見出し画像

◆遠吠えコラム・「どうする家康・第4話『清州でどうする』」・「ツンデレ姉弟、素直になれなくて、戦国」(※画像は高野山持明院蔵「浅井長政婦人像」

 更新が遅れてすみません。今回の「どうする家康」第4話「清州でどうする」のキーパーソンはお市の方ですよね。戦国無双っていう、戦国時代の武将とか姫が出てきて敵兵をバッサバッサ切り倒していくアクションゲームがあるんですけど、そこで登場する女性キャラの中でお市の方が一番好きでしたね。さて、今日はそんなお市の方とその兄貴、織田信長にまつわる話です。遠吠え行ってみよう!
 
 泣く泣く今川家から独立した松平元康(演・松本潤)は、宿敵・織田信長と同盟を結び、対今川戦、三河平定戦へと突入していくことになる。来る大戦を控えた第4話は、元康=竹千代を巡る素直になれない男女の物語が描かれていた。

 1人目の素直になれない男は、織田信長(演・岡田准一)。今川義元の生首をやりに引っ提げて登場した第1話のシーンに象徴されるように、織田信長といえば残虐で、恐ろしいイメージがある。こうしたイメージを補強するように、第4話冒頭でも、信長に会いに行く水野信元が腰を抜かしてしまったり、先に頭を下げてなるものかと強気で臨んだ元康がついつい気おされて頭を下げてしまうシーンが描かれていた。映画「マッドマックス:怒りのデスロード」みたいな尾張国の世界観や、紫禁城みたいな清州城がいかにも「第六天の魔王」らしい。

 そんな魔王信長だが、竹千代(松平元康の幼名)に対してはどこかやんごとなき思いを抱いている様子だ。第4話では、信長の妹で、「天下一の美女」といわれた「お市の方」(演・北川景子)が登場した。

 「戦国無双」ではけん玉を武器に戦う姿が印象的なお市だが、ドラマではなぎなたをふるって戦う端正な美女だった。前クールの「鎌倉殿の13人」の巴御前のような雰囲気もただよう。そんなお市を、岡田准一演じる信長は、なんと、元康に嫁がせると言い出すのだ。この時代の婚姻は政治的・軍事的同盟の側面もある。「喰ってやろうか」と脅しながら、まさかの「最恵国待遇」だ。

 史実上のお市の方は、近江の浅井長政と結婚している。この婚姻は、美濃の斎藤氏との硬直した抗争を打開するため、織田方から持ち掛けた軍事同盟だったとされている。お市が結婚した時期は未だ詳しくわかっていないそうだ。近年では、歴史小説家安倍龍太郎氏が、お市は実は家康とも婚姻関係にあったのではないかという仮説を唱えている。

 真偽は定かではないが、信長が元康と同盟を結ぼうとした理由は、浅井長政との同盟と似ていて、美濃の斎藤氏との抗争時に、背後となる三河国の憂いを払っておきたかったからだといわれている。ドラマではあんな涼しい顔して元康の前に現れていたけど、当時の信長は結構大変だったようだ。だって相手は美濃のマムシ・斎藤道三を倒した斎藤義龍だから。「俺の白兎」にはなんとしても味方となってほしかったんだろうな。かといって信長も、「斎藤との戦に専念するため」と正直に言ってしまえば、逆に元康らに足元を見られてしまう。元康との同盟は信長にとっては「蜘蛛の糸」のようなものだったかもしれないけど、素直になれない事情があったんだろう。

 兄妹はやはり似るものなのか、素直になれないのは妹のお市も同様だった。市は、駿府にいる妻子を助ける決意を固めようとしていた元康の前に現れ、「私は強い男が好きじゃ。竹千代のようなか弱い男など嫌いじゃ」と、婚約破棄を申し出る。振り返った時の市の目には、涙がにじんでいた。幼少期の市は、兄のような強い人になりたくて、兄の背中を追っていた。兄信長はそんな市を自分から遠ざけていた。恐らくだが、妹を傷つけまいとするためだろう。市が泳ぎの訓練の臨もうとした時も信長は止めた。市は兄の目を盗んで泳ぎの訓練に臨むが、おぼれてしまう。溺死しかけた市を助けたのが、竹千代だった。兄信長も気づいていた通り、市は、元康に惚れていた。市が本当に好きなのは、兄信長のような、強い男などではない。竹千代=元康のような、「優しい男」なのだ。竹千代は、駿府の妻子の窮地を知って、大恩ある今川家に戦いを挑む決意をする。その姿は、市がかつて惚れた優しい男そのものだ。だからこそ市は、惚れた男の思いを尊重して、竹千代のことをきっぱりあきらめようと思ったのだろう。切ないぜ。

 市は浅井長政と結婚するが、紆余曲折あって兄信長と対立することとなり、夫に先立たれてしまう。夫の死後は織田家に庇護され、信長の死後には柴田勝家(演・吉原光夫)に嫁ぐ。第4話に登場した、小窓から覗いていたあのひげ面の大男だ。ストーカーみたいだったけど、あれは「垣間見」といって、恋する男はみんなああやって惚れた女性のことを陰ながら見守っていたらしい。そして手紙を書いたり和歌を送ったりするらしいぞ。気持ち悪いね。そんな柴田勝家だが、後に羽柴秀吉(演・ムロツヨシ)との抗争に敗れて亡くなる。市もこの時の抗争に巻き込まれて死んでしまう。市は強い男に嫁いだばっかりに、悲運の生涯をたどることとなる。「強い男が好き」なんて言わず素直に「優しい竹千代が好き」って言ってたら、日本の歴史は少しだけ変わっていたかもしれないな。

 そんな素直になれない兄妹の薫陶を受けた元康はというと、信長亡き後に織田家を差し置いて台頭した羽柴秀吉と戦うことになる。羽柴秀吉は本能寺で信長が亡くなった後、信長の筆頭家老だった柴田勝家を滅ぼす。そして信長の次男信雄の弱体化を図ろうと画策する。元康は、そんな秀吉と戦うのだ。市が第4話の最後にこう言う。「兄上が心から信を置けるお方は、あの方一人かもしれませんよ」。竹千代は亡き信長や亡き市(とその夫柴田勝家)のため、強大な敵に立ち向かうぞ。優しい男はかっこいいぜ。

【参考文献】
・小和田哲男「徳川家康 知られざる実像」(2022年、静岡新聞社)

この記事が参加している募集

#テレビドラマ感想文

21,860件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?