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だだっ広い芝生しかない公園で


5月のゴールデンウィークの最終日、僕はローカル電車に乗り込み芝生が広がる公園へと一人で向かった。
芝生と言っても雑草が多く混ざったその公園は小高い丘の中腹にあり、隣には県立大学が建てられていた。
遊具などは一切置かれていないだだっ広いだけの公園だったが、それでも子供連れの親子が沢山来ており、野球やらサッカーやらバトミントンなどをして遊んでいた(公園の注意書きにはボールやバットなどで遊ぶ事は禁ずるよう書かれてはいたが)。
僕はその喧騒からは少し離れた木陰に小さなレジャーシートを引き、用意してきたサンドウィッチをビニールの手提げバックから取り出した。
僕には特に趣味と言えるようなものはないが、休日に自分の食べたいものを丁寧に作るという作業は好きだった。
今日作ってきたサンドウィッチは、6枚切りの食パンを半分にカットしてマスタードとケチャップを薄く塗り、卵をバターで半熟に炒ったものにマヨネーズと黒コショウを和えてサンドしたもの(僕はこれを〈大人の玉子サンド〉と呼んでいる)と、コンビーフに粗微塵切りした胡瓜を合わせ、辣油を数滴垂らしてサンドしたもの(こちらは〈中華風コンビーフサンド〉と呼んでいる)だ。
僕は電車を降りた駅の近くのコンビニで購入した、冷えた赤ワインのミニボトルのスクリューキャップを開けて、そのまま口をつけてひとくち喉を湿らせた。
大人の玉子サンドにかぶりつくとちょうど正午のチャイムが鳴り、遊んでいた人達もおのおの芝生の隅の方へ移動して、お弁当を広げ始めた。
僕はサンドウィッチを食べ終わると、タッパーに詰めてきた自家製のピクルスのようなものを齧った。
胡瓜と蕪とミニトマトとオレンジ色のパプリカを適当なサイズに切り、市販の白だしとオリーブオイルでマリネしたものに鷹の爪を加えた簡単なものだ。(これにはまだ名前はつけていない)
食事を終えた子供達が芝生の上を走りまわり、転げまわる。
平和な光景だ。
僕は連日報道される、とある国による侵略‐破壊の映像や、観光船の沈没事故の事が頭に浮かべた。
でも、こんな平和な場所では現実感などまるで感じられることなく、ふわふわと溶けて消えてしまう。
こんな事じゃいけないと心で思ってはいても、暖かい木漏れ日と5月の爽やかな風には抗うことができないでいる。
心地よさに負けて僕は芝生の上で横になる。
目を瞑った僕の、意識の遠くの方で子供達のあげる楽しそうな声を認識する。むせ返るような芝生と土の匂いに包まれる。
やがて自分の体が土に埋まっていくような錯覚と共に、眠りに吸い込まれてゆく。
夢の中で、これまで出逢ってきた女の子達が交互に現れる。
みんな口々に「あなたは大丈夫よ、心配ない、あなたならちゃんと一人で生きていけるから」と言ってくれる。ある女の子は僕の手を握りながら。またある女の子は僕の頭を撫でながら。そしてまたある女の子は僕のペニスから唇を離しながら。
僕は夢の中で、これは夢であると認識しながらも、涙が出そうになる。僕の夢に現れる女の子達はいつでもみんな優しいのだ。
突然の突風で目が覚める。
芝生で遊んでいた親子は次々と帰り支度を始めている。
僕も起き上がろうとしたが、ジーンズの中のまだ硬いままでいる僕のペニスが邪魔をして起き上がれず、また芝生の上に横になる。
帰って行く人達をぼーっと見つめている。
明日の仕事の事が頭に浮かび、一瞬いやな気持ちになる。
このまま芝生の下の土に本当に埋まって眠り続ける事ができればいいのになんて考える。
上を向いて空を眺めると、青い空に少し灰色がかった雲が風に流され、一瞬のあいだ大陽を隠して通り過ぎていった。



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