河童46

少しでも動けば斬りつける。
間合いと溜めをつくり倒れている河童をうかがい見る。
「・・死んでいる。」
坊主は顔を少し康介へと向け呟き、確認させるように身体を少し移動させる。
「確かに死んでいるように・・。」
康介の目からも絶命してるように見える。
「しんでいる。」
康介がそう呟くと、坊主も自分の判断に自信が出たのか外口に素早く動き、外れかけている鞘をしっかりと固定しなおして戸口がそれ以上開かないようにする。

倒れている河童の分だけ戸口は開いているが、それを動かしてまで戸口を閉める気になれなかった。
辺りは静かだ。蛙も鳴いてないなければ雨音もない。
事切れた河童の亡骸は濡れ土をまぶしたように汚れ生臭さを漂わせている。
やっと覚悟が出来たのか、坊主は河童の亡骸に近づいて、
「うん、しんでいる。」
判っている事を繰り返す。
坊主は立ち位置を変え見る角度を変え、生臭い土まぶしの死体を観察している。亡骸にはいくつもの刺し傷と斬りつけた切り口がわかる。
「これは間違いないだろう」
の言葉とともに倒れている娘に顔を向ける。
娘がつくった傷であろう。
それは解る。
その死体がここに。
その理由は簡単であろう。
河童の仕返しで間違いない。
「この亡骸を見よ。お前が殺した。死んだぞ」
仕返ししてやると言いたいのだろう。
青白く濡れた土まみれの死体を、坊主はじろじろと観察する。気味の悪い死体がある空間に慣れてきたようだ。
「シャーッ」戸口の外からしゃがれた叫びがする。
坊主は驚き「あっ」と尻餅をつく。後ろに倒れそうになりながら戸口の隙間に目を向けてみる。
死体のその向こう。淡い光と暗闇の境。蛙のようにしゃがみ尻を少しあげぎみで黒い目玉の不気味がこちらを睨んでいる。

死体と同じ気味の悪い生臭そうな生き物。目は黒く白目なく、頭は禿げた落武者のごとくまばらな髪の毛。華奢な身体で青蛙のような肌。唇は薄いのか無いのか。その口の中からは嘴のような歯茎を醜く見せ付け、こちらをじつと見ている。

坊主は顎が上がり息はとまり、後ろにのけぞる弱味を見せないように肚に力いれ、黒一色のめだまと睨みあうが「うっ」と思わず声を出してしまう瞬間がきた。
瞼が上と下にあるのか、同時に動き黒い目玉を二度三度とかくす。坊主の後ろからも声。
「なっなんと、瞼が・・。」
康介が驚きの声を静かにこぼす。
にらみ合いの均衡は河童の方から崩してきた。微かに頭を動かし刀に目をやると、ゆるりと身体を動かし横にずれ見えなくなってゆく。しかし顔は最後まで坊主に向け最後の最後まで頭は残して目を離す気持ちは、仲間の死の恨みは、許す気はないようだった。

自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!