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勝てば官軍(浦和1-2町田)

開幕してすぐの頃にこんなツイートをした。

まさか、ここから2か月以上経った16節においても未だに快進撃が続き、J1の首位に立っているとは露ほどにも思わなかった。

DAZNではチェックしていたが、相手クラブがイライラするこの町田の戦いぶり、スタジアムで見なきゃと思っていたものの日程が合わずようやく今節の浦和×町田@埼スタにて初の黒田政権町田を現地観戦。
浦和からすると絶対相容れない大嫌いな戦い方だろうし相当荒れる試合になるだろうと思っていたが、想像以上の展開だった。

先に言っておきます。これから過激かつ批判的な表現が多々でてきますが、全部、町田を褒める意図で使っています

試合を見ていてとにかく「初志貫徹」というキーワードが出てくる。チームとしての狙い、戦い方が明確、全員が共通認識をもち、ブレなく戦う、見事に統一された組織だった。
プレスはとにかく激しくいく。ファールも厭わない。特に前線からの守備は強烈にやり、選手交代が行われても選手個々の色よりもチームとしての決まり事を重視し同じことをキッチリやり続ける姿。

この激しい削り方は前々からお馴染みだが当然浦和ゴール裏から何度も大ブーイング。それに町田は全くひるまず、手を緩めずに続けるばかりか、とにかく相手の神経を逆撫でするプレーをしてくるのが凄い

ゴールキック時にはFW2トップのオセフンと藤尾がPA内ギリギリで待機し、浦和GK西川とCBとのパス時に一瞬で詰める狙い。西川が蹴る前にPA内に侵入して注意されるような場面もあって、この執拗に狙う姿を目の前で見ている浦和ゴールからは大ブーイング。
浦和の選手・サポーターの平常心を保たせないよう、心をかき乱す戦い方。

浦和のセットプレークイックスタート時にはすかさず邪魔をしてオセフンがショルツを倒す、ぶつかり合いで激しすぎる接触でファール判定時にはCBチャンミンギュが「こんなんでファール扱いか」と思いっきり不満を露わにする、仙頭は安居にレイトタックルでイエローをもらう、下田は足裏気味にグフタフソンに突っ込んで削りイエローもらう(※)……、様々なイラつかせ方を繰り出してきてその多彩さ、引き出しの多さに感服してしまった。そしていずれも全く躊躇せずに与えられたミッションとして遂行しているのが凄い
(※)攻め手のキーマンであるグフタフソンが途中から投入されるや否や、下田が躊躇なく足裏気味に突っ込んでいった。キーマン投入で攻め手の幅を広げる浦和の狙いをいきなり潰しに行く方針。グフタフソンは「レッドだろ」と猛抗議。

この日、ブンデスリーガから派遣されたドイツ人の国際審判員のシュテーゲマン主審がカード乱舞しないレベルでとどめる狡猾さもあった(警告は仙頭と下田のみ)。

この相手の平常心を消して自分達の土俵に持ち込む戦い方のうち、特に印象に残ったのは浦和CBショルツへの対応。

後半、ミッチェルデュークと平河の見事な連携で抜け出した場面を、味方の尻拭いでショルツが平河を後ろからゴール前で削ってしまい、珍しくイエローカード提示。
守備の要であるショルツにカードが出たことを踏まえ、その後投入されたFWエリキはショルツを苛立たせる削り方を行い、更にはポジションどりの中でショルツからファールを受けたとピッチに倒れこむ等、あの手この手でショルツを精神的に追い込んでミスを誘う・または二枚目のイエローカードを誘発しにいく徹底的な詰め方。
この実に嫌らしい心理的な攻め方、黒田監督は本当に恐ろしい狙いをしてくる。

そしてこの執拗なショルツ狙いはアディショナルタイムに、抜け出したナサンホをショルツが倒してしまいPK献上という形で結実した。
下田北斗がきっちりPKを沈めて、埼スタで見事な1-2の勝利。

サッカーというのはここまで幅広く心理的なあやをつけて相手を揺さぶることができるのか、
勝利至上主義を突き詰めるとここまで嫌な小技を繰り出せるのか、
Jリーグでのオーソドックスな戦い方とは一線を画すやり方でここまで結果を残せるのか、
サッカーは選手個々の能力や組織的な戦術の他にも、こうやって相手を飲み込んで上回ることができるのか、
黒田政権町田の実に嫌な戦い方、勉強になった。

これをJリーグの各タイトルを獲得したJ1常連クラブではなく、J2から初昇格してきた町田が行い、今節の浦和含め並み居るタイトルホルダーを次々に倒しているのが信じられない。町田より戦力で上回るはずなのに、敗れ去る。
こんな順位は誰も予想できなかった。

浦和のヘグモ監督はヨーロッパで30年近くの監督キャリアを持ち、母国ノルウェーでの年代別代表監督までも経験した監督で、対する黒田監督はアジアの日本だけでアマチュア指導歴のみの監督。
キャリアだけを見たら、まさか前者が後者に負けるわけがないと思ってしまうような状況で、自分達のペースに引きずり込みアウェーで勝ってしまうのだから本当にサッカーというのは奥深い。
アマチュア指導歴のみの監督が、ヨーロッパでキャリアを持つプロの監督を心理的な駆け引き等で上回って勝った。

負けた相手側はフラストレーション爆発して町田のサッカーに対し
「こんなのサッカーじゃない」
「サッカーの本質をはき違えている」
「長続きするわけがない」
と言うに決まってるのだが(実際、埼スタからの帰り道で吐き捨てるように町田を批判する浦和サポーターと何人かすれ違った)、
その町田のサッカーで首位に立っている事実が何より重い。

日本サッカーの未来や育成だとかチャカチャカしたことをかなぐり捨てて、とにかく目の前の一戦に勝つ姿勢。勝利至上の権化。
ある意味ACLでのような異質な戦い方、Jリーグに慣れていると面食らう戦い方。不快極まりなかろうと、こういうチームがあっても全然良い。
この町田に屈しているようではアジアの舞台で勝つこともできないとも思えるし、ある意味アジアに出る前の門番とも思えてきた。

J1初年度で文句なしの結果を出していることは素晴らしいし、相手側がこれだけ怒りを溜める内容を悪びれなく続けている度胸も凄い。
まだ一巡目は終わってないが、確実に今年のアウォーズで黒田監督に何かしらの賞が与えられると思う。それほどのことをしでかしている。

黒田監督コメント
「また首位ではありますが、これを維持しようとか、弱気になって戦うことは、先頭集団が団子状態になることに繋がるし、平凡なチームにはなりたくないと、ここでもう1つ力を発揮することが今後の首位争いに影響してくると伝えて、選手たちを送り出しました。」

(試合後にサポーターの皆様から監督の誕生日をお祝いするハッピーバースデーが歌われました。それを聞いた感想は)
「2,000人の方々が詰め掛けて下さった中で、相手のサポーターにも負けない声援を送って下さったと思っています。ハッピーバースデーが聞けたことはこの上ない喜びですし、感謝の気持ちでいっぱいです。また埼玉スタジアムで聞けるのはなかなかない機会ですし、浦和のサポーターの方々が試合の雰囲気を作って下さったことにも感謝をしたいと思います」

https://www.zelvia.co.jp/match/game/255711/#report

(最後に、もう一つ気になったのは酒井宏樹。急激に劣化してしまったというか、あれだけ良い形でボール受けて抜け出したのにクロスが決定機に繋がらない姿はとても残念だった。ここ数年、無理をしすぎて手術に踏み切ったり完治しきってない中で無理やり出場をしたことで選手生命が急激に短くなっているように思えてしまう…。)

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