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お引越し

オバケ「うらめしや~」
わし「は?」
オバケ「うらめしや~」
わし「意味わからん」
オバケ「えーと、何が?」
わし「うらめし? 裏のメシ? なんやそれ? 俺は先週ここに引越してきてん。おたく、前の住人の方? なんで退居してへんの? 今までどこにおったん?」
オバケ「え、いや、あの……」
わし「そういうことやさかい、居すわるつもりやったら警察呼ぶで!」
オバケ「私を見て怖くないですか?」
わし「白い服着て、頭に三角のへんなのつけて、意味わからんこというてるし、確かに怖いわな」
オバケ「いや、そういうことじゃなくて、えーと、はっきりいいます。私、幽霊です」
わし「ん?」
オバケ「幽霊でございます」
わし「誰が?」
オバケ「わたくしが」
わし「……」
オバケ「……」
わし「うそーん、絶対うそやー」
オバケ「嘘じゃないですって!」
わし「証拠ある?」
オバケ「え?」
わし「証拠。あなたが幽霊という証拠」
オバケ「ないです」
わし「はい、論破」
オバケ「ちょ、ちょ、待って。本当に幽霊なんです。5年前この部屋で首吊ったんですよ。信じてくださいよ」
わし「へー、首吊ったんや?」
オバケ「信じてくれました?」
わし「んー、まだ弱いな」
オバケ「弱いってなんですか」
わし「証拠というには……。物的証拠が欲しいな」
オバケ「物的証拠!? 幽霊に物的証拠を求めますか、あなた!」
 * * *
大家「この部屋なんですけどね」
学生「いい感じの部屋ですね」
大家「本当にここでいいんですか?」
学生「ええ、僕はそんなの全然気にしないほうなので」
大家「こっちは、まあ助かるっちゃ助かるんですけどね。5年の間に2人でしょ。永遠に開かずの間になるかと思ってたんですよ。あなたに3カ月も借りてもらったら事故物件だっていわなくてよくなるからね」
オバケ「え?」
わし「ひどい大家やな」
オバケ「いやいや、ちょっと待って。あなたの姿、大家さんと学生さんに見えてないみたいだけど……」
わし「見えてへんやろな」
オバケ「なんで?」
わし「先週、そっちの世界へ引っ越したんやわ」

◇  ◇  ◇

平藤清刀/創稿舎
https://www.foriio.com/soukousha


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