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君の寝息

目が覚める、外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。
横には柔らかいおなかを上下させ、ゆっくりと呼吸をしながら眠る愛犬。

夜中の夜鳴きがウソのような、静寂につつまれた朝。
気持ちよさそうに両手を延ばし、静かに寝息をたてて愛犬は眠っている。


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「キャンキャン」愛犬の夜鳴きが始まった。
夜0時頃から2時くらいまで吠え続ける愛犬。

16歳になる愛犬の夜鳴きは、認知症が原因ではないか?と獣医師さんに言われている。
ただ、あることをすると一時的に夜鳴きはとまる。それは、「排泄」「水を飲む」「何かを食べる」この3つだ。

愛犬が吠えると、まず水を飲ませる。水を飲ませてから排泄をさせる。
そして、必要があれば何か食べ物を与える。

それでも愛犬の夜鳴きが止まらないこともある。
電気をつけると違和感を覚えるようで、できるだけ部屋を眠るときと同じ状態にしておく。
暗い部屋でソファーに座り、吠える愛犬を抱きしめ愛犬が落ち着くのを待つ。

「大丈夫だよ 何も怖くないから」

そう愛犬に話しかけながら、愛犬の冷え切った足を手で包み温める。
夜鳴きをしているときの愛犬の足は、緊張なのか恐怖なのか氷のように冷たい。

目を見開いて、空を見つめる愛犬。昼間には見せない表情を見せる。
愛犬の視線の先は、私の存在すら通り過ぎ、愛犬にしか見えない世界をひたすら観察しているように感じる。

少しずつ体の力が抜けていくのを両手に感じる。
そろそろ眠れるかな?もう一度愛犬に水を飲ませ、布団へ連れていく。
私も一緒に布団へ入る。
横で愛犬が横になる気配を感じ、今までの夜鳴きがウソのように愛犬は眠りにつく。

深夜2時、愛犬が眠る時間。


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カーテンの隙間から差し込む朝の光が、愛犬を照らす。
私はおもいっきり深呼吸をし、愛犬の匂いを体に取り込む。
「いいにおいだね」
愛犬の存在を感じ幸せな朝を迎える。

「おはよう」愛犬に話しかけると、少しだけ目を開いてこちらを見る。
愛犬はまだ眠いようだ。

愛犬の夜鳴きは認知症によるものなのかもしれない。
だけど私には愛犬の夜鳴きが「助けて、怖い」と聞こえてしまう。
いつか消える命の炎。それを感じ吠えているのではないかと思ってしまうのだ。

まだそばにいてほしい。どこへも行かないでほしい。

愛犬が寝返りをうつ。私の枕の上に顔を乗せて、相変わらず平和の象徴のような顔をして眠っている。

「君のことが大好きなんだ」
何度も伝えているこの言葉。

穏やかな時間と荒々しい時間が交互に訪れる今、愛犬は何を思っているのだろう。
君の温かさを感じながら、君との時間がこれからも続くことを願うしかできないでいる。

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