を深めて磨いて欲しい」と思ったのじゃないでしょうか。

はい、私もそう思っています。

一方で、前述した教育心理学者のジマーマンが出している「自己調整学習の理論 」の書籍のなかでは、社会経済的地位(SES)が低い=所得の低い家庭において、自己調整の学びの効果が出にくくなることについて考察されています。

所得の低い家庭では学習環境や社会的支援が相対的に少なく、かつ自己効力感が低い傾向にあることで目標設定や振り返りが適切に行われにくいこと、などが言及されています。

つまりは、放っておくと「できる子を伸ばし、できない子には効果が薄い」になる、ということ。格差を広げる要因にもなりかねない、と。

解決策として"先生"と支える"テクノロジー"

ただ、それは「放っておくと」なので、教育分野では多くの施策がそうなりがちとも言えます。

先生方の適切な支援・介入によって、自己調整の学びに関するスキルを社会経済的地位を問わず伸ばすことができることについての研究もあります。(例えばこんな研究
さらには、学習環境によって埋めることもできます。ICTなどの活用によって格差を埋めることを証明した研究なんかもあります。(例えばこんな研究

以前紹介した文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」で奈須先生が発表された資料では

教師の健全な意図性や指導性に基づく適切なガードレールを設けつつ、学校での学 びをオーセンティックとするにはどのような配慮をすべきかが、今後の課題である。

とあったのも、この辺りにおいての先生方の支援・介入の重要性を述べられてるのかな、と感じています。
※上記の詳細詳細については以下で解説しています

上記では、ICT・デジタルの学習環境が整うことにより、学びの選択肢が爆発的に増え・質が向上することについて議論されていました。
一方で、見通しをもって学び、振り返ることそのものをツールとして支援することも、ICT・デジタルの役割=GIGAスクール環境の価値なのでは、と感じています。

つまりは、自己調整の学びを効果的に実現していくには先生方の支援、さらにはICT・デジタルが活きてくるのでは、と感じています。
なので、GIGAスクール時代の新しい中心概念、ということが言えるのでは、と。

おわりに

ということで、自己調整学習・AARサイクルについての解説でした。

個人的には、自ら学びを調整して学ぶ経験って後々、より一層活きてくると実感しています。
自ら学びを調整していく経験が少ないことが、子ども時代もそうですが、結果として大人になっての格差に繋がりかねないな、と。

なので、学校での自己調整の学び=AARサイクルを支援するアプリを開発したりしている訳だったりします。そっちもどこかで紹介できたらと。

途中で述べた格差拡大の論点については、最近話題の「フィンランド教育の失敗:日本の詰め込み教育はそこまで悪いのか?」にも通ずるものがあると思うので、次回ではこの動画についての自分なりのリアクションを書いてみたいな、と思っています。

ではまたー。

付け加えで最後に宣伝を

自己調整の学びの必要性とそれをICTで支援する方法などもお伝えする予定のウェビナーを、8/29(木) 15:00-16:30で実施します!
単にGIGA端末の選定というだけでなく、GIGAの環境を踏まえたAARサイクルやデータ活用についても話そうと思っています。
教育委員会の方向けのウェビナーですので、興味持ってくださった方は是非、以下からエントリしてください!

急遽、文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」の委員でもある鹿児島市教育委員会 教育DX部長の木田先生にも登壇いただくことになっています。
GIGAの環境を通じた学びの構造転換やデータ活用について、情報提供や質疑応答を予定していますので、是非ご参加いただけたらと!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?