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飛行機雲がかかる”町”、とおくから「ストッピング〜」と聞こえた気がした

空のキャンバスに指で描くような白い飛行機雲
どうやって飛べば雲ができるのか君が突然僕に聞いた
どうしてなんだろう 僕も知らなくて答えに困ってたら
あれは飛行機の涙じゃないかな 君がポツリと言った

日向坂46『飛行機雲ができる理由』より


今回の『日向坂で会いましょう』は、もうひとつのシングル発売恒例であるMV解説企画【7thシングルカップリング曲「飛行機雲ができる理由」のMVをみんなで解説しましょう!!】を行った。今回は傑作とも呼ばれている『飛行機雲ができる理由』のMVを解説していく。

舞台は1970年代。取り壊しが決まっている女子寮に住む女学生たちの最後の数日のお話。

6/20放送『日向坂で会いましょう』内での佐々木久美さんの発言より

わたしはこのMVを見た時に「日向坂46は”町”になっていくのかもしれない」、そう直感した。当シングルの活動をもって迎える渡邉美穂さんの卒業も関係するこの直感は、わたしの未練をゆるやかに納得させてくれるものでもある。

アイドルにとって”卒業”とはなんだろうか。アイドルが所属する運営母体には基本方針があって、リソースに限りがある。それは業界最大規模の坂道グループであってもだ。したがってアイドルグループがもつ許容量にも限界があると考えている。例えば影山優佳さんのサッカー仕事、あるいは齊藤京子さんの歌手活動など、アイドルの成長に伴い個人がグループの許容量を超えたり基本方針に沿えなくなる時期は必ずやってくる。アイドルにとって卒業という選択肢は、モラトリアムからの出発の自覚であり、成長をエンタメ化する文脈においては一人前に成った称号でもある。わたしはそう解釈している。

だからわたしは卒業というイベントは前向きでポジティブに捉えている。めいっぱい祝福して、これからの活躍を心から願っている。しかし、だ。頭でどれだけ理解しようとも心はそう上手くいかないようにできているもので。なんとも難儀だ。

これから吐露するのは、いまだに直角三角形の通知に怯えるヘタレの、渡邉美穂さん、いや、メンバー全員の日向坂46からの卒業に対する駄々だ。制作者の意図などはほとんど注入されない、わたしの一方的な想像・空想・妄想・こじつけであることに留意いただき、どうか優しいまなざしでお付き合いいただければ幸いだ。

なぜ”町”なのか。

陽だまり寮に暮らす女学生たちは、それぞれの胸に夢や希望をもち、志を同じくした仲間たちと共に過ごし楽しそうに暮らしている。これはかつてのけやき坂46であり、その後、2期生、3期生と新たな住人が転居して今の賑わいになったのだろう。この建物は当時のけやき坂46の要素を抽出した「ハッピーオーラ」から少しづつ築き上げられた日向坂46というグループの隠喩だとおもった。

それから時は流れ、陽だまり荘取り壊しの知らせが届く。これはつまり、「約束の卵」と銘打ち、長年目標に据えていた東京ドーム公演を2022年にようやく成功させたグループが迎える転換期にいる日向坂46というグループの在り方やメッセージの解体・再構築と重なると捉えた。このことは『BRODY 2月号 日向坂46”1期生全員集合”スペシャル』内のインタビューでも語られているようにメンバーの認識とも奇しくも一致していた。

影山「これからは個が集まった時に何十倍も輝けるグループになりたいんです。」
久美「「ハッピーオーラ」に代わるキャッチフレーズをつくる必要はないと思うんです。 (中略)  多様性のあるグループになりたいと思っています。」

『BRODY 2月号 日向坂46”1期生全員集合”スペシャル』p.48より

このMVが切り取った数日間というのは、グループ活動で懸命に暮らしていた女の子たちがグループを頼らずとも自立できるほどに成長し、22人の総量が手狭なキャパシティをいよいよ越えようとしている、まさにその時である。日向坂46が迎える転換期とは、影山さんの言葉を借りるならば、個が集まった時に何十倍も輝けるグループを目指し、裏を返せば、グループの外で活動をしていく個々のフェーズへと移行していく時期のことだ

わたしが思う”町”というのは、取り壊された陽だまり寮から旅立った彼女たちが、それぞれに住まいを構えてまた日々を暮らしていく地域のことを指す。一人暮らし、ルームシェア、それぞれのカタチで多様に暮らしていくけれど、コミュニティの付き合いは変わらない。それこそがわたしが感じた「日向坂46は”町”になっていく」ということだ。

さて、このMVにはもうひとつ、わたしの駄々に優しく付き合ってくれる要素があった。それは小坂菜緒さんが大切に、愛おしそうに構えるカメラだ。

物語のはじまり、うとうとと居眠りをする渡邉美穂さんを小坂さんはカメラに収めた。それからの小坂さんは1枚、また1枚と次々にメンバーにカメラを向けてはシャッターを切っていった。まるで今しかない愛おしいこの瞬間を保存するかのように。

このMVはまるで思い出そのもののようだ。みんなで遊んだフラフープやトランプ、時には長蛇の順番待ちができるたった1台しかないピンクの公衆電話、どこからか流れてくるラジオの声やギターの音色、寮の前に飾られた花の香り……陽だまり寮とのお別れ会

たとえば、駐車場になってしまったかつてよく遊んだ公園だった所や帰り道に嗅いだホットスナックの混ざった夜の匂い、わたしたちにも追憶させてくれる何かが、この『飛行機雲ができる理由』にはたくさん刻み込まれている。そして今この瞬間も刻々と刻み込まれていく。

折り合いのついた感情は思い出になってモノや場所に染みこむ。日向坂46が町になり、誰かの思い出が染みこめばここはその人にとっての故郷になる。だからわたしは救われるのだ。卒業への堪らなく寂しい気持ちも、土着信仰や記念碑によって保存されることで、渡邉さんだけじゃない、これからのメンバー卒業への寂しさをもそっと寄り添って和らげてくれるとおもうから。

『日向坂で会いましょう』だってそうだ。おふざけ混じりのMV解説、独特なストップボタン、演者やスタッフたちの笑い声。渡邉さんの卒業が発表されてからじわじわと募っていた喪失感もひっくるめて、今回このMV解説企画この曲で行ったことで、『飛行機雲ができる理由』は『日向坂で会いましょう』も思い出として保存してくれた気がする。たぶんそれが懐かしいと思えてくるのは卒業からしばらく経って、偶然この曲に再会したとある日だろう。耳にすることで再会を約束してくれたからこの曲は素晴らしい。

渡邉さん出演が最後のひなあいなんてどうやって見届ければいいんだろう。因縁の相手・春日さんとの対決などをして明るく楽しくて笑える企画だったらいいな。でも逆に、もっと淋しくなってしまいそうだ。でも大丈夫。わたしには『飛行機雲ができる理由』がある。

つい熱く語ってしまった。所どころ読みづらい箇所もあったと思いますが、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

今週も『日向坂で会いましょう』おもしろかったですね。

おしまい。




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