河童63

「うっっ」
だからと言って、眼から目を離せずにいる。
ぶら下がる首へと、語りかけたいが言葉はなにも出てこない。
なんだか恐ろしさが沸き上がってくる。
絡み付く髪の毛を引き離そうとするが、右手で左手を広げようともするが、その指は動かない。
絡み付く髪の毛を切ればよいが、疲れと混乱のなかの坊主には、そんな単純な知恵も浮かんでこなかった。
なぜだろう。
坊主の指は震え始め、足も震え、唇も震え出した。
首から離れたく、しりもちのまま後ずさる。
が、首は間合いを離すことはない。腕に力は込めることもできず、絡まった髪の毛をどうするでもなく、絡まる髪に引きずられ
生首もついてくる。

娘の姿はどこへ。生首と連れになること、どれくらい経つだろうか。
「私は何を・・。」
ふらふらと立ち上がる。
「何をしたんだ。」
痛みあるのか無いのか。
ヨロヨロと立ち上がる。
痛みは麻痺し、今、腕を切り落とされても気づくこともなさそうだ。
「村の者たちは、・・河童との共存を選んだのか。」
村人にすれば、ここで生きていく限り、平和で暮らすことが一番の選択。
当然かもしれない。
「助けではなく・・儂らを葬りにきたのか。」

村人の生きてゆく最良の選択が、坊主の思考を乱してゆく。
大儀で戦に表向き、務めを果たし。
「大義はあるが殺め続けた日々が嫌で坊主になり、坊主になっても・・・生首とは縁を切ることがないのか。」

まだまだ若い血気のあるときより、血も縁は切れず。手柄とばかりに生首も褒美にかえてきた。
「生首とは縁なのか」

どれ程歩いたのか沼が見える。
近づき中程に目を向けると、見覚えある着物が浮いている。
「娘の・・着物だけ・・」
辺り見回しても着物だけ。
「沈んだか。・・河童に引きずりこまれたのか。」
広さのある沼だが、深さはいかほどか。
「あの下に沈んでいるのか。」
浮かぶ着物に目を向け手を合わす。
坊主は口の乾きを湿らせようと沼の縁にしゃがみこみ、水面に顔を近づけた。
「うっ」近づける顔をとめてピクリとのけぞる。
左手に巻き付く髪の毛が、生首を呼び寄せる。
忘れていた。
「まだ共に歩いていたか」
転がり現れた生首は半眼で坊主を見つめてくる。



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