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コラム_「フィンディルの感想」がすごいという話と、作品の方角(note版)

こちらnote、こちらnote。小伏史央です。

このnote記事は「小説家になろう」に載せた上の記事の自己転載です。タイトルに付けた(note版)というのはそういう意味。
ちなみに「活動報告」というのは小説家になろうに備え付けられたブログ機能のことです。カクヨムでいうところの近況ノートですね。
ということで以下から本文です。

お久しぶりです

すんごく久々に活動報告を書きます。お久しぶりです! 小伏史央(旧・丁史ういな)です。
みなさんお元気にお過ごしでしたでしょうか……? 小伏は普段はツイッターとかそこらにいるのですが、なろうでしか交流がなかった人にとっては消息不明扱いだったかもしれません。小伏は元気です。

なぜ藪から棒に活動報告を出しているのかというと、なろうに掲載している拙作「ノア」(2012)を先日「フィンディルの感想」という感想サービスに応募し、このたび感想をいただいたので、そのことについて語りたくなったからです。なろう掲載作に関する出来事があったのでなろうでその報告を書いた。要するに口コミと自作語りですね。

フィンディルの感想とは

「フィンディルの感想」というのは文字通りフィンディルさんの運営しておられる感想サービスのことで、2年ちょっと経たないくらい前に始まりました。
フィンディルさんについてはこの記事を読んでいる方の中にはご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。「あなたのSFコンテスト」(2014)でも参加表明されてましたし、その際掲示板でいくつか濃い感想を寄せておられた方です。

そんな「フィンディルの感想」、すごいんですよ。
まず量がすごい。今回いただいた感想は約4万4千文字でした。応募した作品の4倍以上の分量。他の感想も自分が観測した範囲内ではすべて約2万文字を超えています。
なぜ量が多いのかといえば、深度がすさまじいから。どのようにしてその解釈にいたったのか、なぜ褒めるのか、なぜ指摘するのか。そのすべてを作者よりも深く掘り下げた末に論理展開されているため、内容の深さに比例して自然と文字数が増えているようです。今回の「ノア」の感想も、作者の想定とほぼ100%に近い精度の解釈を、作者の想定をはるかに上回る緻密な論理工程をたどりながら説明されています。

評論とはまた別の「感想」という創作ジャンルは、性質が性質だけに創作ジャンルとして認知されないことも多いと思うのですが、実際に書こうと思うとそこには明らかな技巧とメソッドを要します。(比較的)下手な感想は下手だし、(比較的)上手い感想は上手いという、小説と同じ原理が明らかに働いている。そんな事実を突きつけられる凄みを思わせてくれるサービスです。
だからこそ"感想サービス"と聞いてもあんまり食指が動かない層の作者をこそメインターゲットにしている感想サービスだろうなと思います。自分もそうでしたし。

pixivFanboxで支援を受け付けながら活動されているためここではリンクを貼れませんが、応募自体は無料でできます。ぜひ「フィンディルの感想」で検索してみてください。
※小説家になろうでは営利活動を行っているサイトへのリンクは貼れませんが、noteはそんなことないので貼りますね。
フィンディルの感想→https://phindillnokanso.fanbox.cc/
今回いただいた感想→https://phindillnokanso.fanbox.cc/posts/2449427

作品の方角

それと「フィンディルの感想」では方角という概念を導入して作品を分類してまして。この概念がすっごく面白いので紹介させてください。

小説と一口に言っても、最大公約数の読者に向けたエンタメ大衆小説もあれば、一部の読者にだけ刺さる鬱屈な感情をそのまま描き出したようなのもありますよね。また新たな手法を目指した実験的な小説もありますし。小説って色々です。で、それぞれ目指すところは異なるので、絶対的なひとつの基準で小説を見定めて感想を書くわけにはいかないんですよね。エンタメこそが正義という価値基準を持っている感想人が、エンタメ以外を目指した小説に「もっとエンタメにするためにはこうすればいい」という指摘をするのは意味がない。逆に言うと、エンタメ以外を目指している作者が、エンタメ作品へ向けた指摘を取り入れてしまうと、作品のコンセプトが曖昧になってしまうおそれがある。
おそらくそのような背景によって「フィンディルの感想」で導入されたのが、作品の方角と言う概念です。

ちょっと長いですが、方角についてのフィンディルさんの説明を引用します。

フィン感では、書いた作品に十六方位で方角を記しています。
この方角は、その作品の面白さの方向性を表したものです。

北:大衆的
多くの人に広く届く面白さを目指した、読みやすく、わかりやすい方向。
展開や構成などの技術を巧みに使い、作品の面白さを盛りあげます。
賞を受賞したい、多くの人に評価されたい、人気作になりたいのならば、北北西と北北東の間を向いていることが推奨されます。

西:昇華的
誰か(作者含む)の心に深く届く面白さを目指した、内面をそのまま抉りとったような方向。正負含めた心のエネルギーを創作にぶつけたような作品。
展開や構成のお約束を排し、リアルや余韻を追求し、昇華を経た作品も少なくありません。
昇華を経ていなくても、展開や構成のお約束を排した非作品的な作品は西に近づきます。

東:実験的
誰か(作者含む)の創作欲求を深く満たす面白さを目指した、独創性に尖った方向。
創作の新たな可能性を追求した、新規性に富んだ手法や構造の作品。
創作の面白さを再構築することが多いため、一般的な小説技術は敢えて排除されることが珍しくありません。

南:抽象的
何かに届くかもしれない面白さを目指した、感性が赴いた方向。
技術や理屈ではなく、感覚と観念が生みだした作品。
展開や構成などの小説技術はもとより物語要素すら除去し、文章や文体そのものに意味や価値を見出すことが一般的です。

以上のように東西南北に創作の方向性を配置し、それを十六方位で表現したものが作品の方角です。
――「総合点・方角の見方」2020.6より引用

面白いですよね。自分が書いてきた作品がどの方角を向いていたのか、たった今書いている作品はどこを向いているのか。そう考えながら書くと、よりクリアに自作が見えてくる気がしますし、コンセプトも明確になります。
拙作「ノア」は北北西です。基本的なエンタメの構成は踏まえつつ、主人公「ぼく」の感情の発露がメインになっていますね。

他にもたとえば、「年越し掌編集2020」の5作を見てみるならば、
「はじめまして」北北西
「備忘録」西北西
「ヒッチコックみたいにはなれなかったけど」北北西かつ北北東
「すいごはbaby」西南西
「その後の作者たち」北西
という感じでしょうか。

これがたとえばなろうに掲載している長編作品(いずれも2013年以前のもの)なら
「あむの憧憬」北東か東北東
「ぼくの兄貴は転がって」北北西
「ム」北北東
「妖精が創った人形」真北
「ぐだぐだ至上主義」真北
という感じ。(あくまで自分自身で判定してですが)

昔は西寄りも東寄りも同程度にたくさん書いていたのに対して、現在の小伏は西寄りが多めという自覚でいたのですが、上記の場合ぱっと見でもその傾向が表れていますね。もちろん掌編と長編とで条件は異なりますし、ここでは一部の作品を取り上げただけなので参考程度にですが。

おわりに

とまあこういう感じで、作品の方角という概念、面白くて便利なので、紹介させていただきました。
その源泉である「フィンディルの感想」も本当におすすめなので、ぜひぜひ覗いてみてください。

活動報告は以上です。
ではでは。またいつか!

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