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日向坂文庫2021#22(佐々木久美×吉田修一『ひなた』)

noteを開いていただきありがとうございます。

ちゃすいです。

今回は佐々木久美さんが表紙となる、吉田修一さんの『ひなた』の感想を書いていこうと思います。


主な登場人物については以下の通りです。

・新堂レイ:Hの広報で働く。大路尚純の彼女。
・大路尚純:新堂レイの彼氏で、大学4年生。実家暮らし。
・大路桂子:大路浩一の妻。出版社で編集に携わっている。
・大路浩一:大路桂子の旦那。信用金庫に勤める。




1.あらすじ

新堂レイ、大路尚純、大路桂子、大路浩一及び周りの人々が織りなす日常において、想いや葛藤を抱えつつ過ごした1年を追った作品。




2.感想(ネタバレあり)

読んでいて個人的に物凄くグサッと刺さる作品でした。

例えば「大路桂子の冬」においては、彼女の母が朝、夫と娘を送り出した後、なぜなんの不安もなく帰りを待っていれるのか、また安心していられるのかという疑問を投げかけていました。

恐らく何気ない日常が色々な出来事、家事や育児などなどで埋もれていた時には何の疑問も思わなかったけど、ふとしたときに、なんかよく分からないけど疑問に思ったのでしょう。

なぜ安心して生き、かつ家族の帰りを待っていられるのか

家族の身に何かあるかもしれないということはもちろん、夫が急にリストラされて生きていく糧を失うかもしれない。
急に何か大きな出来事があってこれまでの平穏な暮らしが崩れるかもしれない。
急に夫から愛されなくなるかもしれない。

家にいられなくなると、生きていくことが困難になるでしょう。
そういったリスクはあるにも関わらず、安心して家族の帰りを待っている。


突き詰めると、なぜ生きているのかや、なぜここに居るのかといった問いにまで発展してきそうなので、ここでは深くは考えませんが、こういう漠然とした不安を抱えたとき、どう対処したらいいのでしょう。

悩みの解決の方法として、人に話すとか紙に書き出してみるなど色々検索すれば出てくるでしょうし、そもそも答えの出ない問いに悩まされる必要もないのかもしれません。

と頭の中ではわかっても、実際はどうしてもずっと頭の中に残ってぐるぐるしてるんですよね。
思い切って何かに没頭して悩む余白を埋めてしまうか、思い切り時間を取って考えに考えるか。
どちらかに極振りするしかなさそうですかね。


とここまで書いていて思ったんですが、以前長嶋有さんの『ぼくは落ち着きがない』の感想のところで「『ぼくは落ち着きがない』のように基本的に同じ登場人物(今回であれば望美)視点で、かつ大きな場面の変化がないものは、そういう読む際の視点が少なくとも私ちゃすいには無いために、読むのに苦労してしまいます。」と書かせていただいたんですが、読みづらい理由がなんとなくわかった気がします。

恐らくですが、余白があるからなのかなと思います。
前回の東川篤哉さんの『学ばない探偵たちの学園』では笑いが多く、ふと本から離れて考えたり物思いにふけることはありませんでした。

しかし『ぼくは落ち着きがない』や『ひなた』は日々の暮らしの中の様子が描かれており、ふと登場人物の言動について考えてみたりする余白があるために、読み進めるのに時間がかかるのかなと。

他にも理由はありそうですが、1つ理由が見えてたのはいい傾向ですかね。



さて作中のラストにおいて、大路桂子と大路浩一が家の前で出会う場面があります。
その中で「自信はないけど、ここにいたいんだよね」とお互いに不安を打ち明けます。

上手く言葉にできませんが、何かにしがみついていたいというか、何ができるか、何をしてあげられるかわからないけど、今いるこの場所を失い孤独になることへの恐怖が表れているのかなと思うと、心に来るものがありました。

突飛ではありますが、もしこういうことを言う人がいたら「いていいよ」と言える人間になりたいなと。




とまあこんな感じでしょうか。

ふとした瞬間に実は安定しているように見えて実は不安定な状態にいるのではないか、自分はどうしていたいんだろうかといったことを否応なく考えさせられる作品だったかなと思います。

また月日が経ってから再度読みなおしたい作品です。



そして今回で日向坂文庫2021の感想シリーズが終了です。

お読みいただきありがとうございました。

私ちゃすいが勝手に始めたことではありますが、noteを始めるきっかけとなった「日向坂文庫2021 冬の書店デート」フェアを開催してくださりありがとうございました。

日向坂46において本好きである小坂菜緒さんや宮田愛萌さんが、ブログなどで紹介されていた本は少しだけ読んだことがあったのですが、基本的にこれまであまり小説は読んできませんでした。

そんな私ちゃすいにとって、今回のフェアは色んな本(世界)や作者の方と出会うことができるものでした。

シリーズ化されていて、続編があるものもありますので、今後も読み進めて気が向いたら感想を書いていけたらと思います。


拙い文章ですが、読んでいただいた方々ありがとうございます。

それでは失礼します。





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